忘れかけていた「旅する気持ち」を呼び覚ましてくれたのが、HERMÈS(エルメス)の2021年春夏コレクションだった。

サプライズに感激! アートブックをを開いた瞬間から、コレクションがスタート

ナデージュ・ヴァンへ=シビュルスキーによるエルメスのコレクションは、まず素晴らしいアートブックが導入部となった。

アートブック1
厳選された人へ贈られた、アートブック

それは、ショーの前に送られてきた「スクラップブック」と呼ばれるもの。「旅」ができなかったため、ナデージュが今回のコレクションのイメージを、さまざまなアーティストにリモートで投げかけ、それにインスパイアされ、製作されたアート作品の数々が、詰め込まれた創造の宝箱のような写真集であった。

QRコードを読み込むと、動画でその世界観を見ることのできる仕掛けも。

アートブック4
世界で500冊限定の、エクスクルーシブなアートブック

それぞれにシリアル番号が付き、世界で500冊の限定版という貴重な資料でもある。

見ることで旅する気持ちを喚起させる。自由で壮大な空気感まとったエルメスの2021年春夏コレクション

春夏コレクションのルック1、3、18
左から エルメスの2021年春夏コレクションのルック1、3、18

古代ギリシャの女性像の曲線を思わせる陶器の壺は、今季多く見られた、大きく背中がカットされ、ウエストのしなやかなカーブを見せるニットウエアのインスピレーションだろうか?

2021年春夏コレクションのルック2、7
左から エルメスの2021年春夏コレクションのルック2、7

水平線や水彩画のような筆致でさらりと描かれたアクアブルーは、大自然が作り出すカラーへの敬意が感じられる。

2021年春夏コレクションのルック14、26、44
左から エルメスの2021年春夏コレクションのルック14、26、44

バンドゥー(シンプルなブラトップ)のスタイルも多く、今シーズンの重要なコアアイテムであることが、伺える。

パンデミックにより4月のリゾートコレクション発表を断念したエルメスは、この春夏こそ自由に羽ばたきたいとの、メッセージを込めたのだろう。

センシュアルに肌を見せ、構築的でありながら、ミニマルではなく、繊細で流動的なラインが身体をより美しく引き立てる。女らしさが香りたつような、シンプルな機能美だ。

2021年春夏コレクションのルック5、23、17、19
左から エルメスの2021年春夏コレクションのルック5、23、17、19

肌の色をより、繊細に映し出すのが、黄味からベージュのスキンカラーや、鮮やかなレッドからオレンジのグラデーション使いだ。上質な素材だからこそ、このカラーがコックリと仕上がるエルメスならではのカラーといえる。

職人技をさりげなく盛り込み、シンプルに見せながらも、クローズアップで見ると驚くような凝った技法も多く用いられている。

2021年春夏コレクションのルック36
エルメスの2021年春夏コレクションのルック36
2021年春夏コレクションのルック35
エルメスの2021年春夏コレクションのルック35

同じレザーのステッチを用いたニットとコートのアンサンブルや巻きえりのテクニックや、レザーを編んだレースのドレスアンサンブルなどがその代表だ。

舞台美術は、アーティスト、クラウディア・ヴィーザーの手によるもの。鏡と、ギリシャ彫刻の女性像が、柱のようにランダムに建てられたステージ。ウォーキングするモデルを万華鏡のように映し出す。現実と虚が混じり合う不思議な有機的な空間が、新たな時代の女性像を示唆していた。

問い合わせ先

エルメスジャポン

TEL:03-3569-3300

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Fillipo Fior(Runway)、Gaspar Ruiz Lindberg(Details)、田中麻以(Book)
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