サヴィル・ロウの老舗「ヘンリープール」で、カッターを務めていた平野史也が仕立てるスーツは、一点一点、細かなディテールにいたるまで、卓越した技術の高さが光る。そんな日本人テーラーの美意識が詰まった、ブリティッシュスタイルのスーツを紹介する。
平野史也さんがロンドンで仕立てるスーツは、サヴィル・ロウにある、どのテーラーのスーツにも似ていない。だからといってそれは、非・英国的という意味ではない。むしろ逆で、驚くほど英国的なのだ。バストから肩甲骨にかけてのボリューム感や、強く絞ったウエスト、そして高い位置に設定された小さなアームホール……。
日本人テーラーの美意識が生んだ唯一無二のブリティッシュスタイル
そこから描かれる優雅なシルエットは、彼がこの地で学んだ、英国伝統のイングリッシュドレープそのもの。しかも襟の取り付けからボタンホールのかがりにいたるまで、かなりの箇所が手縫いで仕上げられている。サヴィル・ロウではほぼ途絶えてしまったこの繊細な縫製技術は、彼が日本で習得したものだという。
そう、彼は英国スーツだけが放つにおいをこの地で身につけ、日本の技術によってそのルーツを現代によみがえらせた。だからこそ彼のスーツは極めて古典的であり、なおかつ新鮮に見えるのだ。
※価格は全て税抜です。※価格は2016年秋号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 山下英介 MEN'S Preciousファッションディレクター
- BY :
- MEN’S Precious2016年秋号 紳士の心を昂ぶらせる「英国名品」のすべてより
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物) スタイリスト/武内雅英(code) 文/山下英介