スーパースポーツを考えるとき、確かに12気筒エンジンという選択は魅力的だ。一方でそのハイスペックぶりが、少し重荷と感じることがある。もう少し気軽に、気負うことなくスーパースポーツを楽しみたい。そんなときに浮上してくるのが、V10やV8モデルである。今回、幸いにしてV10気筒エンジンをミッドシップに搭載したランボルギーニ「ウラカンEVO」、それも日本にやって来たばかりのRWD(後輪駆動)モデルのスパイダーと数日間、過ごせるという機会を得た。

そのV10エンジンのスペックは5.2リッター、610馬力、最高速324km/hであり、兄貴分の「アヴェンタドール」のV12気筒モデル(6.5L、740馬力、最高速350km/h)と比べれば、少しばかり気楽である。

後輪駆動のメリットを体感

ボディカラーはレッド。マット系ということもあり、写真だとピンクがかって見える。
ボディカラーはレッド。マット系ということもあり、写真だとピンクがかって見える。
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幌を閉めた状態。キャビン後方のエンジンフード部分はクーペと異なる形状担っていて(トンネルバックと呼ばれるスタイル)、閉めても開けても美しい。
幌を閉めた状態。キャビン後方のエンジンフード部分はクーペと異なる形状になっていて(トンネルバックと呼ばれるスタイル)、閉めても開けても美しい。

さて、今回の「ウラカン」は、以前に当サイトで試乗レポートした4WDのウラカンEVOではなく、リア・ホイールドライブ(以下RWD)のモデル。本来なら4WDよりシステムがシンプルなぶん軽量化も果たされるわけだが、今回のモデルはスパイダーなので、軽量化という面での恩恵は少ない。

では4輪でパワーを路面へと伝え、絶妙なる電子制御によって高度な安定性を実現していた4WDと、2本の後輪だけでトラクションを伝えるRWDとの違いはなんだろうか? もっとも大きな違いと言えば運転フィールである。2本の後輪にパワー伝達を任せ、前輪はブレーキングと方向を変えることに専念できる。これによってステアリングフィールはとても軽やかになると同時に、切れ味の良さが増していく。さらにブレーキもダイレクトな操作感が増し、踏力によるコントロール性が向上する。サーキットなどで、後輪をスライドさせながらのドリフト走行もより容易になるのである。この点から言えば4WDよりも、ドライバーのスキルが求められるとも言える。

その一方で、後輪のパワーを伝えるという負担を少しだけ軽減するために、エンジン出力は4WDモデルの640馬力に対して、RWDは610馬力、最大トルク560N・mといった具合にダウンしている。それでも有り余るほどのパワーと、0~100km/h加速は3.5秒、0~200km/h加速は9.6秒と言うパフォーマンスなのだから、不満などあるわけがない。もちろん、細心の電子制御によって後輪のトラクションはコントロールされ、少々のことではスピンアウトなどと言う状況には陥らないはずである。

抜けのいいサウンドを生で感じられる贅沢

薄くつくられたスポーツシートのヘッドレストには、誇らしげに猛牛のロゴが。
薄くつくられたスポーツシートのヘッドレストには、誇らしげに猛牛のロゴが。
各種操作スイッチがずらりと並ぶコクピット。ランボルギーニには、男心をくすぐる仕掛けが満載だ。
各種操作スイッチがずらりと並ぶコクピット。ランボルギーニには、男心をくすぐる仕掛けが満載だ。

エンジンをスタートさせると、それなりにけたたましく背後のV10が目覚める。1速にシフトして市街地に乗り出した。予想どおり、ステアリングのフィールはダイレクト感があり、“運転している!”感覚がより伝わってくる。さらに「ウラカン」はベイビーランボと言われるだけあり、ボディのサイズ感がとても掴みやすい。軽快なハンドリングに、このテのスーパースポーツとしては驚くほど体に馴染むのが早いのである。高速道路やワインディングなど、高い速度域の走りでなくとも運転が実に楽しい。

スポーツカーは、ドライバーのコントロールする領域が増えるごとに、ドライビングがシビアになる。スポーツカーを自らの運転スキルで、可能な限りコントロールしている感覚がどんどんと増していく。出来のいいスポーツカーはフィット感(クルマとの一体感)があるため、飛ばさなくても走りが楽しいのである。

しかし、このクルマはランボルギーニである。腕自慢のスポーツカー好きの心を刺激するすべをしっかりと心得ている。時速50km/hまでなら走行中でもオープンにできることを思い出し、ルーフを開け放ってみた。とたんに自然吸気のV10エンジンが奏でる抜けのいいサウンドが心地よく聴こえてくる。

ステアリングフィールの上質さに感動

ゲームの画面のようなメーターパネル。アクセルペダルを踏み込むと間髪入れずに回転系の針が回り、乾いたサウンドを聴かせてくれる。
ゲームの画面のようなメーターパネル。アクセルペダルを踏み込むと間髪入れずに回転系の針が回り、乾いたサウンドを聴かせてくれる。
後ろの黒い整流板やフロントバンパーは、RWD専用デザイン。4WDモデルとの違いを瞬時に判別できる人は、相当なカーマニアに違いない。
後ろの黒い整流板やフロントバンパーは、RWD専用デザイン。4WDモデルとの違いを瞬時に判別できる人は、相当なカーマニアに違いない。
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初夏の風を全身に受け、心地いいこともあるが、それ以上にエンジンサウンドを、よりダイレクトに感じ取れるのがいい。それまで聴いていたオーディオをオフにして、背後から響くエグゾーストノートだけを楽しみながら、風に吹かれる快感。ランボルギーニならではのサウンドチューンは本当に気持ちがいい。軽快な走りと風と、そしてエグゾーストノートの三位一体の味わいがもたらす、最高のひとときだ。

気分が盛り上がってきたところで高速道に乗り込んでみた。ここからは法定速度がもどかしく、むしろフラストレーションが溜まる状況ではあったが、それでもスーパースポーツとして素性の良さを心ゆくまで楽しむことができた。後輪がパワーを、前輪が操舵とブレーキを担う明確な役割分担は、速度が上がるほどはっきりした運転感覚となって伝わってくる。特にステアリングフィールの上質なこと。

ここで、ステアリングに装備された、走行モードをセレクトできるスイッチを試してみる。モードは3つあるが、サーキットなどを走るモード選べば、後輪駆動ならではのドリフト走行も可能となる。だが、一般公道でその一線を越えたまま走る続けることは、やはり慎むべきであり、本来の気軽さを感じさせるクルマではなくなってしまう。ただでさえランボルギーニは目立つ存在。それだけに必要だと感じたのは“大人の自制心”という走行モードだと思った。

【ランボルギーニ「ウラカンEVO RWD スパイダー」】
ボディサイズ:全長×全幅×全高=4,520×1,933×1,180mm
車両重量:1,509kg
駆動方式:MR
トランスミッション:7速AT
V型12気筒DOHC 5204cc
最高出力:449kw(610PS/8,000rpm)
最大トルク:560Nm/6,500rpm
価格:¥26,539,635(税込)

問い合わせ先

ランボルギーニ

TEL:0120-988-889 

この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。