その関係は明治維新に始まり、列強の一翼として日英同盟の締結へ、先の大戦では敵国として、現在は先進国首脳会議で席を同じくする仲と、めまぐるしく変わってきたイギリスと日本の関係。1868年に始まる日本の開国・欧化政策に大きな影響を与えてきたのが、イギリスだ。以来150年以上に渡るイギリスとの政治・文化の紐帯は、首都・東京に深く刻まれている。
さて、パスポート無しでイギリスに行けることを知っていただろうか? 正確には、本国・イギリスに勝るとも劣らないリアルな体験ができる場所、ということなのだが、東京にはそんなメニューがたくさん用意されている。イギリス名物のロンドンタクシーや、フィッシュアンドチップスを始め、都内でリアルなイギリス的が体験できる13の方法を、紹介したい。
【その1:ロンドンタクシーに乗る】
ロンドンでは辻馬車に代わり、20世紀初頭から導入されたタクシー。大戦後オースチン製の黒塗装車両が登場し、「ブラック・キャブ」の名が定着した。帽子着用で乗れる天井高、対面座席などの仕様は今も継承されている。東京の互助交通では「想い出タクシー」としてブラック・キャブを導入。車椅子のまま乗車可能で、バリアフリー性も備える。
■Gojo Koutsu 互助交通「想い出タクシー」
ブラック・キャブのノスタルジックなスタイルと、車椅子やお年寄りにも優しいユニバーサル・デザインから名付けられた「想い出タクシー」。予約は3時間以上から。
TEL:03-3635-3911(受付7:30~20:00)
【その2:バーバー(理容店)で寛ぐ】
かつて数多くのジェントルメンズ・クラブが存在したセント・ジェームズ~メイフェア(ロンドンのシティ・オブ・ウェストミンスターに属する地区)界隈には、紳士たちのグルーミングの必要性から、香水店や理髪店が軒を連ねた。メイフェアの「アルフレッド ダンヒル」本店「ボードンハウス」にもバーバーが併設されている。銀座本店でもこの伝統を受け継ぎバーバーを導入。イギリス流ホスピタリティの真髄が味わえる。
■THE BARBER AT ALFRED DUNHILL 「アルフレッド ダンヒル銀座本店」
「ザ・バーバー」バーバーの椅子は、特注した革張りのものを使用。リラックスした環境でのグルーミングで、紳士が誕生する。シェービングのみからコースまでメニューも多彩。
住所:東京都中央区銀座2-6-7
TEL:03-3562-1765
営業時間:11:00~20:00(日曜は19:00まで)
【その3:英国調の仕立てを求める】
イギリス性を感じさせるテーラードスタイルとは何か。そのひとつに、チャールズ皇太子やウィンザー公が好んで着用したダブルブレステッドのスーツが挙がるだろう。大きくターンするピークドラペルのボリューム感と、ドレープとボタンの位置関係など、研究を重ね行き着いたスーツには、日本人が着用してもなお薫る、イギリス由来の美が備わっている。
【その4:ビスポーク靴を誂える】
ビスポークの靴づくりにおいて、今なお中心地であるロンドン。100年を超える歴史の老舗から21世紀創業の新鋭までいくつものビスポーク靴店が存在し、数多の職人たちが靴づくりに携わる。その中には日本人の姿も多く見られ、現地の靴づくりを担う一方で、日本で靴店をおこす職人もいる。イギリス靴の伝統は継承され、世界に広がっているのである。
【その5:ヴィンテージの服を探す】
かつてイギリスにおいては、祖父や父の服を引き継ぎ、仕立て直して着用することは、ごく普通のことだった。着古しなじんだ服は、使い込んだ陶器のように、本来備えている内容以上の価値があった。父親や祖父の時代に着られたイギリスの古着に親しむことは、昔日の服の質の高さだけでなく、イギリスのよき習慣をいくらかでも味わう行為といえるだろう。
DAVIDS CLOTHING デイヴィッズ・クロージング
OLD HAT 「オールド・ハット」
【その6:イギリス靴店の雰囲気に浸る】
■Lloyd Footwear「ロイド・フットウェア」
1980年より、英国ノーザンプトンのファクトリーが手がけるオリジナルの靴を展開してきた老舗靴店。現在は銀座にて営業。
東京都中央区銀座3-3-8
TEL:03-3561-8047
