2020年3月に公開される「大人の女性にオススメしたい映画」3選

映画ライターとして多くの映画に触れている坂口さゆりさんが、2020年3月に公開される新作映画の中から、「大人の女性が観ると人生が豊かになる」作品を3作品、ご紹介します。

おすすめするのは、『ジュディ 虹の彼方に』『シェイクスピアの庭』『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』。

伝説のミュージカル女優、ジュディ・ガーランドや文豪シェイクスピア、そして自然をこよなく愛する夫婦、どの作品も実在する人物を描いた物語です。人間の弱さと強さをつきつけられ、人生とは何かを問いかけてくる作品で、ゆっくり人生について考えてみるのはいかがでしょうか?

■1:伝説のミュージカル女優、ジュディ・ガーランドの感動の実話を描いた『ジュディ 虹のかなたに』

『ジュディ 虹のかなたに』①
© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

ハリウッド史にその名を刻む大スター、ジュディ・ガーランド。波乱の人生を歩んだ彼女の、ロンドンでの最晩年の日々に光を当てた映画が『ジュディ 虹の彼方に』です。

1968年、ジュディはたび重なる遅刻や無断欠勤のせいで映画出演オファーは途絶え、巡業ショーで生計を立てていた。借金で首が回らなくなった彼女は、しかたなく金策のため、幼い娘と息子を別れた夫に託して、ロンドンへ向かうが……。

『ジュディ 虹のかなたに』②
© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

ジュディに扮するのは、映画『シカゴ』で歌唱力は証明ずみのレネー・ゼルウィガー。まるでジュディとひとつになったようなパフォーマンスは、観る者の心を揺さぶるのに十分です。特に、ロンドンのクラブで最後に歌う『オーバー・ザ・レインボー/虹の彼方に』は、記憶に残る名シーン。レネーが本作で第92回アカデミー賞主演女優賞を受賞したのも納得です。

『ジュディ 虹のかなたに』③
© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

ところで、映画の大きな見どころがレネーの歌にあるのはもちろんですが、ゲイのアイコンとして熱烈に支持されていたジュディと、ゲイカップルとの交流エピソードも忘れることができません。

ある晩、ショーが終わったジュディは、彼女を出待ちしていたゲイカップルと心温まる一夜を過ごします。同性愛が犯罪だった時代、彼らにとっていかにジュディの歌が支えとなっていたか、ふたりが吐露する過去には胸を突かれる思いでした。彼らとの交流は、感動のラストへの伏線にもなっています。

Movie Information

監督:ルパート・グールド 出演:レネー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル、マイケル・ガンボン、ダーシー・ショー、ロイス・ピアソンほか。3月6日から全国公開。配給:ギャガ

■2:シェイクスピアの人生最後の3年間を描いた、心揺さぶる感動作『シェイクスピアの庭』

『シェイクスピアの庭』①
© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

『ロミオとジュリエット』『ハムレット』など数々の名作で知られる文豪シェイクスピアですが、彼が何歳で断筆したか、ご存じでしょうか?

それは、49歳のときのこと。1613年6月29日、ロンドン・グローブ座では『ヘンリー八世』(当時のタイトルは、『All is True』)」が上演されていました。ところがその際に、舞台効果のための大砲から発火。グローブ座は1時間もしないうちに、焼失してしまったのです。気落ちしたシェイクスピアは筆を折り、20年ぶりに故郷ストラッドフォード・アボン・エイヴォンへ帰郷します。

そんなシェイクスピアの帰郷後の生活を描いたのが、『シェイクスピアの庭』です。製作・監督・主演は英国を代表する俳優ケネス・ブラナー。彼は23歳のときにロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団し、20代から30年以上もシェイクスピア作品にのめり込んできた、いわば筋金入りのシェイクスピア・フリーク。なぜ、才能あるシェイクスピアが49歳で断筆したのか、というブラナーの疑問が、この作品を生み出しました。

