ジェントルマンの母国をひとつだけあげるなら、それは英国ということになるだろう。100年を超える伝統となり、今も着られているジェントルマンのスーツ姿が確立したのは英国。かたやフランスは、「モードの帝国」として、芸術としてのファッションを、主に女性の装いに寄せて発展させてきた。そんな自由フランス的なムードのなかで、ルールとマナーを何よりも大事にする英国的ファッションは窮屈にも見えたろう。ところが最近、伝統的なプロトコルを背景にして、抑制されたおしゃれを楽しむことの面白さが昨今のフランス・パリで一般化してきたようだ。従来のクラフツマンシップのみならず、ファッションの新しい動きも見逃せないパリ。ここでは新たなるスーツブランドから髭事情まで、男臭く、それでいてダンディなパリジャンたちが注目するトピックスを厳選して4つ紹介する。

パリのエレガンスを追求した雑誌、その名も「ダンディ」

ロレンツォ・チフォネリ氏が表紙となっている「ダンディ」誌と、兄弟誌である靴専門誌「ポワンチュール」。「ダンディ」誌は年5回刊、「ポワンチュール」誌は年4回刊

『ダンディ』誌は、モードだけではなくライフスタイルをベースにした男性のエレガンスの本」と編集長で発行人のイヴ・ドゥニ氏。決して時代遅れにならないスタイルを重視し、チフォネリやベルルッティをはじめとする靴やスーツの老舗アトリエの魅力や、映画やアートなどのカルチャー、自動車といったライフスタイルを取り上げ、粋な趣味人の生き方を提案する。読者層は、他誌が25~35歳と若いのに対し、25~60歳までと幅広い。リーマンショック時、他誌はチープ路線へと編集方針を変更したが、「ダンディ」誌は逆にリュクスへと大胆に舵を切り成功をおさめた注目誌だ。「ダンディ」編集長で発行人のイヴ・ドゥニ氏。自動車の専門誌からキャリアをスタートし、船、シガー、時計の雑誌を手がけた後、2002年に「ダンディ」誌を創刊。この日の装いは、ハートウッドのビスポークスーツとマルク・ギヨのネクタイ。

パリジャンのあいだで髭ブーム、復活!

隣のセレクトショップは、上質なカジュアルが中心。
住所/96 rue du Faubourg Poissonnière 75010 Paris 
TEL:+33(0)1.40.16.40.20 
営業時間/10:00~19:30休日/日曜日 
http://www.vbarberandshop.com 
どのようなスタイルにしたいか、髭をあたりにきた顧客に要望を聞いた後に、櫛とはさみでていねいにカット。「自分でやるのとは、当然、仕上がりが違うからね」と常連客のニコラは満足。

数年前まで、バルビエ(髭そり店、床屋)はパリで1、2軒にまで減っていたのだが、ここにきて髭のブームが再来! ツーブロックの髪型にあご髭というスタイルがパリジャンのあいだでブームとなっており、新たなバルビエがいくつも誕生している。その代表店「V.B.S.」は、男性の身だしなみを語り合う場所として、バルビエにメンズのセレクトショップを併設。髭のケアではまず、オイルと熱いタオルでトリートメントをすることから施術をスタート。櫛とはさみでていねいに形を整える。ブティックでは、フランスでエクスクルーシヴ販売するカジュアルブランドをそろえ、髭のケア用プロダクトも販売している。

移動式テーラー、「スーツトラック」、走る!

Suit Truck ショールーム
住所/9 rue de Palestro 75002 Paris
TEL:+33(0)1.72.34.87.05
営業時間/9:00~21:00 休日/日曜日※要予約 
http://www.blandindelloye.com

ビスポークスーツ&シャツ店「ブランダン&デロワイエ」が、「スーツをつくりに世界の果てまで行くのはもう終わり。今日からショールームがあなたのもとにうかがいます」と、スーツ、ジャケット、シャツ、コートのオーダーメイドの受注をトラックで行う「スーツトラック」を今年9月からスタート!英国のコージーなサロン風の内装を設えたトラックで、ラ・デファンスはじめフランスの主要なオフィス街に赴き、1時間ほどかけて顧客の要望を聞き、採寸する。彼らはクラウドファウンディングを活用して、目標額12,000ユーロを超える資金を見事調達した。このトラックのおかげでフランス中の男性のファッションがシックに向上するかも?

パリのスーツダンディが始めたニューブランド

Husbands
住所/8 rue Manuel 75009 Paris
TEL:+33(0)9.67.25.01.92
営業時間/11:00~19:00
休日/日曜日
http://www.husbands-paris.com
基本的にプレタポルテだが、素材を変えるなどが可能。

ハズバンズのオーナー、ニコラ・ガバール氏は、異例の経歴の持ち主だ。弁護士になった後、友人とコミュニケーション会社を立ち上げるが、ファッションへの情熱が捨てがたく友人に会社を譲り、このブランドをスタートした。正統派を愛するガバール氏が選ぶ生地は、最高級のイギリスやアイルランド製。だが、単に伝統を復刻するのではなく、ボディにフィットしたカッティング、空調の向上を計算に入れた生地選びなど、現代人に合わせたデザインを提案。「チェルシーブーツやマリンニットを合わせたり、スーツほど自由に着こなしを楽しめる服はない。ミックスで自分のスタイルをつくるのがパリのダンディズムです」。
ニコラ・ガバール氏は、「スーツほど着心地のいい服はない」と、子供を連れて公園に行くときも、ヴァカンスで旅行するときも、必ずスーツ姿という根っからの数寄者だ。

いかがだろう、様々なバリエーションを誇るフランス・パリの今を知ることは、必ずや日本人のおしゃれにも影響を与えるはず。是非、先取りして経験してみてほしい。

この記事の執筆者
TEXT :
安田薫子 ライター・エディター
BY :
MEN'S Precious2016年夏号「この力強さを見よ!新しきパリのダンディズム」より
パリ在住のライター&エディター。MEN'S Preciosu本誌では海外の工房を取材やイタビューなどを担当。著書に『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』がある。
クレジット :
撮影/小野祐次、宮本敏明 構成・文/安田薫子 レイアウト/大塚將生 構成/山下英介(本誌)