第2回目は、食にうるさい福岡の大人たちがわざわざ足を運ぶ、和食の実力店をご紹介します。九州の豊かな食材を美味しくいただく、その意味でもゲストを案内するにふさわしい1軒です。

店の名前は『白金にし田』

天神から南へ車で数分、中央区白金の路地に小さなあかりを灯しています。通常は完全予約制でランチのフルコース(¥8000~)や夜のおまかせコース(¥12,000~)を提供する正統な和食店ですが、少し遅い時間に限り、酒と一緒にコース料理をアラカルトでいただけるバータイムがあるのです。仕事の都合で食事が遅れる場合や、選りすぐりの日本酒と美味しい肴を楽しみたい上級者にこそ「夜のアラカルト」はオススメ。さぁ、艶やかなひとときをどうぞご一緒に。

出汁に始まる物語

福岡県「白金にし田」外観
福岡県「白金にし田」外観

無駄を削ぎ落した潜り戸のような門構え、店内には8席のカウンターと個室が二間。シンプルに飾らない空間は、料理としっかりと向き合える落ち着いた雰囲気です。店主の西田慎吾さんは、福岡の伝説的な名店『手島邸』で腕を磨き、その後『博多水炊き とり田』で料理長を務めた才能豊かな若き大将。九州はもちろん、全国から取り寄せる旬の食材をどう奏でてくれるのか、客の期待に応えるべくコース料理で西田さんが最初に振舞うのは、お猪口に張った引き立ての一番出汁です。

福岡県「白金にし田」の出汁
福岡県「白金にし田」の出汁

底に家紋を描いたお猪口で差し出される一番出汁。直前に薄削りの鰹節をさっとくぐらせて香りをプラスします。

昆布と鰹節からとる出汁は、薄削りと厚削りの2種類の鰹節を合わせることで旨味と甘味を引き出したもの。「どうぞ」と差し出される澄んだ出汁を美しく愛でると鰹節の香りがふわりと鼻をくすぐります。そして沁み渡るやわらかい滋味、これが物語のプロローグ。「わざわざ足を運ばれるお客様に喜んでもらうため、自分が思う“美味しい”を素直にお伝えしたい」という店主の、挨拶代わりの一杯です。

福岡県「白金にし田」カウンター
福岡県「白金にし田」カウンター

上質な和食の新スタイル

「旅はするものですね」と西田さん。「外に出ると色々と見えてきます。食事の楽しさや九州の良さも」。アラカルトをやりたいと思ったのも、福岡にない豊かさに旅先で気づいたからだそう。「早い時間に動けない方も多いですし、仕事終わりに数品でも和食の丁寧な料理を食べてもらえたら」と、夜22時以降にコース料理をアラカルトで楽しめる粋な遊び心を用意。それは焼き物、煮物、お造り、炊きたて土鍋ご飯など、

その日の仕込みから客の希望に合わせて一品ずつ手作りする究極のおもてなし。酒もまた料理に合うマリアージュで、全国の銘酒を店主自らセレクトしてくれます。

そんな「夜のアラカルト」を楽しめるのはカウンターのみ。席数に限りはありますが、店主やスタッフとの会話が料理と酒の美味しさに深みを加えます。味わいに舌鼓しながら旬の食材に向き合い、仕上げていく板場を眺めながら静かに杯を重ねるという幸せ。上質なひとときを楽しめる大人にこそ教えたい、福岡の夜を豊かにする新しい和食との付き合い方です。

また、遅い時間だからと諦めないで。当日の夜20時までに連絡すれば、1日の終わりに極上のおもてなしが待っています。

福岡県「白金にし田」の「夜のアラカルト」
福岡県「白金にし田」の「夜のアラカルト」

この日の「夜のアラカルト」お通し3種。地元でもほとんど手に入らないという純米酒「勝駒」(富山県)で始めます。グラスは上品なもずく酢。口当たりの良い沖縄産の細もずくに岩牡蠣を潜ませて。手前の皿はホタルイカの酒盗焼きとホワイトアスパラ。黄身酢を纏った和風マヨネーズで。奥の兜の器には京都の九条ネギとバイ貝のぬた和えを。それぞれに「勝駒」のコシがあるのにすっきりした味わいが良く合います。

福岡県「白金にし田」のお造り
福岡県「白金にし田」のお造り

本日のお造り。梅雨時期が旬のイサキは長崎産。程よく炙ることで香ばしさと脂の旨味がまとわるほどの美味しさに。右は京都舞鶴産のとり貝の炙り。白身のクエはほぼ一年中が旬のように身がしっとり、唐津産のウニを包むようにしていただきます。手前の小皿には中トロのヅケを。つけすぎない加減が好みです。

福岡県「白金にし田」鰻を白焼きと蒲焼き
福岡県「白金にし田」鰻を白焼きと蒲焼き

九州産の鰻を白焼きと蒲焼きで。肉厚の鰻を一度蒸した後に丁寧に炭火焼きするので本当にふっくら。外はカリッと仕上がっています。鰻を捌くときに出る骨は鍋で炊き出しておいて、蒸し汁に含まれる脂の旨味と一緒に蒲焼きのタレに合わせていくのだとか。蒲焼きの美味しい理由も納得です。

また白焼きと蒲焼きのそれぞれに合わせて日本酒もセレクト。白焼きには鮮烈な旨味の「山間(やんま)」無濾過生原酒(新潟県)を、蒲焼きにはふくらみのある特別純米「安東水軍」(青森県)を合わせながらゆっくりと楽しみます。

福岡県「白金にし田」店主の西田さん、スタッフのみなさん
福岡県「白金にし田」店主の西田さん、スタッフのみなさん

「出汁は基本。うまいが一番」とシンプルな想いを突き詰めて食の魅力を引き出す店主・西田さんを中央に、美味しいもてなしをいただいたスタッフの皆さん。

問い合わせ先

  • 白金にし田 TEL : 092-522-8525 (完全予約制)
  • 営業時間/12:00~14:30(入店~13:00)、18:00~23:00(入店~21:00) ※夜のアラカルトは22:00~24:00(20:00までに要予約) 定休日/日曜 席数/20席
  • メニュー/ランチのフルコース¥8,000~、夜のおまかせ¥12,000~、夜のアラカルト1,000円~(一品ごと好みに合わせて。夜のおまかせの半額ほどを目安に)※すべて税抜
    住所/福岡県福岡市中央区白金2-11-30

この記事の執筆者
TEXT :
鳥越 毅さん 編集家
2017.12.16 更新
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走