天候が穏やかで、木々の葉が色づき始める秋は、ドライブに最適な季節。近年は日本でもクラシックカーのイベントが各所で開催されているほか、スポーツカーブランドもこの季節に合わせたお披露目や記念イベントを行うことが多い。奇しくも今秋は、フェラーリとランボルギーニの2大スーパーカーブランドの、新旧の名車が勢揃い。その模様をリポートする。

秋のフェラーリ「両国場所」開催!

1950〜60年代のフェラーリにおいて大成功を収めたのが、「250」シリーズ。バリエーションも多く、写真はショートホイールベースのGTだ。
1950〜60年代のフェラーリにおいて大成功を収めたのが、「250」シリーズ。バリエーションも多く、写真はショートホイールベースのGTだ。
手前はデイトナの愛称で親しまれた「365GTB/4」。奥は現在のV8モデルの源流ともいえる、V6ミッドシップの「ディーノ206」。
手前はデイトナの愛称で親しまれた「365GTB/4」。奥は現在のV8モデルの源流ともいえる、V6ミッドシップの「ディーノ206」。
スーパーカーブームを牽引した70年代のフラッグシップ、「512BB」。格納式ヘッドライトは「スーパーカーライト」と呼ばれ、そのギミックはジュニア向け自転車にも波及した。
スーパーカーブームを牽引した70年代のフラッグシップ、「512BB」。格納式ヘッドライトは「スーパーカーライト」と呼ばれ、そのギミックはジュニア向け自転車にも波及した。

 レーシングコンストラクターとして始まったフェラーリは、1947年に初めてブランド名を冠したレーシングスポーツカー「125S」を発表している。つまり、今年は創立70周年。その長い歴史を祝うイベントは、新旧総勢70台が東京から伊勢神宮までを走破する記念ラリーとして、多くの人の目に触れる形で10月上旬に開催された。スタート地点のJR両国駅前広場には、手仕事の領域の多かった曲線美のクラシックモデルから、スーパーカー世代にはおなじみのくさび型フォルムの名車、さらに近年の限定モデルやビスポークのワンオフモデルまでを展示。官能的な「フェラーリ・ミュージック」を奏でながら伊勢神宮へ向かうオーナードライバーの様子も壮観だったが、新旧のあらゆる名車が一堂に会す機会などそうあるものではなく、思わず胸が熱くなった。

無二のサウンドをデザインしたフェラーリ

2008年に日本人がオーダーした「SP1」も展示されていた。フェラーリはこのモデルの製作を機に、長らく中断していたワンオフモデルのプロジェクトを復活させた。
2008年に日本人がオーダーした「SP1」も展示されていた。フェラーリはこのモデルの製作を機に、長らく中断していたワンオフモデルのプロジェクトを復活させた。
こちらは2014年に6台限定で販売された「セルジオ」。創業期から同社のボディメイクを手がけたピニンファリーナの元名誉会長、セルジオ氏(2012年死去)の名を冠し、「458スパイダー」をベースに、60年代のフェラーリデザインをモチーフにしている。
こちらは2014年に6台限定で販売された「セルジオ」。創業期から同社のボディメイクを手がけたピニンファリーナの元名誉会長、セルジオ氏(2012年死去)の名を冠し、「458スパイダー」をベースに、60年代のフェラーリデザインをモチーフにしている。
日本進出50周年を記念して2016年に限定10台で発表された「J50」も登場。
日本進出50周年を記念して2016年に限定10台で発表された「J50」も登場。
記念ラリーに参加したのは総計70台。2日間をかけて伊勢に向かった。
記念ラリーに参加したのは総計70台。2日間をかけて伊勢に向かった。

 子供のように心を躍らせつつ、改めて冷静に全体を俯瞰してみると、フェラーリというブランドは、つくづく動的なデザインを大切にしてきたのだと実感する。真実のほどは定かではないが、創業者にして生粋のレース屋だったエンツォ・フェラーリは、市販車の売れ行きを左右するデザインにはあまりこだわりがなく、ピニンファリーナなどの架装業者に任せっぱなしだったと聞いたことがある。それでもすべてのモデル(エンツォの死後につくられたものも含めて)に共通する、抑揚の効いたデザインは、伝統のV12や近年の主流であるV8エンジンの、高回転でのみなぎるようなパワー、そして排気の流れをチューニングすることで生まれる、類い稀なサウンドを純粋に具現化したものといえる。音を源とする造形美の極地は、だから静止状態でもダイナミズムに溢れ、男たちの心をひきつめてやまないのだ。

