スマホに登録したレストランの中には、あまり人には教えたくないという店がいくつかある。渋谷・神山町の商店街にある小さなフレンチ・レストラン「プティバトー」は、そんなとっておきの一軒になるだろう。
フレンチ・レストラン「プティバトー」[渋谷]L.O24:00
渋谷の東急百貨店の脇道を北上し、しばらく歩くと現れるのが神山町の商店街。昔からある通りだが、カフェやギャラリー、セレクトショップなど、洒落た店が少しずつ増え、近頃では「奥渋谷」(通称オクシブ)と呼ばれる人気エリアとなっている。そんな懐かしさと新しさをあわせもつこの界隈に、すっかり馴染んだ様子で佇む「プティバトー」。
目印は、うず高く積まれた薪木と鮮やかな青色に塗られた木製のドア。そのドアを開くと、カウンターの向こうで迎えてくれるのは、オーナーシェフの笹川幸治さん。そう、「プティバトー」は笹川シェフがひとりで切り盛りする8席だけの小さな店なのだ。
臨場感あふれる店内カウンター
背もたれのついた趣のあるアンティーク風の椅子が8つ並ぶカウンター。店のオープンに当たって笹川シェフがとくにこだわって選んだのが、この椅子。それは、カウンターだけの店だが、短時間で帰るのではなく、料理をゆっくりと味わって欲しい、という真摯な思いからだった。
その椅子に座ると目に入るのが、黒板にぎっしりと書かれたメニュー。手元に出されるメニューはなく、この黒板のメニューを見ながら客が料理を選ぶのかと思いきや、実際には、笹川シェフがそれぞれの客に食材を説明するところから始まる。しかも、今日、一番状態がいいという魚や肉、野菜などを素材のまま目の前に出してくれ、おすすめの調理方法をいくつか挙げてくれる。そうしてオーダーした自分好みの料理が目の前に出てくるのだから、期待が高まる。
都内の結婚式場で料理人のキャリアをスタートさせた笹川シェフが、本格的にフランス料理の世界に入ったのは、伝説のタイユバン・ロブション(恵比寿)のオープニング・スタッフとして採用されたことがきっかけ。同店での2年間が大きな刺激となり、その後、フランスに渡る。意欲的に各地をまわるうちに、それぞれの土地に根付いたレストランのあり方に共感を覚えたという笹川シェフ。旬の食材、しかも、その日一番いい状態の素材を提供するという「プティバトー」の料理の基本は、このとき学んだものなのだ。
帰国後、いくつかの高級フレンチ・レストランでのシェフを経た後、2002年に独立、代々木上原にレストラン「プティバトー」をオープン。ここはテーブル席がメインの店だったが、2010年2月に神山町に移転。現在のカウンター席だけのスタイルにして8年目を迎えようとしている。
地元の馴染みのお客さんはもちろん、評判を聞きつけて遠方から訪れる客、そして、遅めの時間には、ひとりカウンター飯を楽しむ男性客も多く訪れる。だから、ラストオーダーは24時、閉店は成り行き、というのがありがたい。
深夜に訪れ、男ひとりのカウンター飯のオーダーに迷ったら、笹川シェフが薦めるオードブルの盛り合わせと温かい前菜2皿の組み合わせを選んでみるといい。彩りも美しいオードブルは、パテやカルパッチョをはじめとする5種類の盛り合わせ。温かい前菜2種も、もちろん、その日一番、状態のいい食材をシェフのおすすめの調理法で仕上げたもの。どちらもコース料理のサイズのため程よい量で、ワインを楽しみながらゆっくりといただくことができる。
最寄りの駅は代々木八幡と代々木公園だが、オーチャードホールなどがあるBunnkamuraから徒歩数分のため、劇場が終わったあとに食事とワインを楽しみにくる人と隣り合わせになる、なんてこともある。ひとりの時間を満喫しつつ、楽しい人間関係も生まれるかもしれない。そんな大人の店なのだ。
シェフが目の前にいるカウンターの店ならではの嬉しいやりとり
見た目も美しいオードブルとワイン
※価格はすべて税抜き表記です。
【お問い合わせ】
■プティバトー
東京都渋谷区神山町4-20 金丸ビル1F
TEL:03-3485-9928
営業時間/18時~ ラストオーダー24時/祝日 18時~22時
定休日/日曜日
アクセス/代々木八幡駅、代々木公園駅から 徒歩約8分 東急百貨店本店から徒歩約6分http://www.petitbateau-pb.com/
- PHOTO :
- 小倉雄一郎