「シャネル」の名品、「コスチュームジュエリー」という美学

時代を超える唯一無二の存在感に宿る哲学、美しさを生み出す職人技…背景を知るほどに魅力が増す、「シャネル」の名品。上品な華やぎ、洗練されたモード感、主役級の存在感…。

だれもが心惹かれる「シャネル」の「コスチュームジュエリー」は、マドモアゼルの類いまれな美意識を、最高峰の職人の手技で形にした名品。女性を美しく輝かせる最新作とともに、その魅力の背景を探ります。

今回は、ガブリエル シャネルの美学を際立たせた「コスチュームジュエリー」についてご紹介します。

ガブリエル シャネルの美学を際立たせた「コスチュームジュエリー」

マドモアゼルが時代を先取り、服飾史にいくつもの変革をもたらした人物であることはよく知られています。紳士服の機能性やスポーツウエアの心地よさを女性の衣服に取り入れて、不要なものはすべて取り払い、シンプルさの中にエレガンスを見出したのです。

そんな新しいシルエットを完成させるために必要なのは、富を見せつけるためのジュエリーではなく、シンプルな服を引き立てるための装飾品でした。例えば、優雅なカフに代わる大きなバングルを両腕に。ブローチでドレープをつくり、ジュエリーベルトでウエストを強調するといったふうに。

1936年。コスチュームパールのネックレスを、バックスタイルに重ねる自由なアレンジがマドモアゼルらしい。©Lipnitzki/Roger-Viollet
1936年。コスチュームパールのネックレスを、バックスタイルに重ねる自由なアレンジがマドモアゼルらしい。©Lipnitzki/Roger-Viollet
1954年、71歳でモード界に復帰し、スーツにキャノチエ帽は定番に。パールネックレスに重ねたハサミが粋。©Douglas Kirkland/Corbis
1954年、71歳でモード界に復帰し、スーツにキャノチエ帽は定番に。パールネックレスに重ねたハサミが粋。©Douglas Kirkland/Corbis
1950年代のショーケースに並ぶ「シャネル」のコスチュームジュエリー 。パールやビザンチン風のネックレスに混じってカメリアや天使などの幸福モチーフも。©Roger Schall
1950年代のショーケースに並ぶ「シャネル」のコスチュームジュエリー 。パールやビザンチン風のネックレスに混じってカメリアや天使などの幸福モチーフも。©Roger Schall

「コスチュームジュエリーは、羨望をかきたてるためではなく、驚きを与えるためにつくられるもの。装飾であり、楽しいものであるべきです」ガブリエル シャネル

1937年、50代半ば。リボンとメタルのコスチュームジュエリーを身につけて、美しさが研ぎ澄まされていくころ。©Condé Nast/Corbis
1937年、50代半ば。リボンとメタルのコスチュームジュエリーを身につけて、美しさが研ぎ澄まされていくころ。©Condé Nast/Corbis

1920年代、イミテーションジュエリーと呼ばれるのは、裕福な婦人たちが防犯上の理由で、本物に似せてつくっていたアクセサリーでした。

それに対し、マドモアゼルは芸術品や自分に幸運をもたらすモチーフを基に、貴石や貴金属を使わず、コスチュームパールをたっぷりあしらった「本物よりも美しい」コスチュームジュエリーを創り出すのです。そして本物のジュエリーと一緒に身につけて、人目を惑わすことを楽しむ…。それもマドモアゼルの美学でした。

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Precious.jp編集部 
BY :
『Precious8月号』小学館、2020年
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EDIT&WRITING :
藤田由美、古里典子(Precious)