紳士靴において、ダブルモンクストラップの完成形が『ウィリアム』だ。スタイル、デザイン、ディテールなど、360度徹底的に見渡し、その魅力を本格靴スペシャリスト3人に語り尽くしてもらった。

これが大定番のジョンロブ『ウィリアム』

ビスポークで生まれた『ウィリアム』は、1982年に既製靴を展開。専用の木型『9795』から描き出される『ウィリアム』のフォルムは白眉だ。¥188,000(ジョン ロブ ジャパン)
ビスポークで生まれた『ウィリアム』は、1982年に既製靴を展開。専用の木型『9795』から描き出される『ウィリアム』のフォルムは白眉だ。¥188,000(ジョン ロブ ジャパン)

山下 ひとつの靴のモデルが75年も続いているのは、本当に珍しいことだと思います。

寺杣 1945年ウィンザー公がビスポークして以来ですからね。

矢部  ’82年には、『ウィリアム』の既製靴が登場しました。

寺杣 僕の記憶だと、既製靴が出た当初は、どちらかというとカントリーな雰囲気でした。

矢部 クラシコイタリアが知られる’95年あたりになると、洒落者のイタリア人たちが、『ウィリアム』をはいていました。チャーチやエドワードグリーンもそれなりに多かったですが、ジョンロブは別格でした。

山下 そうなんですね。

矢部 『ウィリアム』の象徴的なダブルモンクのバックルを見ると、形が変わらずに一貫しています。2014年、アーティスティック・ディレクターにパウラ・ジェルバーゼさんが就任してからも、『ウィリアム』については、バックルのデザインをあえていじらないような気がします。

■1:『ウィリアム』のここがすごい!

ごっついヒール
ごっついヒール

山下 『ウィリアム』を撮影すると、ダブルモンクのバックルは、インパクトがあります。

寺杣 簡易的なモンクストラップは、ベルトの根本にゴムを付けます。

山下 ストラップが伸びるように。

寺杣 一方『ウィリアム』は、リアルなベルト式。そのため、ベルトの通しやすさ、留めやすさが重要で、この形状はすごく理にかなっていますね。

■2:『ウィリアム』のここがすごい!

美しく機能的なバックル
美しく機能的なバックル

矢部 バックルの下の一辺が、少し上に上がった形状で、ストラップが通しやすくなっています。

山下 そういった細部を見ても、完成度が高いですね。

矢部 『ウィリアム』は専用の『9795』木型を使っています。

寺杣 この木型は、ボールジョイントの幅を取り、つま先をちょっと絞り、エレガントな表情を加えています。

山下 すでに廃番ですが、『ウィリアム2』は、同じ木型でも、少しツヤっぽい感じがします。

寺杣 キャップのステッチ部分が盛り上がり、目立つのかもしれません。

■3:『ウィリアム』のここがすごい!

十分な厚みのダブルソール
十分な厚みのダブルソール

山下 『ウィリアム2』はアイコニックな感じですが、『ウィリアム』はトウキャップもステッチを2本施した正統的なデザイン。そしてダブルソールも、とてもバランスがいいですね。

寺杣 グッドイヤーウェルト製法には、シングルとダブルがありますが、『ウィリアム』は、かかとのほうまで回り込む、ダブルで仕上げています。

山下 なるほど。

寺杣 ダブルの特徴は、かかとのデザインが大きくなり、安定感が出ます。『ウィリアム』は、ウォーキングシューズに近い側面も備えています。

矢部 ガンガンはけることは、靴としての魅力ですね。

山下 ドレスとカントリー要素の融合。『ウィリアム』の新しい見方ですね。

寺杣 ソールの構造は、ダブルソールです。シングルのソールに比べれば、やはり曲がりにくい。しかし、曲がりにくいソールは、路面からの衝撃を吸収し、かかとからつま先にかけて推進力が保たれ、ボールジョイント部分の曲げが少なくなる。長く歩いても疲れにくい、登山靴系の機能です。

■4:『ウィリアム』のここがすごい!

中庸なバランスのトウ
中庸なバランスのトウ

矢部 適度な硬さと重さが担保され、振り子のように足を動かせます。

山下 少し話を広げます。75周年を記念して、『9795』木型で、2種類の軽いラバーソールを使ったモデルを展開します。「ライト・ウェイト・ウォーキング・ソール」と「ミディアム・ラグ・ソール」です。

寺杣 ドレスの靴でも、はきやすさや、カジュアル化が進んでいますね。

山下 ラバーソールの『ウィリアム』を持つと、「こんなに軽いんだ」というのが実感です。

矢部 記念モデルは、革も多彩です。スエードをはじめ、しぼ革風のカントリーカーフ、ワックススエード、より凹凸感のあるしぼ革のムアランドグレインの4種類あります。

寺杣 やはりしぼ革は、カントリーな雰囲気が漂いますね。

矢部 特に、凹凸感を表現したしぼ革のムアランドグレインは、よりカントリーな表情です。

寺杣 スエードにオイル加工を施したワックススエードの『ウィリアム98』は、新しさを感じます。

山下 おふたりなら、『ウィリアム』でどんなスタイルを楽しみたいですか。

寺杣 記念モデルから言えば、バリエーションが豊富なため、何足も欲しくなる感じです。スエードを手に入れた後に、しぼ革……と。そして服装も様々に着こなしたい。

矢部 革や色も豊富な記念の『ウィリアム』で、服のコーディネーションも広がる、ということですか。

寺杣 そうですね。

矢部 私は、『ウィリアム』のオーセンティックな黒のカーフ。これに、クラシックなスーツを合わせたいですね。


寺杣(てらそま)敦行さん
ジェンティーレ東京代表
長年、日本最古のシューズメーカーに勤め、靴の構造やデザイン、革の品質までを研究し、商品づくりに活かした靴のオーソリティ。優しい視点で、『ウィリアム』の真髄を読み取る。
矢部克已
メンズプレシャス エグゼクティブファッションエディター
カジュアルからドレスまで、ヴィンテージからビスポークまで、メンズファッションの可能性を自らのスタイルで示す実践派にして、愛好家。鼎談では、司会的な役割を務める。
山下英介
メンズプレシャス クリエイティブディレクター
カジュアルからドレスまで、ヴィンテージからビスポークまで、メンズファッションの可能性を自らのスタイルで示す実践派にして、愛好家。鼎談では、司会的な役割を務める。
この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2020年春号より
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戸田嘉昭・新垣隆太(パイルドライバー) 
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