多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、「人」を連れていきたい“大人のためのレストラン”にフォーカス。第5回は、2017年7月10日に移転オープンした麻布十番の「カラペティバトゥバ!」をご紹介します。

店の「顔」といえる迫力のカウンターを据えて再オープン

2009年のオープン以来、カウンターを主体とした“構えずに楽しめる”フレンチとして人気を博してきた麻布十番の「カラペティバトゥバ!」。オーナーソムリエの長 雄一氏は、バーニーズ  ニューヨーク 横浜店の地下にあったイタリアン「ブレビス」を経て、「コート・ドール」、「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ(現ナリサワ)」と名立たるレストランでシェフソムリエとして活躍した輝かしいキャリアの持ち主。自身の経歴が活きる上質な料理とサービスの提供に加え、独立にあたってコンセプトに掲げたのは“誰もがカジュアルにフレンチを楽しめる”こと。それを象徴するのが、店内で圧倒的な存在感を放つ生木のカウンターです。

「構えずフレンチを楽しんでいただくため、クロスのかかったテーブルではなく、木のカウンターを用意しました。お客様と向かいあうカウンタースタイルならよりサービスマンの特徴が出ますし、相手の視線が気にならない横並びで座ることで、お客様同士の会話も弾みます。ほかのお客様の料理が見えるので、注文した以外のメニューを目にしていただけるのもポイントです(笑)」(長オーナー)

コの字型のカウンターは、移転前から1席増えて全16席。奥に覗くキッチン横にはシェフズテーブル、その奥に個室としても利用できるテーブル席があります。さらに、バルコニーにはテラス席も。
コの字型のカウンターは、移転前から1席増えて全16席。奥に覗くキッチン横にはシェフズテーブル、その奥に個室としても利用できるテーブル席があります。さらに、バルコニーにはテラス席も。

店の中央に位置する、オーナーの思い入れも迫力もたっぷりのカウンター。実は、半年前に火災を免れた奇跡的なカウンターなのです。オープンから約7年、コンセプト通り“上質な料理をカジュアルに”楽しめる場所として確固たる支持を得てきたレストランですが、昨年末にビル内で火災が起き、移転と休業を余儀なくされることになりました。「麻布十番は、食べることが好きな“大人”の多いエリア。外国人の方も多く、落ち着きがありながらさまざまな人が集まる、東京でもほかにない素敵なエリアだと思います。奇をてらうことなく、この土地に根付いた存在でいたいです」と語る長さん。移転先も迷うことなく麻布十番を選び、以前よりさらに駅近の便利な場所に店舗を構えました。新しい内装でも、もちろん主役は木のカウンター。燃えなかったものの煙を吸い、煤だらけになってしまったそうですが、職人さんたちが丁寧に削り、写真のような堂々とした姿に蘇りました。以前は奥まっていた厨房がライブ感のある半オープンスタイルになったのも特徴。新たに「カラペティバトゥバ!」に加わった魅力のひとつです。

カウンターのほか、前の店舗から好評だったキッチンをのぞむシェフズテーブルも設置。また、その奥には個室としても利用できるテーブル席を備えました。隣接したシェフズテーブル部分の扉を開けて繋げることも可能なので、会食や友人との集いなどにもぴったり。また、初めてテラス席も新設。天気のよい日に夜風を感じながらおいしいワインで乾杯……なんて最高ですよね。カウンター主体でありつつ多様なシーンに対応する場を設けているのも、大人の街にふさわしいレストランならではといえるでしょう。

店舗奥に位置する、小部屋風のテーブル席エリア。壁には以前の店舗の写真が飾られています。
店舗奥に位置する、小部屋風のテーブル席エリア。壁には以前の店舗の写真が飾られています。

