パリの超一流ブランドのメゾンを経て独立したセルジュ・アモルソ氏は、ビスポークレザーグッズのみを手がける数少ない皮職人だ。現在でも多くのセレブリティを顧客に持ち、裁断から縫製まで、オールハンドメイドで独創的なレザー製品をつくりあげている。パリ市内のアトリエを取材した。

橋梁下のアトリエから職人技のバッグを世界に向けて発信する

 1階は、ブティック兼レザーを裁断するアトリエで、ロール状のたくさんのレザーがストックされている。2階部分は縫製を行うアトリエ。裁断はすべてアモルソ氏が手がけるが、以後の縫製はひとりの職人が最後まで担当する。

 つまり、ひとりの職人の気持ちがこもった一点となるわけだ。アトリエにはでき上がったばかりの見事なバッグがいくつも並んでいるが、ワインのマグナムボトルが2本入るトートバッグ、建築家がオーダーしたボディバッグなど、どれも顧客の要望を形にした一点もの。オーダーから完成までは、約6か月を要する。短い期間ではないが、でき上がりを想像しながら待つのも、また楽しいものだ。

ブティック兼アトリエの1階で作業するセルジュ・アモルソ氏。彼はここで顧客を迎え、また、作業を行う。訪れる人はデモンストレーションのように、彼の作業風景を見ることができる。日本からわざわざ訪れる顧客もいるそう。
ブティック兼アトリエの1階で作業するセルジュ・アモルソ氏。彼はここで顧客を迎え、また、作業を行う。訪れる人はデモンストレーションのように、彼の作業風景を見ることができる。日本からわざわざ訪れる顧客もいるそう。

 「フォルム、ボリューム、カラー。どれひとつを取ってもおろそかにできるものなどありません」

 表と裏でレザーを変える、カラーリングの美しさもファンが多い理由。たとえばメンズのブリーフケースは、表がグリーンで裏が茶色、または表がグレーで裏がパープルなど、彼ならではのシックなセンスだ。
 また、彼は、世界から珍しい素材を探し、ユニークな作品を生み出すのも得意としている。

 たとえば、クロコダイルでもマットやツヤありなど様々な種類をそろえ、彼だけのエクスクルーシブ素材もあるほど。

「いちばん好きなのは神秘的なマットクロコダイル」だが、レザーだけではなく、チタンやマンモスの牙、隕石(!)をも組み合わせたりもするというのだから、驚きだ。こうしたユニークさはもはや職人というよりも芸術家と呼ぶにふさわしいだろう。過去にはチタンを使った旅行用キャリーバッグ、時計を20本以上入れるガルーシャ張りの収納ボックスまで製作するなど、その独創性は鞄職人の枠を軽々と超えている。

広いブティック兼アトリエの1階。手前がブティックで、奥には顧客を迎えるためのサロンが設えられている。顧客のためのプレゼンテーション用のレザーも無数に用意されている。
広いブティック兼アトリエの1階。手前がブティックで、奥には顧客を迎えるためのサロンが設えられている。顧客のためのプレゼンテーション用のレザーも無数に用意されている。

 意外にもフランス国内での販売店はここだけ

職人がバッグのハンドルを手縫いでかがっていく。目で確認しながら微妙な曲線部分をしっかりと、手早く縫い付けていくが、機械よりも正確で美しい縫い目の仕上がりには舌を巻くほど。革の芯を入れる、実に古典的な製法である。
職人がバッグのハンドルを手縫いでかがっていく。目で確認しながら微妙な曲線部分をしっかりと、手早く縫い付けていくが、機械よりも正確で美しい縫い目の仕上がりには舌を巻くほど。革の芯を入れる、実に古典的な製法である。
マグナムボトルのワインが2本入れられるバッグ。重さに耐えられるように頑丈かつ軽量で、エレガント。日常に一流品を使う、美意識の高さを感じさせる逸品。このような完全なるカスタムメイドがアモルソ氏の真骨頂だ。
マグナムボトルのワインが2本入れられるバッグ。重さに耐えられるように頑丈かつ軽量で、エレガント。日常に一流品を使う、美意識の高さを感じさせる逸品。このような完全なるカスタムメイドがアモルソ氏の真骨頂だ。

「量を増やすと質が落ちる。どの製品もいい状態でここから出てほしいので量は増やさないんですよ。オーダーメイドのアトリエで、このクオリティとサービスを提供しているのはうちくらい。それがアイデンティティの強さに結びついていると思っています」 

最もカジュアルな、ショッピングバッグのようなクラフトバッグ。バイカラーが目を引く
最もカジュアルな、ショッピングバッグのようなクラフトバッグ。バイカラーが目を引く

 何よりクオリティを重んじる姿勢は、彼の作品を見れば明らか。伊達男たるもの、日常に使うものにこそセルジュ・アモルソのバッグのような、粋で確かな品質の逸品を選びたいものである。

この記事の執筆者
TEXT :
安田薫子 ライター&エディター
BY :
MEN'S Precious2016年夏号「この力強さを見よ!新しきパリのダンディズム」より
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は料理と健康とワイン。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。
公式サイト:Tokyo Now
クレジット :
撮影/小野祐次、宮本敏明 構成・文/安田薫子 構成/山下英介(本誌)
PHOTO :
小野祐次、宮本敏明
EDIT :
山下英介(本誌)
EDIT&WRITING :
安田薫子