パリやミラノの街を歩いていると、すれ違った伊達男から、いい香りがふわっと鼻をくすぐることがある。乾いた風にのった香りは、その男性の存在をほのかににおわせる。スーツを粋に着こなしているだけではない。ファッションに加えて、香りでも本人の美意識を表現することによって、男性性の魅力が立体的に際立つのである。
深みのあるムスクを、 軽やかに仕立てた現代香水
その一方で、日本人男性は香水を使いこなすのが苦手と言われている。長らく、日本では無臭であることが、清潔であることと同義に思われているからだろう。そのため、香水を普段から使い慣れていないだけに、どんな香水を選べばいいのか、どうやって身につけるべきなのかと、香水をつける以前に悩んでしまうという読者も多いのかもしれない。
しかし、もうそんな心配は無用だ。というのも、最近の香水は、昔のように濃密に重たく香るものは少ないからだ。香料の技術進化や配合バランスの妙から、ブレンドされている素材がミルフィーユの層のように、順を追って軽やかに香るので、つける部位や量を気にすることなく、手軽に香りを楽しめる。
現在、市場では、伊達男に似合う香水が充実している。
その理由は、数年前から続いていた果実系のシトラスや、アクア(水)系と呼ばれている爽やかな香調のトレンドが一段落して、その反動から、ムスクやレザーなど濃密な香りが復活しているからだ。しかも、それらは軽やかで清涼感ある香調トレンドを経ているため、ムスクやウッドの重厚感を香らせながらも、全体のトーンはあくまでも透明感があるモダンな仕上がりに。だから、深みのあるウッディ調ながら、本人がまとっているオーラのように、ほのかに香りを漂わせることができるのである。
体温の上昇とともに、香りを背面から漂わせる
その代表格といえる香水が、ここで紹介する6つ。力強いウッドや官能的なレザーが、優しく上品ににおい立つラインナップだ。6ブランドのなかで、サンタ・マリア・ノヴェッラとノービレ 1942は、オーデコロン発祥の地であるイタリアで生まれただけに6品のなかでは最も香りが軽い。
洋服を着用したあとで、首もとや腕にスプレーするようにつけても、嫌みにならないほどに軽快さがある。ヨーロッパの空港では、旅疲れをリフレッシュするように、自身に香りを振りまいている紳士をよく見掛けるが、そのようにカジュアルに活用できるのが、この2品だ。
フランスの老舗メゾン、ゲランやシャネル、250年の歴史を誇るクリードや、30年以上のキャリアを持つ名調香師、ドミニク・ロピオンらが手がけたイッセイミヤケは、深みやまろやかさを堪能できるタイプだ。
身につけるタイミングは、洋服や下着を着用する前。背中や腰、ひざ下など、背面や下半身を中心に塗布すれば、香りが背面からオーラのように立ちのぼっていくので、コートの下から上品に漂わせることができるだろう。
伊達男がまとうべき、ほのかなる冬のフレグランス
香水はファッションに色気を与えてくれる小道具だ。自分の着こなしに香りが寄り添うことでツヤっぽさを演出してくれる。まずは紹介した6選のなかから、自分の存在感をにおわせる香りを見つけてほしい。香りは、あなたの魅力を、より豊かに語ってくれるはずだから。
※2015年冬号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 加藤智一 美容ジャーナリスト