「出会いや連絡方法のツールは変わっても、男女のままならなさは昔も今も変わらない」―間室さん

本_1
『モダンラブ いくつもの出会い、とっておきの恋 ニューヨーク・タイムズ掲載の本当にあった21の物語』著=ダニエル・ジョーンズ 訳=桑原洋子 河出書房新社 ¥1,800

本書はタイトルどおり、アメリカの有名な新聞『ニューヨーク・タイムズ』に’04年から投稿されている恋愛実話コラム集。どれもなんて違うんだろう、と読みながら驚いた。

例えば、母親が国務省に勤務する有能な心理分析官で、毎回自分のBFをひと目見ただけで「気に入らないわ」と言ってくる、という32歳の女性の投稿あり、居住者の恋の行方を静かに見守るドアマンの物語あり、新しいマッチングアプリを創設したCEOに女性ジャーナリストが「あなたは本気で恋をしたことがある?」と質問したことから始まる彼の過去の失恋と起死回生あり。実にバラエティに富んでいる。でも、こうも思うのだ。なんて同じなんだろう、と。

「既読スルー」を投稿した女性は、つきあいたての彼が返事を寄こさないことに不安と不満をふくれ上がらせる。「自分が送ったメールは変だったのか」に始まり、「彼は返信しない派なのかも」を経て、「これから5分携帯を見なければメッセージが来る」という意味不明なおまじないに走り、さらに「何も言ってこないのは、私の本性に気づいたから?」と考え、バレたら好きになってもらえそうにない自分の癖や習慣を数え上げる。

でもこんなこと、おそらく狼煙が通信手段だったころから何も変わっていないのだ!

本当の私を受け入れてほしい、完璧になりたい、素敵な恋さえ見つけたら人生はうまくいくのに…。

出会いや連絡方法のツールは変わっても、男女のままならなさは昔と同じ。現代の恋は永遠の愛の姿、と教えてくれる21話。

『モダンラブ いくつもの出会い、とっておきの恋 ニューヨーク・タイムズ掲載の本当にあった21の物語』
 
 
著=ダニエル・ジョーンズ 訳=桑原洋子 河出書房新社 ¥1,800(税抜)
『ニューヨーク・タイムズ』紙の日曜版の連載コラムで、恋愛に限らない広義の"愛"をテーマに、実話で語られる21の物語を収録。LGBT、養子との関係、老いらくの恋など、多岐にわたる出会いと別れを伝えるストーリーはユーモアとペーソスが入り混じる、大人のための一冊。
この記事の執筆者
TEXT :
間室道子さん 代官山 蔦屋書店コンシェルジュ
BY :
『Precious2月号』小学館、2021年
岩手県生まれ。幼いころから「本屋の娘」として大量の本を読んで育つ。2011年入社。書店勤務の傍ら、テレビや雑誌など、さまざまなメディアでオススメ本を紹介する文学担当コンシェルジュ。文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/早川クリスティ―文庫)などがある。 好きなもの:青空柄のカーテン、ハワイ、ミステリー、『アメトーーク』(テレビ朝日)
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)