「何があっても一生働く」と心に誓い社長まで上り詰めた、ポーラ初の女性代表取締役社長・及川美紀さんインタビュー
「この国は、女性にとって発展途上国だ。」
これは2016年に多くの反響を呼んだ、ポーラのテレビCMのキャッチコピーです。当時、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数の日本スコアは、144か国中111位とかなり下位。現状を知ってほしいという思いと、「女性にはまだ可能性がある」という思いを表現したコピーだったといいます。
それから4年、最新のジェンダーギャップ指数における日本のスコアはというと……さらに順位を下げ、153か国中121位で、G7の中では断トツの最下位。女性の社会的地位の向上がなかなか進まないなか、ポーラは初の女性社長となる及川美紀さんの代表取締役社長就任を発表しました。
入社以来ポーラひと筋で社長まで上り詰めた及川さん。女性ならではの苦労、女性だからこその想いなど、自身の半生を振り返りながら話してくださいました。
入社1年目で突然の出向。ここでの出会いや経験があって今がある
Precious.jp編集部(以下同)――入社してから社長になられるまでの間で、ターニングポイントとなったことがあれば教えていただけますか?
出向や左遷、昇進試験に落ちたりなど、サラリーマンに起こりうる出来事はひと通り経験してきました。振り返るとそれぞれに意味があったなぁと思いますが、やはり一番のターニングポイントは入社1年目の出向でしょうか。
――入社1年目で出向になったのですか?
埼玉の販売会社に行くことになったんです。突然の出向だったため、正直悩みましたが「及川さんが来てくれてよかった」と歓迎してもらえたので、「人の役に立つってこういうことか」と一気にやる気がでました。
――どのようなご経験が後の糧になったのでしょうか。
ひとつは、弊社のポーラレディ、現在はビューティーディレクターと呼ばれる化粧品販売員の方たちにたくさんお会いできたことです。ビューティーディレクターは、ポーラと契約を結んだ個人事業主で、独立した存在です。その方たちは、役職や本社から来た人間かどうかなど関係なく「人として信用できるか、自分たちのためにきちんと働いてくれるか」という観点で私たちを見ます。
仕事はお給料をもらうためにするものと思っていましたが、「誰かに信用されるためにするもの」でもあると感じられたのは、私の初期体験としてはすごく大きかったです。
もうひとつ忘れられないのは、課長の昇進試験に落ちたこと。言葉は悪いですが、私グレたんです(笑)。
――想像できませんね(笑)。
人って最初は謙虚に仕事しているつもりでも、周りからちょっと頼りにされて、もてはやされると次第に「この部署は私がいないと回らないんじゃないか」と誤解をしてしまいますよね。私も例外ではなく、ちょうどお山の大将になっている時に昇進試験を受けたものですから、当然不合格。そして「会社は見る目がない」とグレてしまいました(笑)。
ふてくされた表情や態度が出ていたんでしょうね。弊社のビジネスパートナーであるショップオーナーに呼ばれて「がっかりさせないでちょうだい!」とものすごく叱られました。いつのまにか課長になることが目的になっていた私は猛省し、仕事の仕方や目的を見直しました。
すると翌年昇進試験には難なく合格。この販売会社での出会いや経験がなければ、今の私はいなかったかもしれません。
何があっても一生働く!仕事とプライベート両立の秘訣は「完璧な母を目指さないこと」
――結婚・出産などライフステージの変化があればなおのこと、フルタイム勤務は大変だったと思います。辞めようと思ったことはありませんでしたか?
会社を辞めようと思ったことは、山ほどあります。30年働いていて、そう思ったことがない人はいないはず(笑)。辞めたいと思うときは、だいたい何かがうまくいかないときや、違う会社からお声がけいただいたときだと思うのですが、そのときに投げ出していいのか、それとも続けるべきか自分の心を天秤にかけるわけです。
どちらの選択肢もありだと思うのですが、私の場合は投げ出してはいけない場面が多く、責任感からここまで続いてしまったという感じです。でも、働くのを辞めて専業主婦になろうと思ったことは一度もないです。
――それは働くことに対するやりがいからですか?
