どんなに面倒だったり、嫌な仕事だったりしても、任された以上は、きっちりと集中してやり遂げたいと思いますよね。そう思いながらも、なかなかやる気が起きず、グチばかりこぼして、できない理由を並べては先延ばしにしてしまいがち……。一体どうすれば、この癖が改善できるのでしょうか。

200名を超える人材の成長に寄与し、企業成績を強力にバックアップしてきた、人財育成・営業コンサルタントの西谷信広さんに、フットワークが軽くなり、すぐやる人になるための良い習慣について、お話を伺いました。いつも提出物がギリギリになってしまう人は、ぜひ取り入れてみてください。

■1:ルーチンでやる気スイッチを入れる

腕を伸ばすだけでもOK
腕を伸ばすだけでもOK

まず「毎朝、これをすると、仕事のやる気スイッチが入るというものを、自分で決めるといいですよ」と西谷さん。ちなみに西谷さんは、起床後、腕立て伏せと腹筋を行ったあとに「今日も最高の1日にする」と宣言して、仕事モードに頭を切り替えているそうです。

朝食の準備やお弁当づくりなど、朝は忙しいから、西谷さんのようなことは無理かも……などと感じる人は多いはず。特別に何か新しい習慣を始めなくても「やる気スイッチ」を手にすることはできます。

お子さんがいらっしゃる方なら、たとえば子どもを送り出して、玄関のドアを閉めた瞬間。ここを「やる気スイッチ」にすると自分で決めて、仕事モードに頭を切り替える。こんなふうに、自分で意識づけするだけで、無意識に行っていた日常の動作が、やる気スイッチに変身します。これなら、明日からできそうな気がしませんか?

ただし、3日坊主では、効果を実感することは難しいでしょう。最低でも1か月続けることで、気持ちが前向きになったとか、職場についてから効率よく仕事が始められるようになったなど、明らかな変化を実感できるようになります。

そして、もうひとつ大事なのが、「やる気スイッチ」を入れるタイミングです。職場について、すぐにフル稼働で仕事を始めるには、家を出る段階で、すでにやる気スイッチを入れておく必要があります。

眠い目をこすり、通勤電車に揺られている人を想像してみてください。職場についても20~30分は集中力に欠けているため、ミスが増えるし、すぐに仕事に取りかかれませんよね。 朝の何気ない行動が、1日の仕事の成果をすでに決めていると言えそうです。

■2:「せっかく〇〇なのだから」と考える

「面倒くさいと思えば、すべてが面倒になります。私だってそうですし、誰しもがそういうものです」と、西谷さんは指摘します。

たとえば上長から、苦手な仕事を頼まれたとします。そのとき、「大変な仕事が来たな~。私、嫌いなんだけど……」と思いながら業務についたとしたら。仕事に集中できないために時間はかかるし、間違いも頻発してしまうことでしょう。そこに、事情を知らない部下が、別の案件で質問をしに来たら、機嫌の悪い表情で不愛想な対応をしてしまうかもしれません。

面倒な仕事を嫌々することは、自分にとっていいことがないばかりか、周りにも悪影響を及ぼしているのです。 それならば、一瞬「嫌だな」と感じても、どうせやらなければいけない仕事なのだから、物事の見方を切り替えて「せっかく〇〇なのだから」と、頭のなかで言い換えてみてはいかがでしょうか。

お客さんとのトラブルで謝罪が必要なら、「せっかくトラブルが発生したのだから」と、心の中で唱えてみましょう。次に続く言葉はきっと「しっかりと対応をして信頼を勝ち取ろう」という、前向きなものになるはずです。

ときには管理職とはいえ、ミスをして上司に叱られるときもあるでしょう。そんなときも「せっかくだから叱られておこう」と思えば、上司の発言から自分では思い至らなかった、新しい視点に気づくことができるかもしれません。

「せっかくだから」という言葉には、嫌な仕事とも真剣に向き合い、最善の結果を目指して取り組もうとする、意欲を引き出す力があるようです。そうやって、面倒な仕事にも真摯に向き合い続けることで、多くの学びがあり、人間としても成長できると西谷さんは言います。

