現役を貫くだけでなく、70歳を過ぎてもなお第一線で活躍し続けるキャリアたち。それぞれの分野の第一人者でもある4人にお伺いしました。
本記事ではアナウンサー・加賀美幸子さんにお話を伺います。
主張しすぎず埋もれすぎず、最終伝達者として聴き手に届けたい
加賀美さんがラジオ番組の録音をしているNHKのスタジオを訪ねると、『古典講読』と『漢詩を読む』の収録を終えた彼女が、颯爽と現れた。朝からスタジオに入り、19時まで4本の本番を終えたとは思えない、凛とした姿と笑顔。
「何十年続けても毎回新鮮に感じますね。私は番組の最終伝達者ですから、ディレクターや音声技術者など制作のプロとともに、作品の内容と心をしっかり届けることが仕事。出すぎればうるさいし、足りなければ届かない。何を加え何を削るか、番組と息を合わせて進行します」
加賀美さんのこのスタイルは20代のころから変わらない。「彼女はしっかり話を聞いてくれる」と対談相手からも指名されることが多かった。
「若手時代、ある上司から『自分を抑えた君のやり方ははやらない』と言われたこともありましたよ。私は、はやるものはいずれ廃すたれると思っていました。目立つのではなく、内容に耳を澄ませ、ていねいに聞き取り着々と底力をつけていきたい、それが私の思いでした」
その結果が、今。20年以上続くラジオ番組やドキュメンタリーなど変わらずアナウンサー道を歩み続け、言葉や生き方の講演や講座も多い。79歳の今も艶のある落ち着いた声を多くの人が求めている。
「音声表現はストレートに伝わるので評価もはっきりしている。常に結果が問われる環境に身をおき、今後も鍛錬します」
加賀美さんの仕事年表
●23歳 アナウンサーとしてNHK入局。『くらしの窓』や『ばらえていテレビファソラシド』『夜七時のTVニュース』など、幅広く活躍。
●42歳 大河ドラマ『峠の群像』の語り。(のちに『風林火山』も担当)
●57歳 女性初の理事待遇エグゼクティブ・アナウンサーとなる。
●60歳 NHKを定年退職。千葉市女性センター館長に就任。『NHKアーカイブス』『ラジオ深夜便』を担当。
●79歳 「放送人の会」理事や「NPO日本朗読文化協会」名誉会長などを務める。『古典講読』『漢詩を読む』『趣味の園芸〜『万葉の花』など放送中。
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- PHOTO :
- 望月みちか
- WRITING :
- 大庭典子
- EDIT&WRITING :
- 喜多容子(Precious)