イマドキの男の子を読み解く空気感をはらむ「町屋良平」の世界
イマドキの男の子たちの生態に興味がある。女の子のことはわかる。私たちにいくつになっても「女子感覚」があるように、20年前と今の若い女性の考えや行動の元はそう変わらない。
でも男の子はぜんぜん違う! というわけで、大人の女性の皆さまが新卒男子や娘のBFを前にして、「何を考えてるんだろう、となるけれど、直接聞き出すのは難しい…」となったときに役に立つのが小説で、現代の男子を描いて人気なのが町屋良平さんである。
たとえば、芥川賞受賞作『1R1分34秒』の主人公は21歳の「気にしすぎボクサー」で、未知の対戦相手のブログやSNSをチェックしまくり、なんと夢のなかで親友になってしまう。でも「やあ、はじめまして!」でするのは殴り合い。妄想の友情は壊れ、勝っても負けても彼は孤独になる。
『ショパンゾンビ・コンテスタント』では男の子たちがよく泣くことに驚く。かつて男は人前で泣くもんじゃないとされ、涙腺の崩壊はがまんにがまんを重ね、こらえきれずに、であった。本書の21歳男子たちのそれは、そういう汗くさい涙ではない。彼らは女の子を思って泣くのである。好きなのにそばにいられないとか、嫉妬のつらさで目がウルウルとか、愛のために彼らは涙を流す。
最新作『坂下あたると、しじょうの宇宙』には、文学の才能あふれる高校生・あたると、彼にナイショで自分も詩を書いているけど、おれのはあたるのことばの削りかすみたいなものを拾い集めているだけなんじゃないかと悩む主人公が登場する。
料理が得意なあたるが毎日GFのためにお弁当をつくっていること、主人公があたるのGFの親友を紹介され、その子が独特なかわいいあだ名で呼ばれているのを知っても、おいそれと「おれもそう呼んでいい?」と言わないこと(ひと昔前なら、絶対そこをアプローチの第一歩にしたはず!)。
文学とは何か、オリジナルとは何かという壮大なテーマのあちこちに、若い距離感、息づかいがちりばめられていて新鮮。彼らは相手のテリトリーをとても尊重するし、その人にだけ見せる顔がある。でもそれは愛情の深さとは比例しない。
じゃあ実際、SNSドはまりボクサーは何人いますか、人前で泣く男の子は、弁当男子は何%ですか、ということではないのだ。年上の女性たちが、現実の男の子たちのかたくなさ、優しさ、熱中や冷め加減を読み解く手がかりとなってくれるこの空気感。こんなつかみどころのないものをつかまえて文学にする町屋さんは、毎回すごいと思う。
※掲載した商品の価格は、すべて税抜きです。
- TEXT :
- 間室道子さん 代官山 蔦屋書店コンシェルジュ
- BY :
- 『Precious6月号』小学館、2020年
- WRITING :
- 間室道子(「代官山 蔦屋書店」文学コンシェルジュ)
- EDIT :
- 宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)