洗練されていながら、ほっと安心感のある料理

以前と変わらず、メニューは旬の食材に合わせたアラカルトと、アラカルトから選りすぐった料理で構成する2種類のコース。なかでも、常に用意しているのがフレンチの矜持として欠かせないフォアグラと、富士山麓で育つ希少な富士幻豚を使った料理。腕を振るうのは、フランス、イギリス、日本の各国のフレンチで経験を積んだのち、2016年1月からシェフを務める馬堀直也氏。「料理にあたって大切にしているのは、シンプルであること。手をかけすぎず、食材を生かすよう心がけています」と語ります。

季節に応じてメニューを変えつつ、常に用意しているのがフォアグラを使った一皿。こちらは夏の前菜から、「冷たいフォアグラのフラン 完熟パイナップルとビーツのアグロドルチェ」¥3,240。蜂蜜で少し甘みをもたせたフォアグラのフランにレモンバームのジュレで香りを、ビーツのアグロドルチェで甘酸っぱさをプラス。塩はカマルグのフルール・ド・セル。軽い食感でさっぱり食べることができる、まさに夏のフォアグラ料理です。
季節に応じてメニューを変えつつ、常に用意しているのがフォアグラを使った一皿。こちらは夏の前菜から、「冷たいフォアグラのフラン 完熟パイナップルとビーツのアグロドルチェ」¥3,240。蜂蜜で少し甘みをもたせたフォアグラのフランにレモンバームのジュレで香りを、ビーツのアグロドルチェで甘酸っぱさをプラス。塩はカマルグのフルール・ド・セル。軽い食感でさっぱり食べることができる、まさに夏のフォアグラ料理です。

当然、シンプル=単純ということではありません。それぞれのメニューには、3か国でフランス料理一筋にキャリアを積んだ馬堀シェフの経験に裏打ちされた技と美的感覚が生きています。素材のもつ味と香りがいきいきと表現されていて、目にも美しく、口に含んだ時に薀蓄抜きで“素直に”「おいしい」と言葉がでるような料理。ここでは、奇抜さやサプライズを追求した料理とは異なる、洗練されていながらほっと安心感のある大人のフレンチを味わうことができます。

「富士幻豚のロースト」はリピーターの多い人気メニュー。付け合わせは季節によって変わり、本日はジロール茸で¥4,860。固くならないよう低温でじっくり火を入れた富士幻豚のモモ肉に、茸とアーモンドスライスを添えて。「ほかの豚に比べて格段に旨みがあるうえ、通常なら固いモモ肉もやわらか。脂身もしつこさがなく、女性でも完食される方が多いですね」(馬堀シェフ)。アラカルトメニューはいずれも2人分の量で、取り分けて提供されます。写真は1人分ですが、豚肉が約100gとボリュームたっぷり。
「富士幻豚のロースト」はリピーターの多い人気メニュー。付け合わせは季節によって変わり、本日はジロール茸で¥4,860。固くならないよう低温でじっくり火を入れた富士幻豚のモモ肉に、茸とアーモンドスライスを添えて。「ほかの豚に比べて格段に旨みがあるうえ、通常なら固いモモ肉もやわらか。脂身もしつこさがなく、女性でも完食される方が多いですね」(馬堀シェフ)。アラカルトメニューはいずれも2人分の量で、取り分けて提供されます。写真は1人分ですが、豚肉が約100gとボリュームたっぷり。

オーナーソムリエの思いが息づく、料理ありきのワイン

ワインは主に「生産者を訪問して直接買い付けているほか、仕入れ、輸送、配送まで細心の温度管理をされています」と長オーナーが信頼をおくフランスワインのインポーター、フィネスから。グラスは¥1,080〜、ボトルは¥6,480〜。写真のラインナップのうち、3種類はグラスでも提供。左端のロゼ・スパークリングが¥1,080、その隣のシャンパーニュが¥1,800、右から3番目の白(ゲヴェルツトラミネール)が¥1,200。
ワインは主に「生産者を訪問して直接買い付けているほか、仕入れ、輸送、配送まで細心の温度管理をされています」と長オーナーが信頼をおくフランスワインのインポーター、フィネスから。グラスは¥1,080〜、ボトルは¥6,480〜。写真のラインナップのうち、3種類はグラスでも提供。左端のロゼ・スパークリングが¥1,080、その隣のシャンパーニュが¥1,800、右から3番目の白(ゲヴェルツトラミネール)が¥1,200。

