愛らしい表情やおちゃめな行動で癒やしてくれるだけでなく喜びや悲しみにも寄り添ってくれる唯一無二の存在。ペットは家族の一員であり、相棒であり、よき理解者でもあります。

雑誌『Precious』2月号では、「温かな時間流れる、「ペットと暮らす家」」企画を展開していました。互いの深い愛情が感じられる素敵な家を取材するほか、愛するペットのためのプレシャスなアイテムもご紹介します。

本記事では「ARMS」ディレクター岩田朋代さんの愛犬が駆け回るオープンな家をご紹介。広大な敷地に建つ日本家屋をフルリノベーションし、岩田さん夫婦のこだわりのつまったお宅です。

岩田 朋代さん
「ARMS」ディレクター
(いわた ともよ)名古屋出身。靴の専門学校に入学のため上京。靴の企画デザイン会社を経て、夫・岩田卓之さんと2005年バーガーレストラン「ARMS」を開業。現在は営業や経理を担当。2017年、南葉山の自邸を建築、都心と行き来している。

「窓もドアも開け放って、犬も人も自由に過ごす。この開放感が気に入っています」

リビングの大きな窓を開け放てば、そのままウッドデッキへ。その先には、愛犬のラブラドール・レトリバーのヒニーとビッケが駆け回れるほど大きな庭が広がります。

都心から車で約1時間半。神奈川県、南葉山の約430坪(!)の広大な敷地に建つフラットハウス。

「イメージはアメリカの田舎町にたたずむ、ウッディで温もりのある小屋。風通りがよく明るくて、開放感がある家にしたくて。夏も冬も基本的には一年中、窓やドアを開け放っています。犬たちも人間も好きな場所でそれぞれが自由に過ごせる空間が気に入っています」

そう話すのは、この家に暮らす岩田朋代さん。夫の卓之さんとともに、代々木公園に隣接する人気のバーガーショップ「ARMS」を運営しています。愛犬家が集う店としても有名で、アットホームかつ古きよき時代のアメリカの空気が漂うお店とこちらの自宅、なんだか雰囲気が似ているような…?

「よく言われます(笑)。お店も家も自分たちの好きなテイストが満載ですから。というより、お気に入りのものしかないですね。設計士の方と相談しながら、やりたいこと、好きなものをすべて、この家に詰め込みました」

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古きよきものが好きな岩田さん夫妻。家具やインテリア雑貨はほぼヴィンテージ。海外や国内のアンティークショップやオリジナルの古材天板、輸入雑貨などを扱う「GALLUP」で購入。フルリノベーションの際、あえて残した天井の梁や柱、エイジング加工されたオーク材のフローリングなどと完璧にマッチ。

以前から、ヒニーとビッケとともに、ドライブがてらときどき訪れていたという湘南エリア。鎌倉や葉山、逗子などで物件を探していたところ、「ちょっとおもしろい物件がありまして…」と不動産屋の担当者に案内されたのがこちらの家でした。

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庭に向いて配置されたソファの上でくつろぐヒニー(左)とビッケ(右)。特に14歳半と高齢のヒニーは、ここでのんびり、庭作業をする卓之さんを眺めているんだとか。

「こだわったのは木製の窓枠。アメリカのアンダーセン社のもので統一しました」

「湘南方面で、ユニークかつ私たちの理想に近い物件を取り扱っている『エンジョイワークス』にお願いしました。最初は、犬たちがいるので庭は広いほうがいいし、できれば平屋がいい。海に近いけれど塩害がひどくないエリア(夫の趣味である古い車が傷まないように)で、車を3台以上は置きたいという条件をお伝えしました。

ところがそれに加えて夫が『普通の人はひるむようなハードル高めのおもしろ物件を見たい』と言ったら、担当者のやる気スイッチが入ったみたいで(笑)」

そんなやりとりの後、4軒目に見にきたのがこの物件。

「なんの変哲もない普通の日本家屋が建っていました。ただ、庭の迫力がすごくて。池には立派な鯉がいて、季節ごとに色づく木々が植えられ、高低差のある庭園内には飛び石が敷かれぐるりと回遊できるようになっていたんです。これだけの本格的な日本庭園を維持、あるいは大きく変えるのはかなり大変だなぁ、と。ただ、古きよきもののよさを生かして、自分たち流にアレンジするには、とてもやりがいのある家。夫婦でここだね、と即決しました」

土地を見たときに直感的に浮かんだ家のイメージを卓之さん自らスケッチし設計士と共有。結果的にその絵のとおりの家に仕上がったそう。

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キッチンは朋代さんのお気に入りが詰まっているエリア。
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「いちばんのこだわりはホーローのダブルシンク! 約150年前のアンティークで、家を建てる前に福生の『DECO DEMODE』で見つけてキープ。このシンクに合わせたキッチンづくりをお願いしました」
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もうひとつ、庭を見ながら料理をしたいという朋代さんの理想もかなえた開放感あふれるキッチン。
「冷蔵庫の存在感が苦手で(笑)。業務用のものをカウンター下に、通常の冷蔵庫はパントリーに隠しています」
「冷蔵庫の存在感が苦手で(笑)。業務用のものをカウンター下に、通常の冷蔵庫はパントリーに隠しています」

「もともとあった日本家屋の天井を抜き、梁だけ残してフルリノベーションしました。数部屋に分かれていた壁は取っ払って、リビング・ダイニングと寝室だけの1LDKに。犬も家族も、どこにいてもだれかの気配が感じられ、どの部屋からも庭に出られるようにしました」

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洗面台は、100年前のホーロー、アメリカンスタンダード社製で、鏡はヴィンテージ品。アンティークのブラック&ホワイトのタイルでN.Y.スタイルに。
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バスルームのタイルもアンティーク風。クラシックなグローエ社のシャワーヘッドが印象的。

意外と目につくスイッチこそ熟考を!

