『Precious』で好評連載中の「現代の紳士達」。本連載では毎号、現代において第一線で活躍する男性を取り上げ、その人ならではの考え方や魅力に迫っていきます。
『Precious』5月号で取り上げたのは、現在公開中の映画『くれなずめ』で主演している俳優 成田 凌さん。「もともと目立ちたがりや」で「負けず嫌い」な少年だったという成田さんが芸能界に入ったきっかけや、大切にしている友人とのエピソードなどを語ってくれました。
映画『くれなずめ』オフィシャルサイト
「同じ場所に立たなければ」悔しさが原動力に変わった日
演技の振り幅が激しい。作品ごとに大きく印象が異なり、映像の中で、ただ「その人」として、いつも生きている。
「『なんか、わかんない人だよね』って、役者仲間にもよく言われます(笑)。でも、わかんない人で……いいんじゃないかな。うん、『立ち位置不明』ということで」
目もと柔らかく、しかしハングリーさを含ませて、成田 凌は言う。デビューして6年。「もともと目立ちたがりや」な少年だったが、美容師を目指していた。ある時、古着屋でアルバイト中にスカウトされた。
「19歳だったかな。でも、決めかねていたんです。決意させたのは、大したことではないんですけど、『東京コレクション』を見に行った時。
行列に並んでいた僕らの前に、浅野忠信さんと松田龍平さんがエスコートされて入って来て、VIP席に通された。その様子を見てあっと思ったんです。あの凄い人たちと同じ場所に立たないと! って。このまま美容師になったら、一生、悔しい思いをする。その場で『やります!』と事務所に連絡しました」
持ち前の「負けずぎらい」に火がついたらしい。その後も、数々のオーディションを受けながら「役を掴み取って」きた。強い印象を残す演技の数々。日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)では、密やかなボーイズ・ラヴをせつなさの中に演じきった。
「僕は役づくりということはしません。現場での空気感の中で、ただ生きていくというのかな」
現在公開中の主演映画『くれなずめ』では、かつて高校時代の仲間だった6人の男たちの再会と、それぞれに辿って来た人生が青春の回想シーンと共に描かれる。やがて明かされていく、ひとつの真実―。
「デビュー前から松居監督の作品が好きでした。お話をいただいて脚本を読んだ時、熱量と面白さにやっぱり圧倒されて、これをやらない理由はない、と。この6人をすごく愛せたし、ずっとこういう物語をやりたいと思っていました。男って、良い意味でわちゃわちゃしていてバカなことで笑い合えるじゃないですか(笑)」
撮影にはいつもどおり、素で入った。
「考え込んでいくと、余分な色とか、味とかが出てしまうと思うから。でも現場で監督とはよくやりとりします。動作ではなくて、心のこと。『こういう心持ちでいいですか』と確認したり。以前は自分の演技を、頑固に主張したがった時もあったんですけど、それって自分をひけらかしたいだけだなって気がついたんですよ」
自身の交友関係を尋ねると、「今も高校時代からの友人がいます」と、うれしそうに、急にあどけない表情になった。
「彼が家に来た時『この辺、いいなあ』って言ったんで、引っ越しをすすめました。僕にとっては大切な友人で、よく近所の焼き肉屋さんに行ったりしています(笑)。いずれお互いに家族ができたりしたら、関係が変わっていくのかなとか考えますけど、でもやっぱり一生、友達だろう、そういうものだなって思える」
作品には、それぞれが抱く死生観のようなものも、映し出される。
「いつか自分も死ぬんだということは、誰もが無意識のうちに、ずっとあるじゃないですか。だからこそ友達と他愛ない話をする時間を、いいなと思える。大して記憶にも残っていないような時間こそが、最期まで残っているというのか……」
言葉に感性の強さがみてとれる。
「作品に『生きるだけだろ!』っていうセリフがあるんですけど、そのとおりだなって」
だからこそ、役者人生を全力で駆け抜けたいと思っている。
「過去には自分の未熟な芝居がたくさん残ってる。でも振り返っている時間はもったいない。止まりそうになっても、前に、上に、少しでも進んでいかなければ、と」
そして「もっと人生の『本質』を知りたいんです」と添えた。
「世の中、変わっていくことだらけだから、何が答えなのかわからない。でも変わらない大切な何か……を探して、演じて生きていきたいと思っています」
『くれなずめ』とは、夕暮れどきを表した造語だそうだ。人生に例えた、暮れそうで暮れない美しく寂しい時間は、繊細な成田凌という俳優をも表しているかのようだ。
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- PHOTO :
- 秦 淳司(Cyaan)
- STYLIST :
- 伊藤省吾
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- 須賀元子(星野事務所)
- WRITING :
- 水田静子
- EDIT&WRITING :
- 小林桐子(Precious)