オーナーがソムリエだけあって、ワインのラインナップにも個性が光ります。フランスの主なワイン産地を網羅したワインリストでは手頃な価格帯からグラン・ヴァンまでをそろえつつ、グラスワインは7種類ほどの日替わりに加え、常時20種類程度を用意。グラスではイタリアやオーストリアなどフランス以外のワインが登場することも。今では珍しくない料理とワインのペアリングも、オープン時からいち早く「ワインデギュスタシオンコース」として提案してきました(「ワインデギュスタシオンコース」の値段の目安は4杯¥5,000〜。量もお客様に合わせて細かく対応し、値段は量に応じて調整)。

「グラスワインは何より料理ありきです。写真で並べたワインなら、左から3番目のボルドーの白には鮎、右から3番目のアルザスのゲヴェルツトラミネールにはフォアグラ。旬の食材に合わせて料理が変わるように、料理に合わせて試飲を重ね、ベストなワインを都度セレクトしています。独立する前から、料理人と組んで店をやりたいと考えていました。ワインバーではなく、あくまでレストランというスタイルでフレンチを楽しんでいただきたいと思っています」(長オーナー)。なるほど、フレンチを気軽に楽しむというだけであれば、よりカジュアルなビストロや料理にこだわったワインバーという選択肢もあるかもしれません。でも、「カラペティバトゥバ!」がオンリーワンたる所以は、ここがレストランだということ。フレンチを食べ慣れた方には普段使いのように通えて、フレンチに行くのは少し背伸びしたい時という方にとっては肩肘張りすぎず、かつフレンチならではの“ハレ”感を味わえる場所。両者どちらもが、心からフレンチの魅力を味わえるレストランなんですね。

「カラペティバトゥバ!」と聞くと、一瞬どんな難しいフランス語かと身構えてしまいますが、実は「お腹が空くなら/食欲さえあれば大丈夫!」という意味なんです。「確かにそうかも……」と頷いてくすっとしてしまうような、親しみのある店名ですよね。約半年の休業期間を経て、新章をスタートさせた「カラペティバトゥバ!」。営業再開を心待ちにしていた方も初めてという方も、フレンチが大好きという方も少し緊張してしまうという方も、きっとそれぞれリラックスしてとびきり“おいしい”時間が過ごせるはずです。

移転前から変わらないスタッフ陣。左端がオーナーソムリエの長氏、その隣が馬堀シェフ。休業期間中はスタッフ皆で日本各地のワインや食材の生産者を訪ねたそう。「育つ環境を実際に体感したことで、食材の生かし方が変わりました」(馬堀シェフ)
移転前から変わらないスタッフ陣。左端がオーナーソムリエの長氏、その隣が馬堀シェフ。休業期間中はスタッフ皆で日本各地のワインや食材の生産者を訪ねたそう。「育つ環境を実際に体感したことで、食材の生かし方が変わりました」(馬堀シェフ)

問い合わせ先

  • カラペティバトゥバ! TEL:03-3588-0333
  • 営業時間/17:30〜24:00LO
    定休日/日曜(第3日曜は営業、翌月曜は営業)
    コース(前菜2品、魚料理か肉料理、デザート、お茶¥6,480、
    前菜2品、魚料理、肉料理、デザート、お茶¥8,640)、アラカルト共にあり。
    カウンター16席、テーブル2名がけ4席、
    シェフズテーブル6名がけ1テーブル、そのほかテラス席あり。
    住所/東京都港区麻布十番1-9-2 ユニマット麻布十番ビル4階
この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
濱津和貴
EDIT&WRITING :
門前直子