年配の紳士が古いメルセデスのセダンをゆったりと走らせているのを見ると、格好いいと思う。長い愛車生活の中で、どんな景色を見、どんなひらめきがあったのか……。クルマの中で育まれる数々の思いが、オーナーの人生を豊かにしているのだと、想像できる。それは最新のコンパクトカーでも同じだ。スポーツカーを製造する部門であるメルセデスAMGのAクラスは、ドライバーを楽しませようという工夫に満ちている。楽しいドライビングを通じて生まれる思いも、きっとたくさんある。
はじけるような加速
かつて英国では、「靴とメルセデスは古いのがよい」と言われた。でも最新のホットハッチ「メルセデスAMG A35 4MATIC」に乗ると、このブランドは日々進化しているのがよくわかる。
メルセデスAMG A35 4MATIC(以下A35)のよさは、ひとことで言って、スポーティさ。クイックなステアリングと、反応のいいシャシーと、パワフルなエンジン。コーナリング性能を高めるために4WDシステムも採用されている。
ベースになっているのは新型Aクラスハッチバック。Cクラスを思わせる安定した操縦性(とコネクティビティと運転支援システム)によって、進化が評価できるモデルだ。
そのAクラスをベースにしているだけあって、A180の100kW(136ps)に対して310kW(421ps)のパワーを誇るA35は、はじけるような加速性を持つ。加えて、コーナリング性能と乗り心地では、先代のA45 AMG 4MATIC(265kW)よりはるかにバランスがよくなっていると感じる。
小さなカーブが連続するような道も、高速道路も、ともに得意である。A35はフロントバンパーコーナーに、GTカーのようなスプリッターを装着。空力を利用してコーナリング性能をあげるための空力デバイスである。
スプリッターや大きなリアウィングが効果を発揮しはじめるのは時速80キロあたりからだろうから、高速道路では恩恵に浴することが出来る。それとともに、いかにもレースで経験を積んでいるメーカーの製品というイメージも好ましく思える。
ブレーキのフィーリングもすばらしい
とはいえ、一般のワインディングロードでも、コーナリングはかなり楽しめる。曲がりはじめはフロント外側がぐーっと沈んでいく。メルセデス・ベンツの後輪駆動モデルを思わせる身のこなしで、車体の動きが予測できるのがとても好ましい。
前輪駆動べースで、走行や路面の状態に応じて、前100パーセントから、前後50パーセントずつのトルク配分まで変化するオンデマンド型の4WDシステムのおかげもあるだろう。コーナーの出口へ向けてのダッシュは、後輪が車体を押しだす力もあって、するどい加速をみせる。
ブレーキもすばらしいフィールだ。わずかな足の力に反応して、じわっとゆっくりと、しかし確実に制動をかけていく。アクセルペダルとともに、ドライバーの感覚に忠実。それがこのクルマをたいへん操りやすいものにしているのだ。
シフトスケジュールは学習機能があって、ドライバーの運転をコンピューターが記憶し、シフトアップおよびシフトダウンのタイミングをコントロールする。強めにアクセルペダルを踏んで加速していくのが好きなドライバーだと、3000rpmを超えてもりもりとトルクが湧き上がる回転域もちゃんと使える。
シフトダウン時はエンジン回転合わせのように、コンピューターがエンジン回転を一瞬上げ、いわゆる中ぶかしをする。ギア比が離れたマニュアル車では必要なテクニックである。8段ツインクラッチ変速機のA35の場合、実際の効果はともかく、演出としては楽しい。
よく出来たエンジンと調整された変速機、ともにクルマの楽しさに不可欠の要素である。メルセデスAMGが手がけたA35を体験すると、このブランドが、まだまだクルマを楽しませてくれようとしているのがわかる。
【メルセデスAMG A35 4MATIC】
ボディサイズ:全長4,440×全幅1,800×全高1,410㎜
駆動方式:4WD
トランスミッション:7速AT(DCT)
エンジン:1,991cc直列4気筒DOHCターボ
最高出力:225kW(306PS)/5,800~6,100rpm
最大トルク:400Nm/3,000~4,000rpm
価格:¥5,709,091(税抜)
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- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト