紳士靴において、ダブルモンクストラップの完成形が『ウィリアム』だ。スタイル、デザイン、ディテールなど、360度徹底的に見渡し、その魅力を本格靴スペシャリスト3人に語り尽くしてもらった。
これが大定番のジョンロブ『ウィリアム』
山下 ひとつの靴のモデルが75年も続いているのは、本当に珍しいことだと思います。
寺杣 1945年ウィンザー公がビスポークして以来ですからね。
矢部 ’82年には、『ウィリアム』の既製靴が登場しました。
寺杣 僕の記憶だと、既製靴が出た当初は、どちらかというとカントリーな雰囲気でした。
矢部 クラシコイタリアが知られる’95年あたりになると、洒落者のイタリア人たちが、『ウィリアム』をはいていました。チャーチやエドワードグリーンもそれなりに多かったですが、ジョンロブは別格でした。
山下 そうなんですね。
矢部 『ウィリアム』の象徴的なダブルモンクのバックルを見ると、形が変わらずに一貫しています。2014年、アーティスティック・ディレクターにパウラ・ジェルバーゼさんが就任してからも、『ウィリアム』については、バックルのデザインをあえていじらないような気がします。
■1:『ウィリアム』のここがすごい!
山下 『ウィリアム』を撮影すると、ダブルモンクのバックルは、インパクトがあります。
寺杣 簡易的なモンクストラップは、ベルトの根本にゴムを付けます。
山下 ストラップが伸びるように。
寺杣 一方『ウィリアム』は、リアルなベルト式。そのため、ベルトの通しやすさ、留めやすさが重要で、この形状はすごく理にかなっていますね。
■2:『ウィリアム』のここがすごい!
矢部 バックルの下の一辺が、少し上に上がった形状で、ストラップが通しやすくなっています。
山下 そういった細部を見ても、完成度が高いですね。
矢部 『ウィリアム』は専用の『9795』木型を使っています。
寺杣 この木型は、ボールジョイントの幅を取り、つま先をちょっと絞り、エレガントな表情を加えています。
山下 すでに廃番ですが、『ウィリアム2』は、同じ木型でも、少しツヤっぽい感じがします。
寺杣 キャップのステッチ部分が盛り上がり、目立つのかもしれません。
■3:『ウィリアム』のここがすごい!
山下 『ウィリアム2』はアイコニックな感じですが、『ウィリアム』はトウキャップもステッチを2本施した正統的なデザイン。そしてダブルソールも、とてもバランスがいいですね。
寺杣 グッドイヤーウェルト製法には、シングルとダブルがありますが、『ウィリアム』は、かかとのほうまで回り込む、ダブルで仕上げています。
山下 なるほど。
寺杣 ダブルの特徴は、かかとのデザインが大きくなり、安定感が出ます。『ウィリアム』は、ウォーキングシューズに近い側面も備えています。
矢部 ガンガンはけることは、靴としての魅力ですね。
山下 ドレスとカントリー要素の融合。『ウィリアム』の新しい見方ですね。
寺杣 ソールの構造は、ダブルソールです。シングルのソールに比べれば、やはり曲がりにくい。しかし、曲がりにくいソールは、路面からの衝撃を吸収し、かかとからつま先にかけて推進力が保たれ、ボールジョイント部分の曲げが少なくなる。長く歩いても疲れにくい、登山靴系の機能です。
■4:『ウィリアム』のここがすごい!
矢部 適度な硬さと重さが担保され、振り子のように足を動かせます。
山下 少し話を広げます。75周年を記念して、『9795』木型で、2種類の軽いラバーソールを使ったモデルを展開します。「ライト・ウェイト・ウォーキング・ソール」と「ミディアム・ラグ・ソール」です。
寺杣 ドレスの靴でも、はきやすさや、カジュアル化が進んでいますね。
山下 ラバーソールの『ウィリアム』を持つと、「こんなに軽いんだ」というのが実感です。
矢部 記念モデルは、革も多彩です。スエードをはじめ、しぼ革風のカントリーカーフ、ワックススエード、より凹凸感のあるしぼ革のムアランドグレインの4種類あります。
寺杣 やはりしぼ革は、カントリーな雰囲気が漂いますね。
矢部 特に、凹凸感を表現したしぼ革のムアランドグレインは、よりカントリーな表情です。
寺杣 スエードにオイル加工を施したワックススエードの『ウィリアム98』は、新しさを感じます。
山下 おふたりなら、『ウィリアム』でどんなスタイルを楽しみたいですか。
寺杣 記念モデルから言えば、バリエーションが豊富なため、何足も欲しくなる感じです。スエードを手に入れた後に、しぼ革……と。そして服装も様々に着こなしたい。
矢部 革や色も豊富な記念の『ウィリアム』で、服のコーディネーションも広がる、ということですか。
寺杣 そうですね。
矢部 私は、『ウィリアム』のオーセンティックな黒のカーフ。これに、クラシックなスーツを合わせたいですね。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年春号より
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- PHOTO :
- 戸田嘉昭・新垣隆太(パイルドライバー)