今、もっとも旬な男の“現在地”に迫る新連載「この人の『現在地』」。
『Precious』4月号では、現在放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演中の中川大志さんへのスペシャルインタビューをお届けしています。
伝説的ドラマ『家政婦のミタ』('11)をはじめ、『夜行観覧車』(’13)や『なつぞら』('19)など、数々の話題のドラマや映画に出演してきた彼のその秘めたる想いや素顔に迫りました。
やってきたことに自信をもとう。そう思えて、生き方が変わった
ずいぶんと長い間、この人を見続けてきた気がする。しかしまだ23歳だという。鮮烈な内容で驚異的な視聴率を記録、伝説として語り継がれるドラマ『家政婦のミタ』で、長男・翔役を演じていたのは、ちょうど10年前のことになる。
「今でも言われます。ものすごく大きな作品に出させていただいたと、あらためて思いますね。あの時、とんでもない数の俳優たちがオーディションに来ていて、勝ち取ったという感覚はあります。でも……僕自身はまだ、俳優として何者でもなかったですし、実はその後、ずっと悩みました」
どんな作品に入っても『ミタのお兄ちゃん』という役のイメージ、肩書きがついて回ったという。
「どうやったら抜け出せるのか……コンプレックスでした。端から見たらすごく贅沢なことだと思いますが、いつになったら中川大志という名を覚え、呼んでもらえるのだろうかと、焦って。
でもあの頃はそんな話も打ち明けられなかったです。10代だし、周りに弱みを見せずにどれだけ見栄張れるか、みたいなところもあったから(笑)」
自分という存在、俳優としての位置が定まらず、苛立っていた時期だった。
「オーディションに行って、もちろん落ちることもあるわけです。いいところまではいくのですが、最後のふたりとか、3人でダメ、ということが多くて」
そのエピソードに、当初から俳優として高く評価されてきたことが窺えるが、本人の慰めには決してならなかったらしい。落選のたび悔しさに心揺れ動きながら、自分の気持ちを引き上げる努力をしてきた。
「感情の浮き沈みが激しい性格なので(笑)、落ち込むと結構引きずってしまっていたんですよ。でもあれがダメだったから、今があるんだ!と意識を変えるようにしたら、自分がやってきたことは、すべて自信に変えなくてはと思えるようになった。あれは大きな変化だったかもしれません」
もともと演技力は高い。目に力があり、向き合うと、その目はひと際きれいだ。
3歳からジャズダンスを始めて、「発表会でもらった拍手が原動力」となり、「人に喜んでもらえる俳優という道」を選んだ。熱く、真っ直ぐな学生や青年を演ずることが多いのは、素地に近いのだろうか、飾らない話し方にそれがみえる。長崎を舞台にした映画『坂道のアポロン』(2018)では、札付きの、けれども人情深く純粋な不良高校生役を熱演して、日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞した。
「思い出深い作品です。地方でのロケって、その土地の空気、匂い、色……そういったものに、芝居が助けられるんです。その一瞬、一瞬が作品に密閉されるというのか」。言葉の端々に、感性の強さがみてとれる。
自分から、前に前にと出ていくタイプではなくて
現在、NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演。大河はすでに4作目だという。
「大河のスタジオって独特な空間で、ほかとは違う緊張感があるんです。慣れるどころか毎回、怖いですし、そのお陰で度胸をつけていただいて、鍛えられています。
僕の演ずる畠山重忠という人物のことは、実は役をいただく前は、よく知りませんでした。いろいろと学んだら、あの勢力争いの激しい時代に、誰にも忖度せず、見返りも求めず、ひとりひとりと実直に向き合った男。腕も立って文武両道なんです。
僕との共通点? 畠山は完璧すぎてとてもとても(笑)。ただ少し引いて、周りの人、雰囲気をそれとなく見ているという居方は、似ているかもしれない。僕も自分から前に前に出ていくというタイプではないので」
しかし、役づくりのプランは自身の中でしっかりと練っていた。
「完璧すぎるのではなくて、少し隙が見えるような人物のほうが、チャーミングでいいなと。そんな人間っぽいところも出していけたらと考えています」
そう思うのは、彼自身の経てきた年月と、経験が関係しているようだ。
「以前は完璧主義で、ひとつ抜け落ちたら、ほかの99がムダになってしまうという思いが強かったんです。欠けている1ピースにとらわれて、全体が見えていなかった。
でも、20歳過ぎぐらいからかな、完璧できれいすぎるものを求めると面白くないと気がついた。ものごとって、どこか粗があるとか、うまくできないことのほうが面白いこともあるんだって……。
スポーツにしても、選手たちはがむしゃらにやっているだけで『見え方』なんて考えてるわけじゃないけれど、だからこそ見ている人の心が動くんだなと。それからは、いい意味でどうにでもなれというか、ふっと肩の力が抜けたように感じます」
これから先々、これまでになかった人生ドラマを背負った、中川の演技が見られるのかもしれない。
「役者として、人として、これまでの10年と、ここからの10年はまったく違うものになるはず。冬の真夜中に誰にも見られず、地味にロケしている時とか、辛いこともありますが(笑)。これがいつか人の目に触れる、大スクリーンで観てもらえると思うと頑張れる。
僕がいつか死んでも、作品として軌跡が残る仕事。一瞬、一瞬を大切に生き切ります」
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
- PHOTO :
- 秦 淳司(Cyaan)
- STYLIST :
- 藤長祥平
- HAIR MAKE :
- 堤 紗也香
- WRITING :
- 水田静子
- EDIT :
- 小林桐子(Precious)