■3:とりあえず5分間だけやってみる

少しだけやるのもひとつ
少しだけやるのもひとつ

「せっかく〇〇なのだから」と発想を切り替えて、面倒な仕事をやり始めたとします。そのとき、まずは5分間だけ続けてみようと思うと、心理的な負担も軽減しますよね。

たとえば、会議用の資料作成。打ち合わせ時のノートや過去の資料を見たりしてまとめていくと、5分なんてあっという間に経ってしまいます。同じ体勢を続け、お尻が痛くなったりして、気づけば1時間くらい経過していた経験はありませんか? あっという間に時間が過ぎたというのは、集中している証拠です。

「手をつけ始めると、人間ってやってしまうんですよね。お尻が痛くなって、ちょっと休憩したとしても、気持ちがやる気になっているので、また続けられるんですよ」と、西谷さん。

面倒だと思うことも一度やり始めれば、意外と進むもの。「とりあえず5分」と思って、まずは最初の一歩を始めましょう。

■4:ご褒美を設定する

この大変な仕事を集中して乗り切れば、週末は念願の香港旅行に行けるとか、半年前から予約していた人気の〇〇レストランのディナーが待っているとか、明確なご褒美を設定することで、仕事へのやる気は格段に上がります。

ここで注意したいのは「仕事をもっと頑張るために、たとえば180万円もする高級ブランド時計などを、ローンを組んで購入するという考え方です」。これは、どう考えてもご褒美ではありませんよね。

月々のローンを支払わなければいけないというプレッシャーを自分にかけることで、いっそう仕事を頑張れるという発想のようなのですが、「それは肉体的にも精神的にも自分を追い込むだけなので、絶対にやめてほしい」と、西谷さんは警告します。

■5:仕事は時間を区切って進める

タイムリミットがメリハリに
タイムリミットがメリハリに

時間を区切らないと、なかなか仕事に集中することはできません。区切りを決めずにダラダラ続けても集中力は続かず、時間をかけた割に仕事は進まないものです。

だからこそ、「1時間、90分などと時間を区切って、その時間内にここまでやろうと仕事の範囲を決めれば、集中力は高まり、仕事のスピードは上がります」と、西谷さんは提案します。

もし、仕事の途中で集中力が途切れたと感じたら、いったん手を止めて、気持ちを切り替えることも大事です。 10分ほど席を離れて散歩する、トイレに立つ、喫煙所にタバコを吸いに行くなど、自分なりの頭の切り替え法を見つけ、スッキリとした気分で仕事を再開するほうが、効率はよくなります。

■6:ひとつずつこなすメリハリやリズムを大事にする

「メリハリとかリズムって、生まれるものであって、つくるものではないんです」と、西谷さん。これは一体どういうことでしょうか。

時間を区切って、集中して仕事に取り組んでいると、段々と気持ちも乗ってきて、仕事のスピードは加速していきますよね。そして、1時間とか90分ほど経過すると、疲れてきて息抜きをしたくなります。そして10分休んでまた仕事に集中する、というサイクルこそが、その人に合った心地よい仕事のリズムであり、メリハリなんです。

たとえば、打ち合わせ用の資料を作成するとき、メールを5分置きにチェックしたり、電話に出たりすると、作業が中断し、集中力も途切れてしまうので、なかなか終わりません。やるべきことが複数あって、あれもこれもと手を出すと、結局どれも中途半端になってしまうので、優先順位をつけてひとつずつ終わらせていくことが大事です。

もし、集中して取り組みたい重要な案件があるときは、「思い切ってメールを閉じる、スマホの電源を切るといった対応を取るといいですよ」と、西谷さんは言います。

上司やお客さんに怒られるのではないか、と不安に感じるかもしれませんが、上司に事情を説明し、一度試してみると、仕事の質が高くなることを実感するはずです。誰かの勇気ある新しい挑戦が、社内全体の仕事のあり方を見直すきっかけになるかもしれませんね。

■7:机の上を片付け、使いやすい状態に整える

気持ちいい状態で
気持ちいい状態で

仕事のリズムがつかめるようになってきたときに、仕事の効率性を左右するのが、机の上の状態。「仕事ができない人の机の上って、ぐじゃぐじゃなんですよ。できる人の机って、きれいですよ」と西谷さん。

仮に、新しい仕事を上司から依頼されたとします。その際、業務に伴う、膨大な量の資料を手渡されるかもしれませんよね。机の上がきれいなら、もらってすぐに作業に取りかかれます。けれど、ちらかっている机では、資料が紛れ込まないよう、まずは片付けから始めなければなりません。

