忘れかけていた「旅する気持ち」を呼び覚ましてくれたのが、HERMÈS(エルメス)の2021年春夏コレクションだった。
サプライズに感激! アートブックをを開いた瞬間から、コレクションがスタート
ナデージュ・ヴァンへ=シビュルスキーによるエルメスのコレクションは、まず素晴らしいアートブックが導入部となった。
それは、ショーの前に送られてきた「スクラップブック」と呼ばれるもの。「旅」ができなかったため、ナデージュが今回のコレクションのイメージを、さまざまなアーティストにリモートで投げかけ、それにインスパイアされ、製作されたアート作品の数々が、詰め込まれた創造の宝箱のような写真集であった。
QRコードを読み込むと、動画でその世界観を見ることのできる仕掛けも。
それぞれにシリアル番号が付き、世界で500冊の限定版という貴重な資料でもある。
見ることで旅する気持ちを喚起させる。自由で壮大な空気感まとったエルメスの2021年春夏コレクション
古代ギリシャの女性像の曲線を思わせる陶器の壺は、今季多く見られた、大きく背中がカットされ、ウエストのしなやかなカーブを見せるニットウエアのインスピレーションだろうか?
水平線や水彩画のような筆致でさらりと描かれたアクアブルーは、大自然が作り出すカラーへの敬意が感じられる。
バンドゥー(シンプルなブラトップ)のスタイルも多く、今シーズンの重要なコアアイテムであることが、伺える。
パンデミックにより4月のリゾートコレクション発表を断念したエルメスは、この春夏こそ自由に羽ばたきたいとの、メッセージを込めたのだろう。
センシュアルに肌を見せ、構築的でありながら、ミニマルではなく、繊細で流動的なラインが身体をより美しく引き立てる。女らしさが香りたつような、シンプルな機能美だ。
肌の色をより、繊細に映し出すのが、黄味からベージュのスキンカラーや、鮮やかなレッドからオレンジのグラデーション使いだ。上質な素材だからこそ、このカラーがコックリと仕上がるエルメスならではのカラーといえる。
職人技をさりげなく盛り込み、シンプルに見せながらも、クローズアップで見ると驚くような凝った技法も多く用いられている。
同じレザーのステッチを用いたニットとコートのアンサンブルや巻きえりのテクニックや、レザーを編んだレースのドレスアンサンブルなどがその代表だ。
舞台美術は、アーティスト、クラウディア・ヴィーザーの手によるもの。鏡と、ギリシャ彫刻の女性像が、柱のようにランダムに建てられたステージ。ウォーキングするモデルを万華鏡のように映し出す。現実と虚が混じり合う不思議な有機的な空間が、新たな時代の女性像を示唆していた。
問い合わせ先
- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Fillipo Fior(Runway)、Gaspar Ruiz Lindberg(Details)、田中麻以(Book)
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