大きなサイズのSUVは室内がとても広々としていて、荷物も十分以上に積める。そして何よりも、ゆとりに加えた上質な作りが、大人の心をつかむ。一方でカジュアルな印象の強いモデルが多いコンパクトSUVにおいても、ホンダの新型ヴェゼルは心のゆとりを得られるコンセプトを掲げ、にわかに注目が集まっている。きっと、名品を愛する大人にも十分な刺激を与えてくれるのではないだろうか。4月の発売に先駆けて実車を間近で見たモータージャーナリストの大谷達也氏が、その特徴をリポートする。

モダンなドイツ車を思わせる品のいいデザイン

シームレスな一体感を重視したスタイリング。カジュアルな遊び道具という印象の強かった従来型と比べ、大人の上質さが感じられる。
シームレスな一体感を重視したスタイリング。カジュアルな遊び道具という印象の強かった従来型と比べ、大人の上質さが感じられる。
後ろ斜めから見ると、いわゆるクーペSUVに近いことがわかる。
後ろ斜めから見ると、いわゆるクーペSUVに近いことがわかる。

今年4月に発売される2代目ホンダ・ヴェゼルの概要がいち早く発表された。

そのグランドコンセプトは「AMP UP YOUR LIFE」。これは「日々の生活の楽しさを増幅させる」を意味する言葉で、日常生活の質の向上を重視する人々に向けて、実用性だけでなくプラスαの価値体験を提供することを目指して開発したという。

より具体的には、誰もが自信と安心感をもって運転できる「信頼」、デザインの美しさを追求するだけでなく、使う人の所作まで美しく見せることを意図した「美しさ」、五感に訴えかける爽快な運転体験で楽しみに満ちた毎日を送るための「気軽な愉しさ」を実現したと説明されている。

詳細なボディサイズなどはまだ明らかになっていないが、いわゆるBセグメントに属していることは明らか。エンジンは1.5リッターDOHC i-VTEC+CVTのガソリンモデルに加えて、ホンダの2モーター・ハイブリッドシステムであるe:HEVも用意。駆動系は前輪駆動と4輪駆動の2タイプから選べる。

実車を目にしてまず印象に残ったのが、デザインの美しさと質の高さだった。初代の躍動的なスタイリングとは打って変わり、2代目は水平基調の落ち着いたたたずまいを見せるが、クルマのどこを切り取っても美しく、そしてていねいに仕上げられていることには驚くばかり。これほど緻密なデザインは、日本車でいえばマツダを例外としてほぼなかったといっていい。そのマツダがイタリア車にも通ずる活気を生み出しているのに対して、ヴェゼルはドイツ車のなかでもたとえばアウディに近い品のよさや知的さを感じる。

隅々まで磨き上げられた居心地のいい空間

操作系は運転中、ドライバーが操作しやすいことに注力してデザインされている。エアコンの吹き出し口を工夫し、柔らかな風が頬を撫でる風量にも調整できるという。同乗者にうれしい装備だ。
操作系は運転中、ドライバーが操作しやすいことに注力してデザインされている。エアコンの吹き出し口を工夫し、柔らかな風が頬を撫でる風量にも調整できるという。同乗者にうれしい装備だ。
シートはナチュラルな風合いの表皮を使用。高音質のオーディオシステムが用意され、心地いいドライブが楽しめるはずだ。
シートはナチュラルな風合いの表皮を使用。高音質のオーディオシステムが用意され、心地いいドライブが楽しめるはずだ。

そうしたデザインの方向性が新鮮なだけでなく、ひとつひとつのライン、さらにはラインとラインをつなぐ曲面などが時間をかけて磨き上げられていることも、実車を目の当たりにするとたちどころに理解できるはず。日本車のなかには、デザインのコンセプトがよくても、それを量産化する過程で様々な妥協を強いられたり、デザインの美しさを追求する時間が不足しているなどして、未完成なまま製品化されるケースが少なくないが、新型ヴェゼルのデザインは隅々まで磨き上げられている。これについて開発責任者の岡部宏二郎は「最初に提案したコンセプトの評判がよかったことと、開発の途中で雑音が入ってこないように留意した」ことが、結果的に成功に結びついたという。

デザインの美しさ、質の高さはインテリアにも貫かれていて、明るい色調のキャビンは質感が高いだけでなく開放感にも溢れている。また、ホンダ独自のセンター・タンクレイアウトを活用して余裕ある室内スペースに仕上がっている点も注目に値する。

そのほか、運転支援システムとしてホンダ・センシングを搭載。アダプティブ・クルーズ・コントロールは渋滞追従機能付きとなったほか、後方誤発進抑制機能、近距離衝突軽減ブレーキ、オートハイビームなどの機能を追加している。インターネットを用いたコネクテッド機能が充実している点もこのクラスでは特筆すべきだろう。

従来型とはデザインの方向性ががらりと変わり、大人びた印象の新型ヴェゼルが市場でどのように受け入れられるのか、興味津々である。

この記事の執筆者
自動車専門誌で長らく編集業務に携わったのち、独立。ハイパフォーマンスカーを始め、国内外の注目モデルのステアリングをいち早く握り、わかりやすい言葉で解説する。
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