吉田眞紀氏がデザインし、「柘製作所」がものづくりを担当するステッキブランド「MATSU」。パイプの素材として知られるブライヤーやマホガニー、そのほかコットンキャンバスを何層にも重ねて樹脂を掛けた『マイカルタ』をグリップに使用。白樫に研ぎ漆で加工したシャフトなど絶品ぞろい。紳士に似合う、極上のステッキだ。いったいなぜ、こんなにも魅力的なステッキを作ることにしたのか、生みの親であるプロダクトデザイナー・吉田眞紀さんにお話を伺った。

シンプルかつ高品質なステッキ

美しく機能的なデザインに仕上げた“MATSU”のステッキ

以前、“M.Y.LABEL”というブランドで、メンズのアクセサリーを中心にステーショナリーなどをデザインしていました。ベーシックであたりまえのようなスタイルでも、「何かこの人、格好いい」という大人の男性に向けたデザインを展開しました。人のムードは、服装だけではなく、立ち振る舞いも重要ですが、アクセサリーは、加えるだけで装いが変化する、効果的なアイテムだとつくづく気づかされました。

リングやカフリンクスは、シルバー素材でデザインしていましたが、シルバーアクセサリーのブームが到来し、やがて、シルバーと異素材を組み合わせたデザインに広げていきました。クラシックな装いに合わせるアクセサリーのデザインからは逸脱せず、ただ、トラッドなスタイル一辺倒では退屈なため、アクセサリーで「外す」ことを狙っていました。

そして、アクセサリーの仕事をひと区切りさせた後、ほどなくして、事故で左脚を骨折してしまいました。そのとき、なかなか自分の気に入った杖がありませんでした。そこで自分でステッキをデザインすることにしたんです。

ステッキの製作は、アクセサリーの仕事を共にした「柘製作所」に依頼しました。パイプづくりでも有名な会社です。同社はかつて、ステッキをつくっていたこともあり、技術のノウハウがあるうえ、ものづくりに対する美意識が高い職人が集まっています。「柘製作所」でつくったステッキを実際に使い始めると、「もっとこういう形のほうがいい」と使い勝手がわかり、マイナーチェンジを重ねました。ステッキを使用していた2年半ぐらいの間、多くの人に声を掛けられたんです。

たとえば、いかにもビスポークのスーツに“エドワード グリーン”の靴を合わせたクラシックなスタイルの方など、みなさん、必要に迫られて医療器具としてステッキを持っていましたが、満足されていないようでした。装飾に凝った医療用のステッキはあっても、グリップやシャフトの素材など、ステッキの本質を突き詰めた魅力的なものがほとんどない。このとき、ステッキのデザインに確信が持てました。

紳士の装いに合わせたデザインも魅力

マイカルタ×カーボンシャフト・T字ハンドル (柘製作所〈MATSU〉)

“MATSU”のステッキは、紳士の装いに合った色や素材を選んでいます。強度も十分にある白樫を素材に漆で仕上げた、限りなく黒に近い茶色とこげ茶色の展開。カーボンシャフトやアルミ素材もあります。

ステッキをアクセサリーと言い切るのは難しいですが、機能を備えるステッキは“体の一部になったアクセサリー”と言えるのかもしれません。(談・吉田眞紀( プロダクトデザイナー))

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