いわゆる”ウィズコロナ”の時代、オンラインによる記者発表は欧米の企業にとって“当たり前”に。クルマの世界でも、欧米のメーカーはとりわけ熱心に、グローバルへの情報を発信している。これもデジタル技術のなせるわざだ。

好例が、ドイツのアウディAG(アウディ本社)。2020年11月23日に「Audi Tech Talk」と題し、脱炭素化への取り組みをジャーナリスト向けに発信した。

EVを2030年までに30車種揃える!

オンラインで行われたTech Talk。
オンラインで行われたTech Talk。
アウディは各地の工場を自然エネルギーで稼働させカーボンニュートラルをめざしている。
アウディは各地の工場を自然エネルギーで稼働させカーボンニュートラルをめざしている。

Audi Tech Talkは、技術を中心にアウディという企業の活動を紹介するデジタルのプログラム。これまでに「クワトロ」や「プラグインハイブリッド」などを配信してきた。本来はジャーナリストを集めて催されるのだが、移動が極端に制限された現在、オンラインが活用されている。

今回のTech Talkも、グーグルクロームを使って視聴する約30分。コンピュータ画面に登場したボードメンバー(重役)は、「アウディはこれまで自動車生産に注力してきましたが、これからはもっと大きな視野に立って行動する企業になります」と語り、私たちを驚かせてくれた。

アウディの言いたいことは、温室効果ガス削減への取り組みについてである。バリューチェインにおいて2025年には、排出する炭素と吸収する炭素の量をバランスさせるという。

2030年までにEVを30車種そろえ、「温室効果ガスの排出を(2015年比で)30パーセント削減します」とアウディAGでロジスティクスを担当するボードメンバーのペーター・ケスラー氏は画面を通して語った。

現在、世界中で年産180万台の規模で活動するアウディだけに、脱炭素の効果が表れれば、地球温暖化防止のためにも、一定の効果が期待できそうだ。

キーワードは「Future is electric」

アウディ=高性能車のメーカーというイメージを作ったクワトロ。
アウディ=高性能車のメーカーというイメージを作ったクワトロ。
アルミニウムのボディに低燃費エンジンを組み合わせたA2。
アルミニウムのボディに低燃費エンジンを組み合わせたA2。
ルマンのLMP1クラスで常勝だったR18 e-tron。
ルマンのLMP1クラスで常勝だったR18 e-tron。

アウディといえば、技術による先進というスローガンを掲げ、1980年に高速走行用のフルタイム4WD技術の導入いらい、ここにいたるまで、自動車界の先頭を走ってきたメーカーとして知られる。

上記クワトロは世界ラリー選手権で覇権を握ったし、1999年いらいのルマン24時間レース参戦で13回の優勝をなしとげたのも、アウディが手がけたレースカーだ。

なかには、ディーゼルエンジンの「R10 TDI」(2006年)やハイブリッドの「R18 e-tron」(10年)など、レースにおける常識やぶりのモデルがある。それで優勝なのだから、アウディの技術力の高さたるや、推して知るべしだ。

いっぽう、軽量化によって速度と操縦性と燃費を同時に追求したオールアルミニウムのボディの「A8」(1994年)や、100キロ走るのに燃料を3リッターしか消費しない、いわゆる“3リッターカー”の「A2 1.4TDI」も、アウディだから実現できた技術である。

かたちはセダンでも中身はスポーツカーというコンセプトの「RS」で世間を驚かせたのもアウディだし、姉妹会社のランボルギーニの「ウラカン」とシャシーとV型10気筒エンジンを共用する「R8」なるスーパースポーツでフェラーリに挑戦したのも、やはりアウディだ。

いま、アウディAGの幹部がことあるごとに口にするのは「Future is electric」という言葉である。180度の方針転換という感すらある。ただし、おもしろいのは、「未来は電気(自動車にある)」と、「未来は刺激的だ」とのダブルミーニングである点。

刺激的な未来とは、アウディがサプライヤー(部品供給業者)とともに急ピッチで進める脱炭素政策の先にある、クリーンなクルマ生産、を意味しているように思われる。これも技術による先進をめざすアウディらしいありかたではないか。

新しい試みはサプライヤーとも

CO2ニュートラルのブリュッセル工場で作られるEVのe-tron。
CO2ニュートラルのブリュッセル工場で作られるEVのe-tron。
アルミニウムの二次使用もエネルギー節約のために重要。
アルミニウムの二次使用もエネルギー節約のために重要。
LNGで走るトラックもこれから数を増やすという。
LNGで走るトラックもこれから数を増やすという。

アウディ本体では現在、ベルギーとハンガリーにもつ工場で、温室効果ガスの劇的な削減を実行。太陽光発電や地熱発電を積極的に利用するよう全体を再設計し、結果、CO2ニュートラル(排出と吸収のバランス)を達成している。

並行してドイツの工場では、完成車を積み出し港へと運ぶのに、鉄道を使用。かつ、ドイツ鉄道と協力して温室効果ガス排出の少ない「DBエコプラス」なるものへとシフトしている。これによって年に1万3000立米のCO2削減という結果が出ているそうだ。

輸送用トラックを使うこともある。そのために、LNG(液化天然ガス)のエンジン搭載車をアウディでは用意。ディーゼルエンジン車に対して、CO2排出量は20パーセント減少、窒素酸化物は85パーセントも減らせるのがメリットにあげられている。

クルマじたいも、さきに触れたオールアルミニウムボディのA8いらい、アルミニウムを多用してきたアウディは、一次アルミニウムから二次アルミニウムへとシフトしている。これによって「95パーセントのエネルギー削減」が出来るという。

サプライヤーとは、合成樹脂部品のケミカルリサイクルを検討。アルミニウムと同様に製造過程で大量の電力を消費するバッテリーのコンポーネンツに関しても「見直しをすることを決定」と、アウディでは謳う。

化石燃料によって、自動車史に残る数々の偉業を、前記のとおり達成してきたアウディ。これからは、日本にも20年に導入されたe-tronファミリーなどで、新しい時代を切り拓こうとしている。その意気込みを今回、世界へと発信したのだ。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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