いえいえ、私は学生時代から一生働こうと決めていました。女性が主体的経済力を持たないと、社会的弱者になってしまうということを、幼いころの体験から感じていたんです。
それに病気や事故で夫が働けなくなってしまうかもしれないし、離婚することもあるかもしれない。「女手ひとつで家族を養えるようじゃないといかん!」みたいな思いが強くありましたので。
――家事や育児との両立はどうしていたのですか?
夫は出張も多く毎日家にいるというわけではなかったので、子どもと自分のことをなんとか頑張れば大丈夫だったというのもありますし、夫の実家が近かったので頼らせてもらいました。ほかにも、理解あるママ友が近くにいてくれたのは大きかったと思います。
――助けてくださる方が近くにいてくれるのは心強いですよね。家事が大変で仕事を辞めようということはなかったのですね。
我が家の家訓は「ホコリじゃ死なない」なんです。ほかにも「お皿なんかすぐに洗わなくても大丈夫!」みたいな(笑)。
――働きながら子どもを育てる女性にとって、すごく勇気をもらえるお話です。
「ねばならない」はすごくきついんです。「母親として料理は必ず手づくりしなければ」とか「彩りのよいお弁当を持たせなければ」とか言ってしまうと、できないことが苦しくなってしまう。そうすると、子どもに対しても後ろめたさを感じてしまいます。
だから、私はつらくなる前にお惣菜でもなんでも使えるものはフル活用! 子どもを育てるのは本当に大変なことだから、「健康に育てばOK」とだけ思って、完璧を目指すことはしていなかったです。
ミッションは「女性の活躍を証明すること」と「女性の可能性を広げていくこと」
――日本の美容業界内の大手企業では初の女性社長と伺いました。初の女性社長という点についてはどう思われましたか?
正直驚きました。日本で社長をされている女性はたくさんいますが、やはり大手企業と言われるところは、昔ながらの体質が根強いのかもしれないということを、今回の報道であらためて考えさせられました。
――女性が重要なポストに就き、もっと活躍できるような社会になるためには、及川社長に期待してしまう部分が大きいのですが……。
お客様も女性が多く、女性の感性が生かされやすい美容業界は、女性が活躍しやすい場所だと思うので、こういうところから「女性ができる」と証明していくのはすごく大事かなと思います。
弊社の場合、4000人ほどのショップオーナーがおり、そのショップオーナーそれぞれがたくさんのビューティーディレクターと呼ばれる化粧品販売員たちを束ねるリーダーで、経営者です。皆さん個人事業主としてショップの経営をしています。なかには100か所くらいのショップを束ねて月商2~3億という組織をつくっている女性もいるんです。
ポーラはそういう方たちを間近に見ていますので、女性の可能性を信じているんです。なので女性が活躍できることを証明していくのは、弊社であり私に課せられた使命だと思い、しっかり務めてまいります。
――及川さんが社長になられて、今後ポーラはどのように展開していくのでしょうか?
ポーラの商品やサービスをより多くお客様に味わっていただきたいというのは、変わらぬ想いです。商品やサービスはもちろん、ポーラのビューティーディレクターたちも自己研鑽をしていて学びの深い方たちなので、彼女たちの人柄に触れられる場所を日本のみならずアジアにももっと広げていきたい。
女性って美容体験によって、自己肯定感が高まり自分の可能性が広がるのを感じることができるような瞬間がありますよね。例えば、綺麗になった自分がうれしくて素敵な洋服に身を包み、そのまま誰かに会ったことがきっかけで、何かのチャンスをつかんだり……。
9月に出た「B.A」というシリーズのコンセプトは「自らがつくりだすポジティブな力で、いつまでも新たな美しさの可能性を広げ続ける」こと。このシリーズ同様、私自身も世の中も、女性の可能性をどれだけ広げていけるか、これから大きな挑戦が始まります。
女性が主体と思われる美容業界においても、まだまだ女性の活躍については発展途上のなか、及川さんが大手企業であるポーラの社長に就任したことで今後の流れも変わってくるかもしれませんね。及川さんのお話にはポジティブなパワーがあふれていて、明るい未来を想像せずにはいられません。
まだまだ続く及川社長のインタビュー。次回は、就任してすぐに立ちはだかった「コロナ禍」がテーマです。危機の乗り越え方から、コロナで見えたという美容の本質についてなど、たっぷりお話を伺いましたので、どうぞお楽しみに!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 篠原亜由美
- EDIT :
- 小林麻美