レクサスが、ついにというかんじで、ピュアEV「レクサスUX300e」を送り出した。発表は2019年秋、発売は20年。でもようやく生産が軌道に乗るのは、21年春から。試乗のチャンスも、21年3月にようやく提供された。ナチュラルで、操縦しやすいクルマ、というのが総じての印象で、待った甲斐があったといえる。
トルクよりも運転の楽しさを追求
UXシリーズは、すでにガソリン車とハイブリッド車が発売されている。そこにモーターで前輪を駆動する、今回のピュアEV仕様が加わった。EVといえば、つねに意識してしまうのは走行距離である。いっぽう、UX300eは、ドライブの楽しさを追求している。ここにも、EVならではの特徴があるのだ。
EVといえば、ドイツのプレミアムEVはだいたい、パワフルさを強調している傾向にある。乗ったことがあるかたはご存知のように、軽くアクセルペダルを踏んだだけで、どんっと大トルクでもって発進。電気モーターはエンジンと違って、いきなり最大トルクを出すので、その特性を前面に押しだした設定が多い。
UX300eは、それに対して、ずっと自然な印象だ。加速フィールは、”どんっ”ではなく”すーっ”。発進からして、のけぞるようなトルク感を抑え、アクセルペダルをちょっと乱暴にオンオフしても、車体がギクシャクと動くこともない。これが開発陣のねらいだそうだ。「すっきりと奥深い」というレクサスのクルマづくりのポリシーに合致させようとした、と聞くと、なるほどと思う出来だ。
ステアリングホイールを切ったときの動きも、気持ちよい。すいすいと動くように設計されている。重いバッテリーは床下におさめて重心高を低くするとともに、エンジンより軽いモーターのおかげで、重量物が車体の隅に配置されず、結果としてドライバ−を中心に車両が動く感覚を作りだしている。車体が動くときに、操縦者との一体感があるので、コーナリングやレーンチェンジが期待いじょうにスムーズなのも特筆点といっていいだろう。
駆動用バッテリーの容量は54.5キロワット時。70キロワット時を超えるモデルが多いプレミアムEVほど大きくないものの、加速性能はじゅうぶんだ。走行距離367キロは、とても長いとはいえないものの、「それ以上だと重くなるし、(価格が)高くなる」というレクサスの言葉にもうなずける部分がある。
EVらしさを誇張しないのは戦略か
そもそもUXシリーズは「アーバンクロスオーバー」なるコンセプトで登場しただけあって、車体は全長4.5メートルに抑えられ、どちらかというと、2名乗車で市街地を走りまわるのに向いているモデルだ。今回のUX300eはそのコンセプトにうまく合致したEVといってもいいだろう。
スタイリングはほとんど従来のUXシリーズと変わらない。ボディ側面に「Electric」と入っているぐらいだ。「バージョンC」だとタイヤとホイールが空力的なデザインの専用のものとなるいっぽう、上級グレードの「バージョンL」ではちがいを見つけるのがむずかしい。ひょっとしたらコストセーブの目的があったかもしれないものの、なかなか奥ゆかしい。
作っているひとたちはどう考えているか知らないものの、都会派のSUVであるUXじたいのコンセプトを評価して、そのうえで、エンジンかハイブリッドか電気か、どのパワートレインにするかは、ユーザーの選択にまかせるのは、じつに今っぽいではないか。
ドイツのメーカーのように、AR(仮想現実)をどんどん採り入れるなど、さらに新しい方向へと進むのも、EVのひとつのありかただろう。いっぽう、ナチュラルに生活に溶け込むUX300eのありかたもまた、あたらしいEVのかたちなのだと思う。
UX300eは、バッテリー容量もモーター出力も駆動方式も一つだけ。タイヤサイズを含めた装備に応じて、「version C」(580万円)と、「version L」(635万円)の2グレード構成だ。ピュアEVには環境省や経産省、それに、自治体から補助金がでる。充電環境が自宅など周囲にあるひとなら、試す価値のあるクルマだ。
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- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト