クルマ好きが究極的に憧れるもの。いろいろあるかもしれないが、リストの上位にかならずありそうなのが「ワンオフ」だ。自動車界のプレミアムブランドは、以前から、顧客の希望に応じて世界で1台だけのモデルを仕立ててきた。その伝統を引き継いだのが、2021年11月にフェラーリが発表した「BR20」である。

GTC4ルッソをベースに美しいスタイリングを構築

フロント開口部の水平のグリッドが眼をひく。
フロント開口部の水平のグリッドが眼をひく。
ベースのGTC4ルッソよりリアのオーバーハングを 3 インチ長くして、プロポーションを美しく見せている。
ベースのGTC4ルッソよりリアのオーバーハングを 3 インチ長くして、プロポーションを美しく見せている。

フェラーリBR20は、個人客のオーダーで作りあげられた、世界でたった1台のフェラーリ。V型12気筒をフロントに搭載した後輪駆動で、なによりフェラーリが強調しているのは、美しいスタイリングだ。

GTC4ルッソをベースに開発されたBR20のスタイリングは「1950年代と60年代のフェラーリにインスパイアされたもの」と、メーカーじしんが説明する。具体的には「410SA」や「500スーパーファスト」の名が挙がっている。

特別注文のフェラーリといえば、かつて、イングリッド・バーグマンの夫だったイタリアの映画監督ロベルト・ロッセリーニ(「ローマ・チッタ・アペルタ」「戦火のかなた」等)が注文した「375MMスカリエッティクーペ」(1954年)が有名。でも、ちょっとアクの強いかっこで、個人的には、今回のBR20のまとまりのよさに感心している。

BRってなにを意味しているのか。フェラーリはつまびらかにしていない。おそらくクライアントのイニシャルではないか、と言われている。そのひとが、フェラーリのヘッドオブデザインを務めるフラビオ・マンツォーニ氏ひきいる「スペシャル・プロジェクト」プログラムを通して実現したBR20は、エレガントさとスポーティさを、ともにそなえているではないか。

かつてのフェラーリにあったエレガンス

キャビンを視覚的に軽い印象とするため、ルーフをブラックでペイントしてフロントウィンドウからリアスクリーンまでつないだデザイン手法がとられた。
キャビンを視覚的に軽い印象とするため、ルーフをブラックでペイントしてフロントウィンドウからリアスクリーンまでつないだデザイン手法がとられた。
濃淡 2 色のブラウンのレザーとカーボンファイバーでトリミングされたインテリア。
濃淡 2 色のブラウンのレザーとカーボンファイバーでトリミングされたインテリア。

「各プロジェクトは、クライアントのアイデアを出発点として、それをフェラーリ・スタイリングセンターのデザイナーチームが発展させます」。フェラーリではこのように説明。「全プロセスには平均1 年以上を要し、その間、クライアントはデザインの評価や検証プロセスに密接に関わります」。

ベース車のGTC4ルッソは2プラス2シーター。その後部座席をとっぱらって、ルーフの前後長を切り詰め、ながれるようなファストバックのシルエットを完成させている。フェラーリのファンだったひとは、過去のフェラーリを思わせるディテールを各所に発見できるかもしれない。

昨今のフェラーリは「ローマ」しかり、空力のオバケのようなデザインではなく、かつてのフェラーリのようなエレガンスをうまく盛り込むことに腐心しているように思える。

自然界のモチーフがテーマなど、さまざまなデザイン哲学を開陳する競合ブランドもあるなか、50年代ローマの「甘い生活」に思いを馳せられるような、流線形のようなラインと、グラマラスな面を強調したボディは、フェラーリでしか作れないもの、という自覚のようなものがあるのだろうか。

リアベンチとラゲッジデッキをフラットに折りたたむと、奥行きのある荷室が使える。
リアベンチとラゲッジデッキをフラットに折りたたむと、奥行きのある荷室が使える。
この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。