一途に恋する青年、映画監督を志す熱い男、狂気を孕む凶悪犯……。多彩で光る演技を見せてきた坂口健太郎さんは19歳の時にモデルに応募し、たちまち人気モデル、そして俳優になりました。本記事では俳優・坂口健太郎さんのインタビューをご紹介します。

デビューして10年目となる坂口さんは「もしも今、過去の自分に会えるとしても、僕は何も言わない」と語ります。これから先もまだまだ見せていない、いくつもの"貌"を見せてくれると思わせるインタビューです。 

坂口 健太郎さん
俳優
(さかぐち けんたろう)1991年、東京都出身。2014年に映画『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』で、モデルから俳優デビュー。'17年、映画『64-ロクヨン前編/後編』で、第40回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。代表的映画に『君と100回目の恋』『今夜、ロマンス劇場で』など。最新作『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』に主演。共演に北村一輝、吉瀬美智子、木村祐一ほか。東宝系にて全国公開中。

自ら役に近づいてみたら思いがけぬ感情が掴めて

 

身のこなしが精悍だ。頬もいくぶん鋭角的になった。

「映画(『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』)で、手に汗握るような強いアクションが必要になって、必死でトレーニングに励んだんです。終えた今も、キックボクシングなどは続けています」

好評だった連続ドラマの映画化。社会の闇に立ち向かう刑事を演ずる坂口の、キレのいいアクションは新たな魅力を放った。「初主演のドラマで責任を背負って、三枝(役名)と共に成長してきた作品。映画化の話をもらって、すごくうれしかったですね」

坂口健太郎さん
 

撮影中、更に変わっていく自分を感じた。「それまでの僕は、役柄を自分自身の性格に引き寄せていたんですが、芝居が狭くなると気づいて、自分から役に近づいていった。すると犯人の心情とか、人が生きていくうえで抱えてしまう、悲しみや切なさを前よりも掴むことができた。今、この時期に感性の幅を広げられた、そういう作品に出合えてよかったと思っています」

自らと主人公には、共似点があるという。「例えば、どれだけ窮地に追い込まれたとしても、譲れない一点がある。三枝でいえば刑事としての正義だろうし、僕でいえば役柄に対しての直感です。台本を初見した時の感覚、初めて撮影現場に立った時の感覚を大切にする。もちろん監督の演出を受けますけど、最初に自分で得た感覚が、演ずることの根本だと思っています」

坂口健太郎さん
ジャケット¥330,000・シャツ¥132,000・パンツ¥126,500・靴¥¥148,500・ベルト¥38,500 (サンローラン〈サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ〉)

19歳のとき「単純にカッコいいな」という理由でモデルに応募した。「最初の頃は、バイトをかけもちしていました。モデル、洋服屋……夜は居酒屋でとん平焼きをつくって、大学では寝るという(笑)」

しかし、カメラの前での表現力と、透明感とでたちまち人気モデルとなった。「慌てました。思いのほか短期間で、いつのまにか僕ではない"坂口健太郎"が有名になっていって。優しそうで爽やかなイメージがどんどん広がっていく。いや、僕はそうじゃない面もあるのにって。だって人間って多面的ですよね。清廉潔白だなんて信頼できなかったりする。イメージと違う面を見せることは悪いことなんだろうか、と葛藤したりもしました」

ほかのだれにも真似できない最大の武器は自分自身

そんなとき父親の言葉に背を押された。「10代の頃、『自分の評価は自分自身でしなさい』と言われたことを思い出したんです。己に厳しく、でも同時に優しくあれ……。当時は聞き流していたけれど、ふっと脳裏に蘇って。自分のことは自分がいちばん愛してあげたいなと思うようになった」

その父も7年前に他界した。

「あの頃は尖っていて、反抗ばかりしていましたけど、今、話せるなら、何のこともない日常の会話をしてみたいですね」

坂口健太郎さん
「自分の評価は自分自身でしなさい」父が残した言葉は己を愛する意味を教えてくれた

やがて俳優となり、多彩で光る演技を見せてきた。一途に恋する青年、映画監督を志す熱い男、狂気を孕む凶悪犯……。「モデルから俳優になったことで『ステップアップした』と言われたりしますけど、それは違う。モデルはカメラ前に立って画を創る。演技もその延長上にあるもので、僕の中では、どちらも"表現する"ということにおいて同じ感覚だったんです」

俳優となる素地はどこにあったのか。

「全然わからないんです。ただ、幼少期から母の本の薦め方が面白くて。『この主人公、ケンに似てるよ』と言われたら興味がわいて読む。『悪の教典』は、え? でしたけど(笑)。でもそれが、物語の中に入る体験の入り口になっていたのかもしれません」

坂口健太郎さん
もし過去の自分に会えるとしても何も言わないし、正さない。失敗もたくさんあったけれどすべてが今につながっているから

デビューして10年。

「これまで強い挫折感とかって、抱いたことがないんです。鈍感なのかもしれないですけど、挫折はあってあたりまえというか、そういうものだと思っているから」

なかなかに芯が太い。『シグナル』は、時空を超え、無線機で過去に生きる刑事とつながる物語だが、坂口はこうも言う。

「もしも今、過去の自分に会えるとしても、僕は何も言わない。10年間、失敗もたくさんあったけど、『そこはダメだよ』なんて正したりしたくない。正してしまったら、今の自分はいないし、このまま来た道でいい」

今、青年から大人の男へと変わっていく、端境期を生きる。まだまだ見せていない、いくつもの"貌"が現れることだろう。

「僕の芝居は僕にしかできない。最大の武器は自分だと思っています」

どこまでも潔く、清々しい。

※掲載した商品は全て税込みです。

問い合わせ先

サンローラン クライアントサービス

TEL:0120-95-2746

関連記事

この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious5月号』小学館、2021年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
秦 淳司(Cyaan)
STYLIST :
壽村太一
HAIR MAKE :
廣瀬瑠美
COOPERATION :
バックグラウンズファクトリー
WRITING :
水田静子
EDIT&WRITING :
小林桐子(Precious)