大きなターミナル駅を擁する上野から、活気に満ちたアメ横でつながる御徒町、その先には国内外から多くの人が訪れる秋葉原。商業・観光の地としてにぎわうエリアの中に、周囲の喧騒が届かない一角があります。
通りにはオフィスとして機能するビルばかり、そこに建つ古民家を目にしたら、「こんなところに!?」と必ずや驚くはず。堅牢な木造建築は、現存するのが奇跡と言えるほど。そんな建物を再生させたレストランが、この【KUFUKU±】です。
日本の風土が育む伝統食材をフレンチの技法で再構築
からりとガラス戸を引いて店に入ると、古い柱や梁はそのまま、所々に配されるのは桶や鉢など使い込まれた調度品。歳月の流れが刻まれた空間に、華やかな彩りをもたらすのは、竹中誠治シェフが手掛ける料理です。
メニューリストを見れば、パテドカンパーニュやサーモンミキュイが並ぶ正統派フレンチ……と思いきや、へしこに千枚漬け、塩麹といった意外なワードが随所にある、ひと筋縄ではいかないラインナップ!
聞けば竹中さんは、日本を代表する豪華客船「飛鳥Ⅱ」にシェフとして乗船し、乗客の舌を楽しませてきたのだとか。1度の航海で100日を越えることもある船上で、幅広い年代の人々を飽きさせないため、フレンチはもちろん、和食に中華、さらにクルーズで巡る世界各国のエッセンスを取り入れて料理を振舞っていたそうです。そして下船し、改めて日本を眺めたことで、いまなお継承される伝統食や風土が育む食材に着目しました。
例えば、有機農法を取り入れる千葉の柴海農園を訪れ、作業を手伝い、市場に出回らない葉や花まで味わったからこそ完成した野菜のひと皿。
あるいは、日本古来の調理法「発酵」によって旨みを存分に引き出し、体に優しく仕上げたメニューも。自家製の千枚漬けに南米の代表的なメニュー「セビーチェ」を合わせた、ミックスカルチャーも楽しい!
害獣として駆除されるのみだった屋久鹿は、肉はもちろん、血や骨まで取り寄せて余すことなく使い切るように。屋久島の自然を守りつつ、命を享受することについて探求したメインディッシュに。
これからも、知る人ぞ知る生産者、伝えていくべき郷土料理や伝統食材を発掘していきたいという竹中シェフ。経験に裏打ちされた技術によって、新たな一品が生まれていくはず
蔵の中はワインセラーに!こだわりのラインナップが評判
オリジナリティが光る料理をぐっと引き立てた、お酒のペアリングも魅力のひとつ。シェフソムリエの金澤善幸さんが提案するのは、ワインをはじめ日本酒、カクテルなど多岐にわたります。
特にワインのセレクトは、生産量に限りがある日本のワイナリーのもの、その土地に根付く在来種のぶどうを使ったもの、世界各国の自然派ワイン等々、作り手の思いが込められたものばかり。
食前から食後まで金澤さんにお任せして、ゆるりとお酒を楽しむのもいいけれど、これぞという1本を相談して決めたいならば2階にあるワインセラーに案内していただけます。このセラーが一見の価値あり! 重厚な戸で守られた、蔵を改装したものなのです。
発酵や熟成を取り入れた竹中シェフの料理には、もちろん日本酒の相性も抜群。老舗から革新的な蔵元まで吟味して、幅広い味わいを楽しめるように揃えています。
70年以上もの歳月と人の温もりが宿る、唯一無二の空間
青果・乾物問屋兼住居であったという建物は、持ち主の親族である宮大工の手によるもの。随所にみられる贅沢な木材と高い技術は、改装工事に入った熟練の大工さんも舌を巻くほどだったとか。
玄関の幕板には大きな一枚板、釘を一切使わない木組み、欄間に施された家紋、見えないところまでノミで仕上げた梁……。現代では再現が難しい匠の技は、ぜひ訪れて見てください!
70年以上の時を経ても、建築当時の姿をそのまま残しているのは造りの良さだけが理由ではありません。
住む人がいなくなっても毎朝、戸を開けて風を通し、ぬかで柱や床を磨き上げていた大家さんのおかげ。大切に建て、大切に住み、大切に手入れをしてきたからこそ、その思いが込められた空間をできるだけ残し、今の【KUFUKU±】になりました。
そうして再生した古民家は、竹中シェフと金澤さんによる、料理とお酒の構成に大きなインスピレーションを与えているそう。
この空間のように、発酵や熟成といった時間が育てたもの、作り手の温もりが感じられるもの、日本の風土に根付いたもの。
それらをふんだんに取り入れた料理とお酒を味わえば、【KUFUKU±】だけに流れている時間を体感できるはず。
問い合わせ先
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KUFUKU± TEL:03-5244-4329
住所/東京都千代田区外神田4-11-8
記事元:ヒトサラ https://magazine.hitosara.com/article/1809/
- TEXT :
- ヒトサラ編集部
公式サイト:ヒトサラ
- PHOTO :
- 今井裕治
- EDIT&WRITING :
- 首藤奈穂(フリーライター)