大人のジュエリーのまとい方には、過ごしてきた上質な時間が凝縮されて、自分だけの輝きとなって表れます。雑誌『Precious』6月号では「美しい人は最愛のジュエリーとともに」を特集。各界でご活躍の素敵な4人の女性に、成熟するジュエリーへの思いをお話しいただきました。
今回は、漫画家・文筆家のヤマザキマリさんが語る、イタリアンジュエリーへの思いと、イタリアンジュエリーの壮大な歴史が教えてくれた「大人のマイスタイル」をご紹介します。
イタリアンジュエリーの壮大な歴史が教えてくれた大人のマイスタイル
猟師の姿が彫刻された古代ローマ時代の瑪瑙(めのう)のリング。これはヤマザキさんがご主人からプロポーズされたときに贈られた石を、リングに仕立てたもの。「インタリオ(=沈み彫り)」としては希少な紀元2世紀のものといわれている。
「どこで入手したものかは知りませんが、まだ22歳の学生だった夫が、それまでの小遣いをすべて費やして手に入れたものでした」
出会ったその日から三日三晩、寝ずに古代ローマのことを語り合ったという、ヤマザキさんの書籍によく登場するイタリア人の年下の夫、ベッピーノさんである。
「なぜモチーフが皇帝でも女性でもなく『猟師』かというと、デルスという私の息子の名前は、黒澤明監督の映画『デルスウザーラ』に出てくる猟師の名に由来したもの。それで夫は『これをつけていれば、いつもデルスのことを思い出せるよ』と選んでくれたんです」
まさにプライスレスなジュエリー。この石を誂えた人や発掘された土地や時代に思いを馳せるたびに夢が広がる。そして息子の継父となる夫の思い。数えきれないほどの物語が目に浮かぶ。価値がわかる人にしかわからないけれど、なにより神秘的で美しい。
古代ローマ時代の歴史と家族への愛が詰まった唯一無二のリング
ヤマザキさんの私物リング。ローマ帝国時代の都市アンティオキアでつくられたと思われる石。アームは24金で、フィレンツェで修業した日本人の職人に依頼した。これをもらったあと、ヒット作『テルマエロマエ』を描いたという、幸運を呼ぶお守りのような存在です。
「でも今では『君がつけているのがなんだか腑に落ちない。それは本来、博物館にあるようなものだ。寄贈すれば?』なんて言う(笑)」
それが博物館レベルであることは、石の大きさはもちろん、彫刻の精緻なタッチを見れば間違いありません。
「古代ローマでは、パールや珊瑚、カメオ、そしてレースの金細工まで、現代に見られるジュエリーの技術はすでに完成されていて、当時の職人は20歳で視力が衰えるほど、緻密な仕事だったようです」
17歳でイタリアに留学。それから現在にいたるまで世界中を転々としながらも、ヤマザキさんのジュエリーに対する感覚は、イタリアで育まれました。フィレンツェでは貴金属店でアルバイトをした経験から、伝統的なイタリアンジュエリーについての知識も得た。古代から職人たちが模索してきた宝飾品の美しさと、まとう人の品格を目の当たりにしてきました。
「このリングのように、石やパールの粒をそのまま贈られることが多いのも特徴です。どの家にもホームジュエラーのようななじみのジュエラーがいて、家族から受け継いだものをリフォームしてつけるんです。私もスタッズピアスをフリンジにしたり、祖母からもらったリングのアームを今風に変えたりしました」
イタリアマダムといえば、日焼け肌に大ぶりなジュエリーをゴージャスに重ねづけするイメージがある。でもヤマザキさんによれば、実際は派手なつけ方をする人は稀で、イタリア人にとってジュエリーの価値はもっと個人的なもの。ただ見せびらかすのは品がないと考えられているのだとか。
どんな服にも合わせやすい モダンでアイコニックな コインジュエリー
「モチーフが古代ローマに根差す『ブルガリ』は面白いですね。特に古いコインを使用した『モネーテ』はすべてが一点もの。このブロンズのネックレスも、紀元後300〜400年代くらいのものでしょう」
ローマ帝国の栄華と悠久の歴史ロマンを肌で感じるアイコニックな名品ジュエリー。アンティークコインには一つひとつ表情が異なる一点ものの魅力が。肌なじみのいいピンクゴールドのデザインもモダンで合わせる服を選びません。
何世紀もの間、多くの人の手を経てきたジュエリー。そこに新しい時代のセンスを加えながら、未来へとつないでいく。イタリアンジュエリーの壮大な歴史が教えてくれた大人のマイスタイルです。
問い合わせ先
- PHOTO :
- 久富裕史(N°2/人物)、唐澤光也(RED POINT/静物)
- STYLIST :
- 小倉真希
- HAIR MAKE :
- ヘア/ hiro TSUKUI(Perle) メイク/仲嶋洋輔(Perle)
- MODEL :
- ヤマザキマリ
- EDIT&WRITING :
- 藤田由美、古里典子(Precious)