ロンドンで働き詰めだったシェイクスピアが、二十余年ぶりにストラッドフォードへ帰還。その間、ほとんど家族と会うことはなく、8歳年上の妻アン(ジュディ・デンチ)や次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)、そして嫁いだ長女のスザンナ(リディア・ウィルソン)さえ、戸惑うばかり。

アンは一緒に寝室へ入ろうとするシェイクスピアに向かって、「家族にとってあなたは客人。客人には最上のベッドを」と、冷たく言い放つのでした……。

『シェイクスピアの庭』②
© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

ブラナーが描きたかったのは、天才作家としてのシェイクスピアではなく、父として、夫して、ひとりの人間として、晩年を生きたシェイクスピアの姿です。いくら自由自在に言葉を操るシェイクスピアでも、長きにわたって家族と没交渉であれば、その溝はそう簡単に埋めることはできません。

天才作家も普通の人間であったか!と見終わった後は、なぜかクスッとしたくなる。幸せな気持ちで、映画館を後にできるはずです。

『シェイクスピアの庭』③
© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.

Movie Information

監督:ケネス・ブラナー 出演:ケネス・ブラナー、ジュディ・デンチ、キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン、イアン・マッケラン、ハドリー・フレイザー、ジャック・コルグレイブ・ハーストほか。横浜シネマ・ジャック&ベティほか3月6日より全国公開。配給:ハーク 

■3:自然を愛する夫婦が「オーガニック農場」をつくり上げるまでの8年間を追ったドキュメンタリー映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』①
© 2018 FarmLore Films, LLC

定年後の人生をどうしよう?と悩んでいる人も、エコファームや農業に関心がある人も、さらに、環境問題に興味のある人もぜひこの『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしの作り方』をご覧あれ! 自身の人生を生きるヒントがたくさん詰まっています。

主人公は映画制作者であり、テレビ番組の監督やカメラマンのジョンと料理家の妻・モリー。ふたりは殺処分寸前で保護した愛犬トッドを飼い始めますが、トッドは夫婦がいないと吠え続けるため、次々とカリフォルニアの都会のアパートを追い出されるハメに。

そもそもモリーには「本当に体にいい食べ物を育てたい」という夢があったこともあり、ふたりは郊外移住を決意。出資者を募って資金をつくり、200エーカー(東京ドーム約17個分)という、広大な荒れ果てた農地を手に入れます。果たして素人のふたりが目指す、究極の農場をつくることができるのか……。

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』②
© 2018 FarmLore Films, LLC

8年に及ぶ夫婦の奮闘は、驚くことばかり。購入した土地は最初、クワも刺さらないような死んだ土地。ずぶの農業素人である彼らに、こんな最悪な土地を耕すことができるのか、と思ったものの、モリーが指導者を招き、ネットで若い協力者たちを募り、マンパワーを確保。土地を生き返らせるためにミミズをはびこらせ、肥料を撒いていいくと……。1年目にしてここまでできるんだ!とびっくりです。

とは言え、自然は甘くありません。うまくいっていたようでも、彼らを突然襲うのは虫の害、野獣、野鳥、大雨、さらに山火事……。いくつもの難題にぶち当たりながらも、解決策の多くもまた、自然が教えてくれるのでした。

苦労しながら8年目にできた農場は、小さな宇宙。そこに完璧な生態系ができているのです! 人間もまた自然に組み込まれたひとつの命、と本作を見ているだけで謙虚な気持ちに。ウィルスが蔓延する今、人間は何か間違ったことをしているのではないか? そんな気持ちにもなるはず。

ちなみにこのジョンとモリーの農場は、見学可能。実際に訪れたら、たくさんのエネルギーがチャージされるに違いありません! 映画を見ているだけでも、元気になれるのですから。

Movie Information

監督:ジョン・チェスター 出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター、愛犬トッド、動物たち シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか3月14日より全国公開中。配給:シンカ

 

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この記事の執筆者
TEXT :
坂口さゆりさん ライター
BY :
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生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
PHOTO :
© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019、© 2018 TKBC Limited. All Rights Reserved.、© 2018 FarmLore Films, LLC
WRITING :
坂口さゆり(映画ライター)
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)