日本人アーティストがメイクアップ部門でオスカー受賞を果たし話題となった映画『ウィンストン・チャーチル、ヒトラーから世界を救った男(原題:Darkest Hour)』。ダンディかつ意志の男というイメージがあるウィンストン・チャーチルが、強烈なプレッシャーの下、ぎりぎりの精神状態に追い込まれる様子が描かれている。そんな彼を強く叱咤激励するのが、彼の妻クレメンティーンである。
ダンディかつ意志の男というイメージがあるウィンストン・チャーチル
この描写を裏付けるような文書が遺っている。それはクレメンティーンがチャーチルに宛てた手紙だ。1940年9月、制空権を争ったバトル・オブ・ブリテンの最中に送られた手紙は、チャーチルの周囲への横暴に苦言を呈し、それを諫めようとするものだった。
「この強大な権力に上品に振る舞い、思いやり、そしてもし可能であれば超然と備えていてほしいです。あなたはよく『平静な心なくしては人心を掌握することはできない』と言っていましたね。私はイギリスのためにあなたの下で働く人々があなたを愛さないばかりか、称えもせず、尊敬もしないことには耐えられません」(『チャーチル・ファクター』ボリス・ジョンソン著、石塚雅彦+小林恭子訳、プレジデント社より)
チャーチル夫妻の間で交わされた多くの手紙からは、ふたりの仲睦まじさや気遣い、さらには同志的な感情が窺える。ときにそれは直截だ。クレメンティーンが長期の休暇旅行から帰国する際(その時彼女に愛人がいたのではないか、という疑惑が現在もある)にチャーチルが送った手紙には、次のような記述がある。「私は時折政治についてやや幻滅することがあり、あなたに慰めてもらいたく思います。(中略)ですから長い旅行であったからといってあなたを恨んではいません」(『チャーチル・ファクター』より)
孤高たりえたチャーチルには、こんなあからさまな言葉を受け止め、愛情と信頼を与えたパートナーがいたことは、知っておいていいかもしれない。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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