日本が世界に誇る高級メンズ靴ブランド3選

 日本の靴作りは、やや低い位置に腰掛けた職人たちのひざの上で、多くの作業が行われる。取材時は、アッパーにスキンステッチが施されたUチップ『勘三郎』の底づけが行われていた。手縫いの職人から届いたアッパーは、インソール(中底)とともに、木型の形状に沿ってつり込まれる。通常なら、つま先のつり込みにはトウラスターという機械を使うのだが、『勘三郎』の場合は、職人が手作業で行う。スキンステッチが施されたアッパーは、つり込む際に繊細な力の掛け方が必要となるので手作業のほうが美しくつくれるからだ。革をつまみ釘で打ちつけて木型に固定し、釘を外して力を逃がす、その作業が繰り返される。こうした手技の感覚、熟練の技術は、グッドイヤーウェルトのミシンがけから仕上げまで、三陽山長の上質な靴づくりに徹底されている。

日本の靴ブランドの維持とプライドが世界基準の革靴を提案

三陽山長 オックスフォード革靴

現代日本人の足の特徴を加味した、木型『R2010』を使用のモデル『匠一郎』。ほどよい丸みのトウシェイプやくびれた土踏まずから漂う、巧みな仕事。ステッチのないアッパーの曲線が織りなす、美しいシルエットだ。¥90,000(三陽山長 銀座店)
現代日本人の足の特徴を加味した、木型『R2010』を使用のモデル『匠一郎』。ほどよい丸みのトウシェイプやくびれた土踏まずから漂う、巧みな仕事。ステッチのないアッパーの曲線が織りなす、美しいシルエットだ。¥90,000(三陽山長 銀座店)

 欧米の高級紳士靴に比肩するクオリティの日本製の既製靴を目ざし、山長印靴本舗としてスタートしたのが前身。スキンステッチを施したUチップモデル『勘三郎』などで一躍注目を集めた。

 2001年、三陽山長としてリスタートして以降は、日本の高級既製靴を代表する存在となっている。各モデルに冠されたユニークな和名が示すとおり、日本的な美意識や職人性を反映した靴づくりを行う。『匠一郎』も代表的な一足。アッパーに縫い目を出さないレベルソという仕様は、匠の技を粋な感覚で具体化したものだ。

大塚製靴『ボタンブーツ』

黒のカーフに、グレーのスエードを組み合わせたボタンブーツ。古くは礼装用の靴として、日本の名士たちが愛用した。本格的な顔立ちとエレガントなたたずまいは、圧倒的な存在感を放つ。¥76,000(大塚製靴〈シューマニュファクチャーズ オーツカ〉)
黒のカーフに、グレーのスエードを組み合わせたボタンブーツ。古くは礼装用の靴として、日本の名士たちが愛用した。本格的な顔立ちとエレガントなたたずまいは、圧倒的な存在感を放つ。¥76,000(大塚製靴〈シューマニュファクチャーズ オーツカ〉)

 1872年(明治5年)創業。その後明治天皇の御靴や陸海軍の靴の製造を手がけ、日本随一のシューズブランドとなった大塚製靴。その伝統を受け継ぐモデルが、この『ボタンブーツ』である。

 別名、グランパブーツともいわれるこのスタイルは、ひも靴などに先んじて、近代紳士靴が成立する際に生み出された。明治30年、前身の「大塚商店」が製作したカタログのトップページに登場しているのだ。今や英国などでもその技術が途絶えつつあるボタンフライのブーツは、日本の老舗の技術によってしか実現できない、世界的にも稀有の既製靴である。

宮城興業 セミオーダー革靴

靴の内側はまっすぐに、外側をカーブさせた木型によって、絶妙なはき心地のモデル『YOUKIHI Ⅱ』。はき口を下げて、くるぶしが当たらないように工夫している。¥56,000(ワールドフットウェア ギャラリー 神宮前本店〈ミヤギコウギョウ〉)
靴の内側はまっすぐに、外側をカーブさせた木型によって、絶妙なはき心地のモデル『YOUKIHI Ⅱ』。はき口を下げて、くるぶしが当たらないように工夫している。¥56,000(ワールドフットウェア ギャラリー 神宮前本店〈ミヤギコウギョウ〉)

 山形県南陽市に自社工場を持つミヤギコウギョウ。創業1941年、これまで数多くの著名ブランドの靴づくりを担い、多彩なスタイルや製法の靴を実現。カスタムメイドの「謹製誂靴」など、自社生産の利点を生かした取り組みも行ってきた。

 ミヤギコウギョウの靴は、あえて正統的な靴を展開することで、高い技術力を印象づけている。カスタムメイドのノウハウを反映した、日本人の足を念頭に置いたバランスのいい木型。アーモンドトウ、絞り込んだウエスト部分や靴底の仕様は、往年の英国高級既製靴を思わせるでき映えである。

 以上、日本が世界に誇る3大靴ブランドを紹介した。イタリアやイギリスの靴にも負けない日本の名靴を、ぜひコレクションに加えてほしい。

※価格はすべて税抜です。※2015年夏号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
BY :
MEN'S Precious2015年夏号 志高き「日本ブランド」を知っているか!?
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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クレジット :
撮影/戸田嘉昭・小池紀行、辻郷宗平(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材)  スタイリスト/武内雅英(code) 文/菅原幸裕  構成・文/矢部克已(UFFIZI MEDIA)