サヴィル・ロウの名門アンダーソン&シェパードの顧客としても知られている、映画監督ポール・フェイグは、以前からカジュアル化が著しいハリウッドで、いかなるときもスタイリッシュなスーツに身を包んでいる異色の映画監督だ。一方、モダンジェントルマンを代表する映画監督ウェス・アンダーソンは、ブラウンのコーデュロイスーツ、アースカラーのシャツにニットタイ、着古したようになじんだツイードジャケットも好んで着ている。いついかなる時もジェントルマンであり続ける男たちにフォーカスし、真のジェントルマンに必要なものは何か紹介する。

洒脱な着こなしが映える生粋のエンターテイナー、ポール・フェイグ

1962年、アメリカ合衆国ミシガン州生まれ。映画監督、脚本家、俳優。代表作は『マッドメン』(2007年)、『ゴーストバスターズ』(2016年)等、多数。公私ともにスーツを纏うウェルドレッサーとして知られ、自身のインスタグラムのフォロワーは13万人を超える人気。
1962年、アメリカ合衆国ミシガン州生まれ。映画監督、脚本家、俳優。代表作は『マッドメン』(2007年)、『ゴーストバスターズ』(2016年)等、多数。公私ともにスーツを纏うウェルドレッサーとして知られ、自身のインスタグラムのフォロワーは13万人を超える人気。

映画監督ポール・フェイグをご存知だろうか。『ラスト・クリスマス』のように手掛ける映画の多くはコメディであり、彼らしいユーモアに溢れたものだ。「スーツは自分に力を与えてくれる」と語り、サヴィル・ロウの名門アンダーソン&シェパードの顧客としても知られている。以前からカジュアル化が著しいハリウッドで、いかなるときもスタイリッシュなスーツに身を包んでいる異色の映画監督である。

彼の名声をさらに高めたのは、ロックダウン中の自宅から毎日インスタグラムに投稿された、「クアランティン(隔離)カクテルタイム」と称したダンスとカクテルのビデオだ。ときにはディナースーツ、ときにはグレーの3ピーススーツと、シャルべのタイにブートニエールも合わせて毎日替えるなど、サービス精神も旺盛だ。彼自身が選んだ懐かしのディスコソングに合わせて、謎のダンスを繰り広げながらカクテルを作る。「つらいときだがカクテルを飲もう!家にいて頑張ろう!」こう呼びかける彼の姿に、どれだけの人間が励まされたか、わからない。かくいう私もそのひとりだ。

リラックスしたスーツが生きるモダンジェントルマン、ウェス・アンダーソン

1969年、アメリカ合衆国テキサス州生まれ。映画監督、脚本家。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)でアカデミー脚本賞ノミネート、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)でゴールデングローブ作品賞受賞。

笑いは人を救う。ポール・ヘイグがクラシックなジェントルマンのスタイルを踏襲しているなら、モダンジェントルマンな映画監督の代表はウェス・アンダーソンに違いない。

彼のトレードマークといえばブラウンのコーデュロイスーツ、アースカラーのシャツにニットタイ、着古したようになじんだツイードジャケットも好んで着ている。

シニカルな笑いという点でも、アメリカントラディショナルを着崩した装いという点でも、どちらかといえば、ウディ・アレンに近いセンスがあるように感じるのは、私だけではあるまい。だが彼ほど辛辣でもなく、万人受けを狙っているわけでもない。代表作『グランド・ブダペスト・ホテル』のように、社会に適合し難い不器用な人々の心の交流を淡々と描く。ファンタジーとユーモアがない交ぜになった、ノスタルジックな独特の様式美が彼のもち味だ。

ポール・フェイグのブロックバスター映画のように諸手を挙げて包んでくれるホスピタリティと、ウェス・アンダーソンの背後から見守るようなマイナーでディープなホスピタリティ、どちらにしても一緒にいる人を微笑ませることのできる男なら、それが最高のジェントルマンだ。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2021年春号より
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Getty Images
WRITING :
長谷川喜美(ジャーナリスト)
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