ボルボの最近の売れ筋は、SUV。次にステーションワゴンで、セダンは決して多数派ではない。だが、スマートな格好良さといい気分に浸れる内装や走りの質は、トラディショナルなセダンさえも、本来の資質を含めて魅力的に見せる。そして、それが印象に終わっていないことを、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏は試乗を通じて教えてくれる。

セダンの美点を知れば乗りたくなる

全長4760ミリ、全幅1850ミリ、全高1435ミリ。
全長4760ミリ、全幅1850ミリ、全高1435ミリ。
T6ツインエンジンAWDは235/45R19タイヤを履くこの「インスクリプション」仕様のみ。
T6ツインエンジンAWDは235/45R19タイヤを履くこの「インスクリプション」仕様のみ。

常識をいい方向にくつがえしてくれるボルボ。2019年秋に発売されたボルボS60でも同様の心地よい驚きを与えてくれた。

S60シリーズは、2018年9月のステーションワゴン、V60に続いて、2019年11月に発売されたセダンだ。SUVばやりのなか、あえてセダン。ちょっと驚いたが、じつはセダンには美点がたくさんある。

ひとつはスタイリッシュなこと。S60をみれば、流れるようなルーフラインによる美しさが感じられる。欧米でも、スタイリッシュなクルマを好むひとは、あえてセダンを選んでいることを思い出した。スポーツウェアに対するスーツのよさ、みたいなものである。

もうひとつは快適性。セダンは、サスペンションアームが長くとれるなど設計上の自由度が高く、乗り心地がいい。それにキャビンと荷室が仕切られているので、遮音や空調にすぐれる。いまもプレスティジャスなクルマにセダンが多いゆえんだ。

さらにS60には先進的な魅力がある。プラグインハイブリッド「S60 T6ツインエンジンAWD」の設定だ。2リッターのエンジンで前輪を、電気モーターで後輪を駆動する。

ボルボは傘下に「ポールスター」というバッテリー駆動の電動車を手がけるブランドを持っている。電動ボルボ車のROMチューンも行う。そのためボルボは電動車の技術的蓄積が多い。

どんなときもスムーズに走れるプラグインハイブリッド車

インスクリプションのシートはナッパレザー張りとなる。
インスクリプションのシートはナッパレザー張りとなる。
新しいデザインになるクリスタルシフトノブ。
新しいデザインになるクリスタルシフトノブ。

S60 T6ツインエンジンAWDインスクリプション(以下S60 T6)の特長をひとことで述べると、スムーズだ。ハイブリッドシステムもたいへんうまく機能する。モード切り替え式なので、バッテリー最優先モードを選ぶと、だいたい50キロはEVモードで走行できる。

モーターは(ボルボによると)時速120キロ超までカバーするそうだ。バッテリー容量は11.3キロワット時とさほど大きくはないが、それでもこれだけ走れればいいではないかと思う。

途中でバッテリー容量がミニマムに達したら、モニタースクリーンで「チャージ」モードを呼び出すと、エンジンが動きながらパワーの一部を充電に使う。

ちょっと無意味な気もするが、夜間や早朝など、騒音を気にする環境にいるときは、途中からEVモードが必要になる場合もあることが考慮されているということだ。

エンジンパワーは183kW(253ps)でトルクは350Nm。そこにモーターが240Nmのトルクを積み増すので、パワフルである。走行モードで「ハイブリッド」あるいは「パワー」を選んでのドライブでは、とくにカーブなど後輪がぐんっと車体を押しだしてくれる感覚で、期待以上にスポーティだ。

限定モデルは即完売!

「センサス」というモニター画面からドライブモードが選択できる。
「センサス」というモニター画面からドライブモードが選択できる。
「パイロットアシスト」装備で時速130キロまで車線維持走行が可能。
「パイロットアシスト」装備で時速130キロまで車線維持走行が可能。

ボルボカーズジャパンでは、2019年11月の時点で、「S60 T8 Polestar Engineered(ポールスターエンジニアード)」なる限定モデルを用意していた。こちらはエンジンが245kWの最高出力と430Nmの最大トルクを発生する(モーター出力は同一)。あっというまに売り切れてしまった。

S60 T8は、ボルボらしいというか、高性能モデルといっても、パワフルさが前面に押しだされていない。逆にいうと、S60 T6はそのマイルド版で、キャラクターづくりは似ている。マイルドといっても、加速性も高速巡航性もけっして不足を感じることはなかった。

メーカーが発表している燃費は、実生活で使用したときの値に近いものが出るWLTCモードの総合で、リッターあたり13.7キロ。高速だと16.1キロとかなり良好だ。

内装の趣味のよさも、他車が真似できない領域だ。クリーンな造型と、レザー、ウッド、クロームなど、素材の雰囲気を活かした装飾が、居心地のいい空間を作りあげている。

シートも立体的な作りで、座り心地がいい。インスクリプションというのがS60 T6に組み合わされる唯一のグレードで、これは快適志向が強く、レザーも感触にいいナッパレザーとなる。

ただ個人的には、ここだけはS60 T4モメンタム用のファブリックシートも選べてもよかったかなと思う。ボルボ車のファブリックシートは感触といい、柄の趣味といい、好感度が高いからだ。

S60 T6の価格は779万円。2リッターガソリンエンジン搭載の前輪駆動モデル、S60 T5インスクリプションは614万円だ。後者もスポーティな走りを体験させてくれるモデルだ。当初はこちらで充分と思った。でも、モーターが加わったプラグインハイブリッドの走りは強烈な印象を残したのだ。

【ボルボ・S60 T6ツインエンジンAWDインスクリプション】
ボディサイズ:全長4,760×全幅1,850×全高1,435㎜
駆動方式:AWD
トランスミッション:8速AT
エンジン:1,968cc 直列4気筒ターボ&スーパーチャージャー
最高出力:186kW(253PS)/5,500rpm
最大トルク:350Nm/1,700〜5,000rpm
モーター最高出力:34kW/2,500rpm(前)、65kW/7,000rpm(後)
モーター最大トルク:160Nm/0−2,500rpm(前)、240Nm/0−3,000rpm(後)
価格:¥7,790,000(税込)

問い合わせ先

ボルボ

TEL:0120-922-662

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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