『ハミルトン』とはどんなミュージカルか

2015年、ブロードウェイのリチャード・ロジャーズ劇場にて/筆者撮影
2015年、ブロードウェイのリチャード・ロジャーズ劇場にて/筆者撮影

『ハミルトン(Hamilton)』は、ラップ/ヒップホップで綴るアメリカ建国裏面史ミュージカル。2015年春にオフ・ブロードウェイのパブリック・シアターに登場し、同年7月にブロードウェイのリチャード・ロジャーズ劇場に移ってプレヴュー開始。2015/2016年シーズンのトニー賞で、ミュージカル作品賞、楽曲賞、脚本賞、演出賞、振付賞、編曲賞、衣装デザイン賞、照明デザイン賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞を受賞。ピューリッツァー賞も受賞し、コロナ禍で中断する今年の3月15日までチケット入手困難作品の筆頭だった大ヒットミュージカルだ。

 出来のよさ、面白さもさることながら、このミュージカルの人気を煽ったもうひとつの要因は、オバマ大統領の一貫した『ハミルトン』推し。オバマはブロードウェイのプレヴュー期間中にいち早く観劇に来て話題になるのだが、実は、その6年前、大統領に就任した2009年の5月12日にホワイト・ハウスで開いた「詩と音楽と朗読の夕べ」に、楽曲作者/脚本家リン=マニュエル・ミランダを招待している。そこでミランダが披露したのが、まだ制作途中だった本作の楽曲の一節だった。

そして、2016年3月には、やはりホワイト・ハウスに、公演中の出演者たちを招いて、バンド演奏をバックにした彼らのパフォーマンスを地元の学生たちに見せている。

ハミルトンとは何者か

独立を目指すハミルトン(中央)と仲間たち『ハミルトン』©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.(ディズニープラスで配信中)

『ハミルトン』の主人公はアレグザンダー・ハミルトン。アメリカ合衆国初代大統領ワシントンの副官的存在だった人物だ。彼がアメリカ建国前後の政治家として異色なのは、出身がカリブ海の西インド諸島だということ。母親はアフリカ人の血を引いている可能性があると言われている。そのあたりがオバマを『ハミルトン』推しにした理由のひとつかもしれない。

 ミュージカルの原案となった評伝「ハミルトン」(ロン・チャーナウ著/井上廣美訳)に、イギリスの政治家ブライス卿が「ハミルトン一人だけが後世から正当な扱いを受けたことのない建国の父だ」と指摘した、という記述がある。「才気煥発の理論家であると同時に敏腕の行政官でもあった」(同書)というハミルトンには政敵も多く、後に出世した彼らによってハミルトンの業績が隠蔽されたのでは? という疑いがミュージカル制作の動機になっているようだ。

リン=マニュエル・ミランダとは何者か

『ハミルトン』ハミルトン役リン=マニュエル・ミランダ©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC. 
ハミルトン役リン=マニュエル・ミランダ『ハミルトン』©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.(ディズニープラスで配信中)

 ミュージカル『ハミルトン』の楽曲作者/脚本家で、オリジナル・キャストとしてハミルトンを演じたのが、リン=マニュエル・ミランダ。2007/2008年のトニー賞でミュージカル作品賞を獲った『イン・ザ・ハイツ』(In The Heights)で彗星のようにニューヨーク演劇界に登場した才人だ。同作でも楽曲作者/原案/主演男優をこなし、トニー賞の楽曲賞を受賞している。一般的には、映画『メリー・ポピンズ・リターンズ』のジャック役として知られているかもしれない。世界で最も動向が注目される演劇人のひとりだ。

 ミランダ自身はニューヨーク生まれだが、両親はプエルトリコからの移民。十代までのミランダは、年にひと月はプエルトリコの祖父母の元で過ごす習慣だったという。そうやって育まれたカリブ海に対するルーツの意識がハミルトンへの関心を生んだことは想像に難くない。

『ハミルトン』をどうやって観るか

『ハミルトン』©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.
『ハミルトン』©2020 Lin-Manuel Miranda and Nevis Productions, LLC.(ディズニープラスで配信中)

『ハミルトン』の舞台映像は元々は映画館上映を前提に撮られたが、コロナ禍で映画館が閉まったため、この夏、英語字幕を付けてオンラインでの世界同時配信となった。配信元はディズニープラス(下記リンクよりアクセスを)。初回1か月(31日間)は無料のサービスがある。ディズニープラスでは、スティーヴン・ソンドハイムの名作ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』の映画版や前述の『メリー・ポピンズ・リターンズ』等も観られるからうれしい。

 今では貴重になったブロードウェイ・オリジナル・キャストによる『ハミルトン』の舞台映像。存分に楽しまれたい。

ディズニープラス

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」