往年の女優やモデルといったミューズとバッグは、互いに惹かれ合い引き立て合うことで、いくつもの伝説を生んできました。

雑誌『Precious』3月号では、「時代のミューズはいつも羨望のアイコンバッグと共に」にて、今をときめくセレブリティと新たなアイコンバッグとの蜜月関係を特集。

今回は、「エルメス」「ザ・ロウ」「デルヴォー」のアイコンバッグについて一挙にお届けします。

1:Marion Cotillard(マリオン・コティヤール)×エルメス「CONSTANCE(コンスタンス)」|まろやかなスクエアが優雅なリラックス感へと導く都会的なショルダーバッグ

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バッグ¥1,265,000/予定価格[縦16.5×横24×マチ8.5cm](エルメスジャポン)

スポーティな旅スタイルにバッグでさりげなく品格を添えてミラノの空港に降り立つ

1967年に新進気鋭の女性デザイナーによってつくられた『コンスタンス』。ショルダーストラップの軽快さと、気品のある佇まいを併せもつシンプルなデザインは、当時革新的で、アクティブな女性たちが注目。

この『コンスタンスIII』には間仕切りがあり、さらに機能的に。

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2:Emilia Clarke(エミリア・クラーク)×The Row「Margaux(マルゴー)」|トレンチに着想を得た、シーンを問わず日常に寄り添うトートバッグ

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バッグ『マルゴー 10』¥391,600[縦18×横25×マチ19cm](ザ・ロウ・ジャパン)

小柄な体型にも映えるしなやかなビッグシルエットに今の気分を託して

トラベルバッグを思わせるクラシックなつくりに、トレンチのディテールを効かせた端正なトートバッグ。発売されるや否や、本格的な新名品の誕生としてファッションプロの間で人気に火がついた。

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3:Karlie Kloss(カーリー・クロス)×Delvaux「BRILLANT(ブリヨン)」|名建築を思わせるシェイプに女王の気品漂うトップハンドルバッグ

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バッグ『ブリヨン ミニ』¥715,000[縦16×横20×マチ11cm](デルヴォー・ジャパン)

モデル界きってのグッドガールは清潔感溢れるワントーンのアクセントに白のミニサイズを

1958年、ブリュッセルで開かれた万博で、ル・コルビュジェが設計したパビリオンにインスパイアされて誕生したのが『ブリヨン』。女王の風格を備えたバランスのいい台形フォルムに、斬新なカーブを描くハンドルとバックルが、見事なバランスであしらわれ、アートピースのような美しさにまで昇華された。

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自分らしいスタイルで輝き続けるアイコンバッグと女たち

自分のイメージとは、自らが思い描くそれとは別に、いかに他者の記憶の中で形づくられていくものか、気付かされることがある。

例えば高校の同窓会。何十年ぶりかに再会した友人は、私が何気なく語った話をずっと覚えていて、彼女の中で私は、忘れていた些細な物語を生き続けていたことに驚く。

またよく知るスタイリストによれば、私のイメージは20数年前に出会った頃愛用していた、とあるブランドのアイコニックなスエードのボストンだという。上質なスエードのなめらかさと軽さ、ボストンという使い勝手のよさから、ブラウンと朱赤をサイズ違いでもっていて、どんな服にも合わせていた時期があった。

「とてもよく似合っていたのよ。あれこそ名品バッグだと思うわ」

思いがけない指摘だった。今もそれが私のイメージとして止まっているとしたら、ファッション誌編集者として、女としていささか問題ではあるが、自分とバッグの関係を見つめ直すことになるひと言だった。ちなみにそのバッグは今もブランドを象徴するアイコンのひとつであり、ここ数年こそ新作のかたわらでブランドの「推し」ではないものの、いつでも「いち推し」になりうるポテンシャルを備えている。

こうして年齢を重ねるほど、他者の中で思いもよらない自分のイメージの蓄積が、大きくなっていく。思い出してもらうきっかけがあるだけでも十分だ。そう、誰かの印象に残るためには、自分とは別の何か、確固たるもうひとつのイメージが必要になる。できれば今の自分を引き上げて、気分を高揚させてくれるような…。女性にとって、その最たるものがアイコンバッグなのだ。

ここで取り上げたのは、今をときめく時代のミューズ3人と、そのお気に入りのアイコンバッグ。もちろん彼女たちはほかにも多くのバッグを所有し、特定ブランドの顔を務めることもある。明日は違うバッグを持っているだろう。

それでもなお「他者」である私たちがこれらの写真に心惹かれてしまうのは、持つ人の佇まいや生き方を物語るような相性のいいアイコンバッグを、自分らしく、大切に愛用していることが伝わってくるから。その姿がドラマティックな一枚の写真と共に、その人の決定的なイメージになっていく。

このうちふたつのアイコンバッグは、誕生から半世紀を超える名品ながら、微細なアップデートによって時代の気分をまとい続けている。現代のミューズたちは、永遠にその名を刻むであろうバッグの圧倒的なパワーに、自らのイメージを重ねながら、今の自分にフレッシュな印象を与えてくれるバッグだけを選び取る。そんなセンスに長けているようだ。

そして自分らしく、今どきの軽やかなオーラを漂わせながら持つことで、まるで名刺のように、ほかの誰より自分のものにしてしまう。その姿は私たちの羨望をかき立てながら、彼女たちのイメージもまた美しいアイコンバッグの存在によって、忘れがたいスタイルとなり、伝説にまで高められていく。

さて、件の私のバッグはスエードが汚れ、コバも擦れて、今はクローゼットの奥深くに眠っている。古くささは微塵もなく、上手なリペアに出せばいきいきと蘇るだろう。

けれど今は、何か別の新しい「イメージ」に出合いたいと心が囁く。端正なトップハンドルを素敵に日常使いできる性質ではない。スタイリストの有難い言葉を思い出し、ここは狙いを定めたいくつかのボストンこそ自らのアイコンバッグと決めて、スタイルを極める…としますか。時代のミューズたちに倣って。(文・藤田由美)

※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

PHOTO :
小池紀行(パイルドライバー)、Backgrid/AFLO
STYLIST :
三好 彩
EDIT&WRITING :
藤田由美、古里典子(Precious)