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窓枠やタイルはもちろん、取っ手や蝶番にいたるまでこだわった岩田夫婦。意外と盲点になりがちのスイッチもこだわりのヴィンテージ風。

こだわりは、印象的な木製の窓枠。すべてアメリカ・アンダーセン社のもので、インターネットやアウトレットで探し自分たちで購入。玄関扉や室内のペパーミントのアンティークドアも夫婦で見立てたとか。

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リビングから続く寝室にも、アンダーセン社の木製窓。2面採光で明るい。ベッドルームからも外のデッキに出ることができる。
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朋代さんのイチオシ(?)は「GALLUP」でひと目惚れした味のあるヴィンテージの脚立。クッションを置く棚としても活用中。

「設計士さんや現場の職人さんたちと相談しながら、ときに無茶な要望も楽しみながら実現してくれました。まさにチームプレー(笑)。本当に楽しい家づくりでした」

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元の日本家屋のものを生かした天井の梁が、白い壁や天井に映える空間。家具はほとんどアンティーク。
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右奥、アイロン台が飾られているレンガ造りのスペースには、いずれ薪ストーブを設置予定。
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中上の黒いチェアは、イギリスのアンティーク。カラフルなブランケットは卓之さんがセレクト。
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「夫婦そろってキャンプ好きなので確かにブランケットは必要ですが…、夫はかなりのブランケットマニアで、気づくと新しいブランケットが増えています(笑)」

「不具合も不便も楽しみながらヒニーとビッケ、夫とともに家をじっくり熟成させていきたい」

家族の気配を感じながら、お気に入りの場所でまどろんだり、広い庭を駆け回ったり。ヒニーもビッケもマイペースに過ごしています。

「『ARMS』をオープンしたのが2005年。翌年、私が勤めていた会社を辞める1週間前に、勢いでペットショップから連れて帰ってきたのがヒニーです。突然で夫もびっくりしていましたが、ふたりとも幼少時代から犬と暮らしていて、いつか飼いたいと思っていたんです。ヒニーがうちにきてからお店も軌道にのり、すべてが素敵な方向に向かったので、私たちの運命の相棒です」

一方ビッケは、ヒニーと暮らし始めてから6年後、散歩中に声をかけられた飼い主さんに『生まれたばかりの子犬がいる』と言われ、見せてもらったのがきっかけだそう。

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岩田邸のシンボルツリー、夏みかん。元の日本庭園にあった樹木を整理して芝を張ったが、立派なこの夏みかんの木は残したそう。「庭いじりは夫がメイン。少しずつ好みの植物を植えていき、理想の庭をつくりたいそうです。管理用に軽トラックも購入し、かなり本格的です」
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小高い斜面を駆け回るのは9歳のビッケ。
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14歳を過ぎたヒニーはその姿をリビングで眺める係。

 

「店の近くに住んでいたころは、営業前と営業後、散歩に連れていっていました。この家に来てからは、時間に縛られることなく自由に散歩できるせいか、ヒニーもビッケもよりおおらかに。特にヒニーはアレルギーがあったんですが、海で泳ぐようになって自然と改善されたようです。タラソテラピー効果かも」

週に数回、出勤の際にはヒニーとビッケも一緒に都心へ。

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外装は杉板の鎧張り。あえて色を塗らず、自然に日焼けしていく姿を楽しみたいとか。奥に見えるのは大楠山。
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ウッドデッキへ続く窓を開け放つと、広大な庭が広がる。夏は友人を招いて庭先でバーベキューはもちろん、テントを張って楽しむことも。ビッケがくつろぐソファは、朋代さんの実家から譲り受けた国産のコスガ製。お母様の嫁入り道具だったとか。
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車のキーを持つと「散歩だ!」といわんばかりにデッキに飛び出す、ヒニーとビッケ。玄関扉は「GALLUP」でオーダーしたハンドメイドヴィンテージ。
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下駄箱にしている棚も「GALLUP」で発見。
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車が趣味の岩田さんの愛車はフォルクスワーゲン。大きなトレーラーは、1952年製ボールズエアロ。いずれはガレージをつくり、その上は友人が泊まれる部屋にする構想も。

「都心の家はお店にも近いし確かに便利。でも、この地に移住してから豊かな暮らしについて夫婦で改めて話し合うようになりました。好きなものに囲まれているとはいえ、古いものに不具合があるのは当然で不便な点もたくさんある。

でも、そのひとつひとつに自分たちで対処しながら、家と一緒に年をとっていく感じが楽しいね、って。ヒニーとビッケ、夫と一緒に、家の経年変化も楽しみながらどんどん熟成させていきたい。まだまだ未完成な家ですから」

岩田さんのHouse DATA

●間取り…1LDK
●家族構成…夫と愛犬2匹
●住んで何年?…3年
●愛犬アイテム…ベトナムで買った大きな籠。すっぽり納まるせいか、今やビッケの寝床に。

PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)