所有する人は限られても、その存在は広く知られたベントレー。白洲次郎や(原作小説で)ジェームズ・ボンドが乗っていた戦前のモデルは、運転こそかなわないが、それでも当時最高の技術と工作精度でつくられていたことは伝わってくる。もっと身近なのは、ロールス・ロイスの姉妹車だった時代のモデル。昭和後期には日本にもそこそこの数が輸入され、(程度のいい個体は海外に行ったものが多いけれど)今も重厚な雰囲気が味わえる、大人のドライバーズカーとして人気だ。
そして現在。高性能スポーツカーブランドとしての輝かしい歴史を背景に、大量生産ではなし得ないクラフツマンシップ、比類なき美しさ、みなぎるようなパワーと安定感で、ベントレーはラグジュアリーなハイブランドという立ち位置を明確にしている。メンズプレシャス世代にはすべてのモデルがおすすめだが、あえて乗りこなしのハードルの高さで選ぶなら、ラグジュアリーなオープンGTの「コンチネンタルGTコンバーチブル」だ。
アナログとデジタルが同居する世界
2018年から日本に導入された最新世代の「コンチネンタルGT」(クーペ)は、従来型よりもロー&ワイドなスタイリングとなり、洗練を増したW12ツインターボエンジンや多段デュアルクラッチ化したトランスミッション、最新のインフォテイメントシステムなどを備える。遅れて導入された「コンチネンタルGTコンバーチブル」は5層構造のソフトトップを備え、リゾートクルーザーとしてもリッチな気分に浸れること確実。
装飾技術の粋を極めた室内に身を置き、やや握りの太いステアリングを握ると、もうそれだけで満たされた気分。ウッドパネルの温もりと、明るい色で品質のごまかしがきかないレザーの肌触りには、手仕事をふんだんに使った「人の気配」がある。エンジンの始動でセンターコンソールが回転し、ナビ画面になると、アナログな調度品とデジタルなガジェットが同居した、ちょっと不思議で楽しい時間が始まる。
やわらかな冬の日差しが室内を照らすと……
加速は恐ろしく滑らかで力強く、遮音性にも優れたボディのおかげで、いつも聞いている音楽が広がりのあるサウンドとなって、流れる景色を味付けする。ファッションにたとえるなら、極上の素材と技術であつらえたスーツをはおったときのように、あらゆる要素が合わさって魂を揺さぶる……。これがハイブランドのラグジュアリー体験だ。スペックの羅列で同業他社の商品と比較したところで、ベントレーの魅力を理解することなどできない。
と、偉そうなことを書いておきながら、途中まで幌を閉めたまま走っている自分を少し恥じた。オープンエアクルージングを楽しまなければ、このクルマの価値を理解したとは言えないではないか……。
スマートに開閉する幌の存在がなくなると、やわらかな冬の日差しが贅を尽くした室内に射し込んでくる。ウッドパネルは日の当たり具合でさまざまな表情を見せ、飽きさせない。渋滞さえも気持ちいい時間に変える、ベントレー・マジック。雑然とした東京都心でのドライブで、鷹揚とした気分でいられる余裕。だから、乗り手は常にリラックスした表情で走り続けられる、はずだ。
「クルマに飲まれない」ように疾れ!
「はずだ」と書いたのは、冒頭で「乗りこなしのハードルが高い」と書いたことと関係する。それはベントレーがもたらす特別な時間をすんなりと受け入れるのが、意外と難しいからだ。いいモノに囲まれることに慣れた人なら、そんな不安はないだろう。
だが、そうでない人は(筆者も含めて)、気分が上がりすぎてみなぎるパワーを無駄に放出してしまう恐れがある。服に着られてしまうというか、「クルマに飲まれてしまう」のだ。しかも、美しいコンバーチブルはじっとしていても周囲にその存在を知らしめる。そのとき、乗り手がクルマを乗りこなしているように見えればいいのだが……。
「コンチネンタルGTコンバーチブル」は、豊かな人生経験とTPOに配慮した扱いが求められるという点で、きっと皆さんの大きな目標になるだろう。
【ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル(2019年型)】
ボディサイズ:全長4,880×全幅1,965×全高1,400㎜
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
エンジン:5,950cc W型12気筒ツインターボ
最高出力:467kW(635PS)/6,000rpm
最大トルク:900Nm/1,350~4,500rpm
価格:¥29,414,000(税込)
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- 櫻井 香 記者