営業時間/12:00~22:00 年末年始休
【その7:ブライドルのバッグを選ぶ】
日本で手に入れるブライドルレザーのバッグ
牛革にロウを染み込ませて強度を高めたブライドルレザーは、その名のとおり英国では馬具に使われ、その堅牢度ゆえにバッグなどにも使用された。現在、日本の鞄づくりにおいて、この革を使ったバッグは製鞄技術のひとつの到達点となっているようだ。高い技術を盛り込んだブライドルレザーの鞄は、英国を範としつつも、日本のクラフツマンシップを色濃く反映している。
【その8:革製サドルに跨がる】
使い込んでこそ光る正統派バイクスタイル
世界各国でバイク(自転車)熱が高まる中で、日本でも自転車愛好家は増えた。その中には、自転車が本来備える「美しさ」を追求する姿勢も多く見受けられる。たとえばクロモリ(クロームモリブデン鋼)のフレームにドロップハンドルの、クラシックなランドナースタイル。そのサドルには、使い込まれた革製のものがよく似合う。19世紀よりサドルづくりを手がける英国ブルックス社は、不変のスタイルゆえに高く支持されている。
【その9:英国製ソファを堪能する】
イギリスならではの家具
ホテルのロビーからパブのフロアまで、イギリスではさまざまな場所で、座面に無数のボタンを配した革張りのチェスターフィールドソファを見ることができる。この形が生まれて200年、今では世界各地で同様のソファが製作されているが、イギリス製のものは革を留める鋲の打ち方やボタン部の革の重ね方など、伝統の技法による独自のディテールがあり、ここで扱われるチェスターフィールドソファは、その点を踏まえて製作・展開されている。
【その10:バーにてスコッチを飲む】
英国人デザイナーが手がけたスコティッシュな空間
1973年にオープンしたホテルオークラ東京の別館。その1階には「バー ハイランダー」が当時の内装そのままに営業している。英国人デザイナー、ケニルワース男爵が手がけた空間は、スコットランドの進軍太鼓を使用したテーブルや敷き詰められたタータンチェックの絨毯など、スコッチの故郷スコットランドを強く感じさせる。
【その11:パブにて交歓する】
渋谷という街のためのイングリッシュパブ
渋谷で営業して21年になるという「オールゲイト」は、東京に集う外国人たちの社交場となっている。ブリティッシュロック好きゆえに英国スタイルのパブをオープンしたというオーナーの花香裕之氏。常時21種の生ビールを楽しむことができる、アイリッシュパブが多い東京で希少なイングリッシュパブである。
【その12:本場の味とスタイルを日本で味わう】
イギリス人なら毎週必ず食べるというフィッシュ&チップス。店名のマリンは156年前にジョセフ・マリンがはじめてフィッシュ&チップスの店を構えたことにちなんで名付けられた。National Federation of FishFriers認定の、「正式な」フィッシュ&チップスを提供する、日本では珍しい専門店である。
【その13:英国式建築に親しむ】
都心で味わう、英国を思わせる光景
ロンドンの街並みには100年以上の歴史ある建物が数多く残るが、東京にもまたかつての英国を彷彿とさせる場所がいくつか存在する。明治維新後、日本政府の要請で来日した建築家ジョサイア・コンドルが手がけた旧岩崎邸庭園もそのひとつ。コンドルの設計によるコロニアル様式の洋館と芝庭の組み合わせは、都会にいながら、カントリーハウスの気分を、ひととき、味わうことができる。
イギリスを満喫するための13のアイデア。実践するのはとても簡単だ。是非トライして、東京に居ながらにしてイギリス気分を味わってみてはいかがだろうか?
※価格はすべて税抜です。※価格は2016年秋号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 菅原幸裕 編集者
- BY :
- 2016年秋号 東京にて英国紳士を気どる13の方法より
- クレジット :
- 撮影/平郡政宏(モデル)、小池紀行(パイルドライバー/静物)、橋本裕貴(取材) スタイリスト/村上忠正(モデル)、齊藤知宏(静物)ヘア&メーク/YOBOON(coccina) モデル/Trayko 構成・文/菅原幸裕