「相も変わらず、いい仕事をしているなぁ」。アルピナのステアリングを握り、走り出していつも感じる感覚だ。50年以上に渡り、通人と呼ばれる人たちのために最高の素材を、最高の技をもつシェフが仕上げた一品、アルピナはつねに期待を裏切らなかった。そして今回も、X4をベースにしたクーペSUV、BMWアルピナ「XD4」(以下XD4)」を走らせてみて、その想いを新たにすることになった。
あまりにもみごとなトータルチューニング
アルピナ流の仕立てで、さらにエレガンスになった「XD4」。その流麗なクーペSUVのスタイルは、高性能をことさらにひけらかすような演出もなく、楚々とした佇まいだ。本来の上品さとは、抑制の効いた表現の中にあるとでもいいたげなエクステリアである。
しかしボディの中に潜んでいるのは、BMWの3.0L直列6気筒ディーゼルエンジンをベースに4基のターボチャージャーを装備したパワーユニット。最高出力388馬力、最大トルク770Nmというパフォーマンスで、最高速度は268km/h、0~100km/hの加速は4.6秒を誇る。
さっそく走り出してみる。スタートからジワジワとトルクが増してくるが、決して乱暴な振る舞いは見せない。なんともジェントリーな表情のまま、スムーズに加速していく。アルピナがドイツの自動車部品メーカー、ZF社と共同開発した8速ミッションの助けもあるのだろうが、低速から高速までシームレスに速度が増していく。ザラつきもなく、気持ちよく回るディーゼルエンジンと、全回転域で適正なパワーを引き出してくれるミッションとが走りの味は“快感”と呼んでもいいほど。
その気持ちよさは、適正にチューニングされたサスペンションの出来の良さによって、さらに増幅されていく。アルピナでシャシーも含めて改良が加えられているため、コーナリングでの踏ん張る感覚が高くなっている。重心が高く、ボディが大きく揺れるSUVにとって、これは走行安定性を高めるためにも重要なポイントだ。電子制御式ショックアブソーバーを採用したアルピナのスポーツ・サスペンションは、ハイペースでワインディングを走り抜けるときに、とても心強い存在となった。
どちらがいいかは問題ではない
もう一点、BMWのxDriveシステムをベースとした4WDシステムによって、最適にトラクションを配分して路面をガッチリととらえながらコーナーを抜けていくことも、気持ちよさの一因だった。幸いといっていいかもしれないが、試乗車にはオプションとして用意されている22インチアルミ合金製高密度鍛造ホイールが装備されていた。タイヤは「XD4」に合わせて新たに開発された、ピレリ製の高性能モデル「P Zero」。これだけ足元を完璧に仕上げて操縦安定性の高さを追求しているからだろうか、SUVの走りにありがちな腰高感もない。さらに大きなタイヤのドタバタとした感触なども含め、ネガティブな要素はほとんど意識せずに済むのだ。
少しばかり興奮気味に走り込んだ試乗を終え、改めてコイツは自制心を持ってステアリングを握らなければいけないクルマだ、と肝に銘じた。そんな本格的に仕上げられたスーパーSUVをゆっくりと眺めてみると、先程までの走りで感じていた熱量はそこになかった。むしろショッピングやドライブデート、街乗りに出掛けたくなるような穏やかな雰囲気が漂っている。アルピナはグランドツーリングでこそ真価を見せると理解しながらも、普段使いでも十分に活躍してくれるアクティブさを再発見した。
よくBMWとアルピナのヒエラルキーが議論される。アルピナは大量生産ではなく、匠が時間を掛け高度なチューニングを施し、少数の台数を仕上げるというプロダクトのため、プライスはベース車より高めになる。この一点を捉え、“BMWよりも高級な存在”というイメージで捉える人は少なくない。ところがアルピナはベースの良さを可能な限り生かしつつ、別のテイストを加えて新たな世界観を作り上げている。そこには単なるBMWのチューニング版という単純なロジックでは語れない、棲み分けができていることが分かる。大きなプロダクトではなし得なかった「老舗の味わい」こそがアルピナの真骨頂だ。
【ALPINA XD4】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,765×1,927×1,615mm
車両重量:2,045kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8AT
エンジン:直列6気筒ディーゼルターボ 排気量:2,993cc
最高出力:285kw(388PS/4,000~5,500rpm)
最大トルク:770Nm/1,750~3,000rpm
車両本体価格:¥13,580,000
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター