人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。
今回は、クリエイティブディレクター・「エイタブリッシュ」代表取締役、川村 明子さんのご自宅を紹介します。「何を大切にしたいか、どうありたいのかを考えたとき、今の私は、家族や友人、仕事仲間たちと時間や空間を共有し、ビジョンやアイディアを分かち合いたいんだと気づきました」と語る川村さん。
川村さんのご自宅は3階建て+屋上という構成で1階のリビング&ダイニングから、2階の寝室兼アトリエまで吹き抜けという開放感のある作り。自宅の2階を事務所にリフォームし、仕事、プライベート問わず、多くの友人が集う、サロンのようなお住まいになっています。
「家は自分の"今" を映す鏡。自分がどうありたいか、を知る場所でもあるんです」
ブランドショップが軒を連ねる世界有数のファッションエリア。緑豊かでカフェや美術館も点在する東京屈指の人気街に位置するコーポラティブハウスで暮らすのは、クリエイティブディレクターの川村明子さん。広告やアートワーク、ブランディングを手掛ける一方で、ヴィーガンスタイルのパーラー「エイタブリッシュ」も経営しています。
「仕事柄もあってか、昔から好みはかなりはっきりしているほう。自分が本当は何が好きなのかを絶えず分析して、自分はどうなりたいのか? どうありたいのか? を追求、常にアップデートするよう心がけています。それこそが私のクリエイティブの源のような気がして。そういう意味で、家は"今"の自分を映す鏡のようなものではないでしょうか」
「好きなものが詰まった空間だから、自分も、一緒に住む人も、家具たちも、みんな幸せ!」
テーブルや椅子はもちろん、アートやオブジェ、壁や床、キッチングッズや文房具に至るまで、どの部分もどの部屋も大好きすぎて、囲まれているとワクワクする、と川村さん。
「大切にしたいと思えるものしか置きません。"とりあえず"という選択がないんです。この家はものが溢れていますが(笑)、どれも本当に好きなもの、愛着のあるものばかり。好きなものが詰まった空間だから、自分も、一緒に住む人も、家具たちもみんな幸せだと思うんです」
2003年に完成した住まいは、当時、いわばコーポラティブハウスの"走り"。前例がないぶん、自由度がかなり高く、全部好きなようにつくることができたとか。
「結婚を機に購入したんですが、住人は銀行マンや広告関係、アンティークの修復のプロなどバラバラ。個性豊かな面々と家をつくっていくのは面白い経験でした。今も6世帯中、4世帯は同じメンバーです」
川村さん邸は3階建て+屋上という構成で、1階から2階は吹き抜け、天井高はなんと4m50㎝!
「明るい光が差し込む大きな窓と開放感にはこだわりました。当時は30代。結婚したてというのもあって、仕事は家に持ち込まない主義でした。ミニマルなスタイルで、自宅に仕事部屋はなく、バスルームはガラス張り。1階の床は石仕様で、土足OKとしていて今思えば寒くて、暮らしにくい家でしたね」
40代で離婚後、イラストの仕事を開始。アトリエが必要になり、2階を寝室兼アトリエに大改装。同時にバスルームには扉を取り付け、1階の床はすべてヘリンボーンのフローリングに張り替えたそう。
「愛犬・アポロを迎え入れたのもこのころです。木の床があったかく、バスルームがガラス張りでなくなったこともあってか、多くの友人が泊まりにくるようになりました」
「大切な人たちと時間や空間を共有しビジョンやアイディアを分かち合いたい」
50歳を機に働き方を見直し、2年前、2度目となる大改装を敢行。
「ふだんから頻繁に家具の配置を替えるタイプですが、巨大なベッドを自分で移動させるなど、引っ越し業者の方も驚くくらい(笑)、改装は大の得意。今回は、往復1時間通勤にかかっていたオフィスを閉め、自宅の2階の壁も取り払って事務所に。書類もスタッフも自宅に集まったことで、効率が上がり、睡眠時間もぐっと増えました」
オフィスのテーマは、1970年代のニューヨーク。普遍的なデザインが好きだという川村さんが20代の頃から買い集めたものたちが集結。レトロな「オリベッティ」のタイプライター(1)に、鮮やかなオレンジの「トッズ」のヘルメット(4)、ブルー×ステンレスのモダンな「USM」のキャビネット(2)、デスク上のスタイリッシュな文房具たち(3)。この部屋も、ネイビー、黒、白、木、ステンレスという川村邸のキーカラー&キーマテリアルの法則が。
「それともうひとつ。インテリアのポイントとしては、ダイナミック×ミニマル、クラシック×モダン、アナログ×テクニカル、システマチック×ナチュラルといったふうに、相反するものを組み合わせてみてください。空間に動きが出る一方で、意外と整うんです」
自宅で過ごす時間が増えたぶん、1階のキッチンもリフォーム。親友も引っ越してきたうえ、仕事、プライベート問わず、これまで以上に多くの友人が集い、サロンのような家に。
「何を大切にしたいか、どうありたいのかを考えたとき、今の私は、家族や友人、仕事仲間たちと時間や空間を共有し、ビジョンやアイディアを分かち合いたいんだと気づきました。これまで培ってきたデザインなどの経験を生かして、社会に貢献したい。これは、年齢や経験を重ね、より信頼できる仲間がいるからこそできること。大好きなものに囲まれて、オープンで、プライベートも仕事もシェアしながら、遊びの延長のように仕事ができるこの家は、まさに"今"の私を映す鏡。幸せです」
川村さんのHouse DATA
●間取り…2LDK
●家族構成…本人、親友、犬
●住んで何年?…18年
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 『Precious5月号』小学館、2021年
- PHOTO :
- 川上輝明(bean)
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)