芝公園から銀座へ! ランボはやっぱり都心が似合う

会場の東京プリンスホテルでは、クラシックなオーナーカーを識者が審査する「ランボルギーニ&デザイン・コンクール・デレガンス」が開催された。
会場の東京プリンスホテルでは、クラシックなオーナーカーを識者が審査する「ランボルギーニ&デザイン・コンクール・デレガンス」が開催された。
めったに見ることのできない、「カウンタック」の群れ。特に先頭の初期モデルの、付加パーツのない美しさに目を奪われる。
めったに見ることのできない、「カウンタック」の群れ。特に先頭の初期モデルの、付加パーツのない美しさに目を奪われる。
イベントでは日本向けに企画された、5台限定の「アヴェンタドール ロードスター」の50周年記念モデルも披露された。美しい専用のボディカラーは、10名の職人が170時間をかけて仕上げたという。同社は今後、ワンオフモデルの製作に力を入れていく模様。
イベントでは日本向けに企画された、5台限定の「アヴェンタドール ロードスター」の50周年記念モデルも披露された。美しい専用のボディカラーは、10名の職人が170時間をかけて仕上げたという。同社は今後、ワンオフモデルの製作に力を入れていく模様。
ランボルギーニといえば銀座! 中央通りをコスプレ姿のゴーカート集団が走るのは勘弁してほしいが、スーパーカー、それもひときわ眩しいランボルギーニなら大歓迎だ。
ランボルギーニといえば銀座! 中央通りをコスプレ姿のゴーカート集団が走るのは勘弁してほしいが、スーパーカー、それもひときわ眩しいランボルギーニなら大歓迎だ。

 さて、もうひとつのスーパーカーの雄、ランボルギーニに話を移そう。こちらも2017年で日本上陸50周年という節目であり、記念イベントが10月下旬に芝公園そばの東京プリンスホテルで開催された。

 1970年代に一世を風靡した「カウンタック」の影響ゆえか、日本はアメリカに次ぐ世界第2位のマーケットで、近年は販売台数も右肩上がり。デザイン面では、60年代のモデルにも名車は少なくないが(特に「ミウラ」)、「カウンタック」以降の、ミッドシップレイアウトを存分に生かした大胆なデザインを踏襲・発展させてきたのが特徴で、そうしたクルマづくりを支持する、熱狂的なファンに支えられているという印象だ。夕方からは100台以上のオーナーカーが隊列を成して、東京の街を闊歩した。やはり、ランボルギーニは都会が似合う。

12月にはSUV「ウルス」が登場!

ランボルギーニの隠れた名車(珍車?)、「チーター」(左)と「LM002」(右)。
ランボルギーニの隠れた名車(珍車?)、「チーター」(左)と「LM002」(右)。
「LM002」の室内。最新のプレミアムSUVにも見劣りしない(むしろそれ以上)、ラグジュアリーなつくりだ。合計300台ほどが製作された。
「LM002」の室内。最新のプレミアムSUVにも見劣りしない(むしろそれ以上)、ラグジュアリーなつくりだ。合計300台ほどが製作された。

  一方でランボルギーニは、時に大胆な試みにも躊躇なく取り組む。その成功例がほかでもない「カウンタック」なのだが、イベントにもオーナーカーが展示されていた80年代のクロスカントリー車、「LM002」も印象深い。もともとは70年代にアメリカ軍向けの高機動車の試作車づくりを起点とし、V8を横置きに配置した(ミッドシップ)「チーター」として、スーパーカー世代にも知られている。軍用車への道が頓挫すると、ランボルギーニは「カウンタック」の5.2リッターV12エンジンを仕様変更したうえで、車体前方に縦置きしたフルタイム4WD車「LM002」へと発展させて販売したが、当時は類を見ない特殊なクルマということもあり、決して成功したとはいえない。それでも、内装にはレザーをふんだんに奢り、快適装備も充実させるなど、現在のプレミアムSUVを先取りしたコンセプトではあった。

昨今のSUVブームにおけるランボルギーニからの回答が、「ウルス」だ。写真は2012年時のショーモデル。
昨今のSUVブームにおけるランボルギーニからの回答が、「ウルス」だ。写真は2012年時のショーモデル。

 その夢よふたたび、というわけではないが、ランボルギーニはまもなく(2017年12月)、プレミアムSUVの「ウルス」をリリースする。10月のイベントでは具体的な視覚要素の公開はなかったものの、集まった多くのファンは、新たなモデルの登場を待ちきれない様子だった。音の芸術を極めるフェラーリと、あっと驚くチャレンジを得意とするランボルギーニ。両ブランドはライバルとして捉えられがちだが、ものづくりの精神や目指すところは明らかに違う。共通するのは、イタリアならではの感性とサービス精神がもたらすワクワク感だ。その魅力を体感するには、もちろんオーナーになるのが早道だが、一般見学の機会を設けたイベントに足を運ぶだけでも、十分な満足を得られるだろう。

この記事の執筆者
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。