「5分間だけやってみる」とか、「時間を区切って集中する」など、すぐやる方法をせっかく覚えても、机の上がちらかっていては、出遅れてしまいます。少なく見積もっても、ちらかった机を片付けるのに、20分くらいはかかりますよね。なんとも無駄な時間になってしまいます。

ひとつの仕事を終えたら、しまっておくべきものと、捨てるものを分けて、机の上を整理する習慣を身につけましょう。それは、次の仕事がすぐにできるよう、場を整えることにほかならないのです。

さらに、「使い終わったら片づける、という習慣は、じつは交通旅費の精算などにも直結しています」と、西谷さんは注意を促します。

忙しいからと精算が滞りがちな人は、周囲から仕事がルーズと見られている可能性大です。「1週間に一度、精算する時間をつくる」。自分で時間を区切って、先延ばししないルールを身につけていきたいものです。

■8:退社前に翌日のスケジュールを立てる

帰る間際に少し時間を取って、明日のやることリストを確認しておけば、翌朝出社してすぐに仕事が始められます。しかも、明日やる仕事が明確になっているので、帰宅後に仕事のことで悩む時間も減るはずです。

まずは、今日やり残した仕事をはじめ、明日やるべき仕事をすべて書き出し、見える化します。その次に行うのが、優先順位を決めることです。 重要であるかどうか? 緊急であるかどうか? というふたつの指標で、やるべき仕事を4つに分類します。

「重要であり、緊急である<最優先事項>」

「重要だが、緊急ではない<いつやるか決める>」

「重要ではないが緊急である<誰かに任せてもいい>」

「重要でないし、緊急でもない<やらない>」

これに照らし合わせて、たとえば、「部長が怒っていた案件をまずは朝いちばんに片づけよう」「クライアントへの謝罪は午後からでいい」し、「明日中に提出する書類は1時間かかりそうだから、午前中に手をつけて終わらせてしまおう」など、自分の感情に左右されることなく、やるべきことにかかる作業時間も考慮していくと、機械的に優先順位は決まっていきます。

「これをすれば、やりたくないから後回しにしようなんて、もう言えなくなりますよ」と、西谷さん。

 

キャリアアップすればするほど、仕事量は増えるし、人づきあいも多くなり、業務は煩雑になってきます。感情に流されて面倒な仕事を先送りしたり、嫌な仕事を嫌々したりしていれば、仕事は滞り、そのうち上司はもちろん、部下とのコミュニケーションにも響いてきます。

最初のうちは、「ルーチンでやる気スイッチを入れる」とか、「せっかく〇〇なのだから」とか、「5分間だけやってみる」というように、形から入ったとしても、続けていくうちに仕事のリズムやテンポがつかめていくはずです。そうなれば、仕事のスピードは格段に上がり、ミスも減り、最後までやり抜く力が身につきます。ここでは良習慣として8つをご紹介しましたが、肩ひじ張らず、まずはできることから挑戦してみてください。

PROFILE
西谷信広(にしたに のぶひろ)さん
人財育成・現場で戦う営業コンサルタント。ビジネスにおけるメンタルと実践スキルの提案、実施に特化したアペライオン株式会社代表。個人と企業をクライアントとして持つ。20歳で渡米、10カ月後に現地の大学に進学。卒業後帰国し、最初に勤めた小さな機械商社では、圧倒的な行動力によりゼロから世界初の事業を構築。年商60億の売上を200%上昇させ、店頭公開、東証二部、一部上場に大きく貢献した。また、国内外を問わず多岐にわたる契約を締結する過程で交渉力も磨く。その後、数社で事業立ち上げを主導および指導することでノウハウを積む。プロジェクトの推進力と人財開発の手腕はクライアントから高く評価されている。2008年、働きながら豪州ボンド大学のBOND-BBT MBAを取得(経営学修士)。企業の業績向上とビジネスパーソンのさらなる能力開発のために、精力的に活動している。
『誰でもできるのに、1%の人しか実行していない仕事のコツ48』西谷信広・著 フォレスト出版刊
Aperaion(アペライオン)株式会社 公式サイト
Aperaion(アペライオン)株式会社 Facebookページ
西谷信広 Facebookページ
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
山本裕美