2020年3月に鮮烈デビューを果たし、瞬く間に人気となったエルメスのリップステック。その美しきオブジェともいえるリップスティックに込められたストーリーや全24色を、改めてご紹介いたします。
エルメスが考える新しい美の価値観。優美なしぐさへと誘う、16番目のメチエ誕生
いつの時代も「エレガンスの最高峰」として君臨し続けるメゾン、エルメスから、この春、ビューティという新しいメチエ(部門)が誕生しました。『ルージュ・エルメス』この崇高なまでに美しいオブジェは、メゾンの価値観とエスプリが凝縮、シンプルなのに革新的で、まるでアートピースのように私たちを色彩の世界へと誘います。
デザインを手がけたシューズ/ジュエリー部門 クリエイティブ・ディレクターのピエール・アルディは、「ジュエリーのように特別で、ときに親密で官能的、美の本質へと導いてくれるオブジェ」と捉え、ビューティ全体のクリエイションを手がけたビューティ部門 クリエイティブ・ディレクターのジェローム・トゥロンは「色彩は旅するもの。レザーのもたらす喜びや心地よさをリップスティックと共鳴させたかった」と語ります。
24色の『エンブレム・コレクション』には、サテンとマットのふたつの質感が存在しますが、モナコ公国王妃であった故グレース・ケリーの名が刻まれた『ケリー』のボックスカーフからインスパイアされたのがサテン。なめらかで上質な光沢をもつ『ケリー』と美しく共鳴し合うのが、サテンの『ルージュ・エルメス』です。
上質なラッカー仕上げのパッケージにキャップに刻まれたエルメスの蔵書印であるエクスリブリス、小さなオレンジ色のボックスなど、創業当時から続く物づくりのメゾンである誇りがすみずみに。だからこそルージュの概念を超え、アートピースのように五感に訴えかけてくるのでしょう。
唇を彩るしぐさまで、永遠に美しいドラマへと変えてくれる、それが『ルージュ・エルメス』という美のオブジェなのです。
■ BEIGE NATUREL
エルメスの真髄、「品格」を彩るオブジェ「ベージュ・ナチュレル」
エレガンスという言葉の語源には「選び抜く」という意味があること、ご存じでしたでしょうか?
選び抜かれた人にこそふさわしい色、それが『ルージュ・エルメス』の「ベージュ・ナチュレル」です。「色彩の奥深さをビューティでも伝えたい」と、語ってくれたレディス部門 アーティスティック・ディレクター、バリ・バレ。ピンクがかった温かみのあるベージュは、エルメスのどのメチエにも登場する永遠のカラーです。
フランス、リヨンにある工房には75,000を超えるシルクのカラーサンプルが保存され、毎シーズン、新しい色が増えていくそうですが、エルメスにとってのベージュとは、個々の美しさと調和する普遍的なもの。この「ベージュ・ナチュレル」は10色あるマットなテクスチャーのうちの一色で、スエード素材のヴォー・ドブリスの風合いと手触りからインスパイアされた、やわらかくパウダリーな彩り、エルメスの「品格」を彩るにふさわしいオブジェといえます。
■ ROUGE CASAQUE
かすかにブルーの余韻。濃厚で鮮烈な「ルージュ・カザック」
華やかで意志の強い青みを含んだ赤、「ルージュ・カザック」が誘うのは、しっとりとやわらかなトリヨン・クレマンスでつくられた『ケリー』との旅の思い出でしょうか。
ジェローム・トゥロンは「エルメスのオブジェはメイクアップツールという枠に留まりません。日常にエレガンスをもたらし、しぐさそのもので、メイクアップを私的なドラマへと変えてくれます」。
バッグからルージュを取り出し、唇を彩るまでのなにげないしぐさを、詩的な世界へと高めてくれるのはサテンとマット、仕上がりによって異なる形を採用した『ルージュ・エルメス』だけの秘密。
先端が丸みを帯びたサテンは唇全体をダイナミックに。先端が尖ったマットは、ラインをとり、輪郭を際立たせるよう、そっと。マグネット式の開閉部は、スタイリッシュで大胆に。同じ色でも質感と形状が異なれば、しぐさも、そしてストーリーも変わるもの。
ときに官能という扉を開くのも『ルージュ・エルメス』なのです。
■ POPPY LIP SHINE
みずみずしいタッチ、真珠の輝きを遊ぶ「ポピーリップシャイン」
『ルージュ・エルメス』には、いずれもシルク製品と深い関わりをもつホワイトマルベリーエキスが配合されています。乾燥しやすい唇を保護しながら、美しい発色を保つようピグメントにも配慮。なかでも香りへのホリスティックなアプローチは、『ルージュ・エルメス』のオブジェとしての価値観を、よりいっそう際立たせているよう。
香水クリエーション・ディレクター クリスティーヌ・ナジェルが口紅のために調香したのは、サンダルウッド、アルニカ、アンジェリカフラワーと植物由来の香り。 幸福の余韻を味わいながら「ルージュをひく」しぐさそのものをドラマティックに変えるものです。
また、エルメスは遊び心も忘れていません。パールパウダーを配合し、繊細な輝きのヴェールを楽しめる『ポピーリップシャイン』は、単品でも重ねても美しい仕上がりが楽しめるアクセサリー感覚の艶ルージュ。日常の中に息づく美しいしぐさを愛しんでほしいと願う、エルメスならではの美のエスプリなのです。
■ ROSE INOUÏ CORAIL FOU VIOLET INSENSÉ
心惹かれる自由な色彩の世界へ。今を遊ぶ「リミテッド・エディション」
今でこそ多くのブランドがサステナブル(持続可能)に取り組むようになりましたが、エルメスは創業当時から時代を超えて なお受け継がれるサステナブルな物づくりにこだわってきました。
馬具やバッグ同様にビューティもまた、長く使い続けられる厳選素材を採用、リフィル対応などサステナブルな哲学を貫いています。パッケージをあえてレザーにしなかったのは、油分によるシミや汚れを回避するため。熟練したアルチザンの真摯な想いの表れです。
『ルージュ・エルメス』の『エンブレム・コレクション』はラッカー仕上げに艶消し、または艶ありのブラック、ホワイト、ゴールドメタルを基調にしたオーセンティックなものですが、より自由で遊び心あふれる限定コレクションは、ケースもマルチカラーで艶やかに。
ネオンの光とタンゴのリズムを感じるローズ・インゥイ、フレッシュなタンジェリンオレンジのコライユ・フー、アメシスト色の濃密なヴァイオレット・アンサンスなど、ビビッドなケースが胸躍るような気持ちをいっそう引き立ててくれます。
- TEXT :
- 安倍佐和子さん ビューティエディター
- BY :
- 『Precious5月号』小学館、2020年
- PHOTO :
- 戸田嘉昭(パイルドライバー)
- STYLIST :
- 小倉真希
- EDIT :
- 五十嵐享子(Precious)