『Precious』5月号では、『マニッシュ靴で魅せる「保奈美トラッド」』と題し、ふだんからトラッドをこよなく愛する鈴木保奈美さんとともに、旬のトラッドスタイルとマニッシュな足元の魅力にフォーカスしています。

今回はその中から、鈴木保奈美さん執筆による『私がトラッド靴を愛し続ける理由…』をお届け。すべて鈴木保奈美さんの愛用品という、マニッシュ靴のコレクションも必見です。

鈴木保奈美さん
(すずき ほなみ)1966年生まれ。パリ・ファッションウイークの日本における公式アンバサダーを務めるなど、ファッション性の高さは、ドラマや映画、本誌のファッションページでも注目の的。インスタグラムのフォロワーは、30万人以上。4月には、舞台『セールスマンの死』(PARCO劇場)に出演。東京ほか、5都市にて公演予定。著書に『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)あり。

私がトラッド靴を愛し続ける理由…

パラブーツのマニッシュ靴と犬
分厚いラバーソールにダブルモンクが特徴的な、マニッシュ靴の代表格。重厚な靴には、ハイゲージソックスを合わせるのが「保奈美トラッド」の流儀。靴[ヒール3cm]『VOGUE』¥74,800(パラブーツ青山店)、パンツ¥217,800(ブルネロ クチネリ ジャパン)、ソックス¥2,860(真下商事〈パンセレラ〉)

「アニエスベー」のカーディガンプレッション(紺か赤)、神宮前にお店があった「シピー」のストレートデニム、斜めがけにした「ウプラ」のバッグ、というのが学生時代の私の正装だったから、初めてパリへ旅行した時は、どうしても「ジェイエムウエストン」でローファーを買わねばならなかった。

もちろん学生には高価な買い物だったけれど、それでも今ほどのお値段ではなく、現地で買うとさらに値頃に感じられた。アジアから来た女の子の片言のフランス語に、シャンゼリゼ本店の紳士はよくぞ対応してくれたものだと思う。フランス人が意地悪だって、うそじゃん。

この時手に入れた紺色のローファーを、私は本当に長いこと愛用していた。

足の形に自信がないとか、脚の形に自信がないとか、華奢な靴を履くとひどい靴擦れができるとか、現実的な理由はたくさんあったが、思うにあの頃の私は、外見に女らしさが現れることを恐れていたのではないだろうか。

胸元や腰のラインや腿の肉付きを絶対に主張したくなかった。生々しくなるのが嫌だった。思春期をこじらせたような20代の私を、ローファーは優しく美しく包んでくれたのだ。時には気高く知的にさえ見せてしまうという魔法をかけて。

あれから数十年が経ち、女らしさの境界線があやふやになりそうな年代に差し掛かって自分の装いを見直すとき、私はあえて、もう一度、トラッドなメンズ靴を手に取るのだ。逃げじゃない。れっきとした、攻め。

一番上まで留めたシャツのボタンが香らせる官能。カフスで閉じた袖口を揺らす、風。薄手のソックスに包まれたくるぶしや、かっちりとしたジャケットの肩の内側に華奢な骨格を想像させるのは、女の特権だとあえて言おう。

女として、装いたい。だから私はローファーを、ウィングチップを、モンクストラップを履く。真紅のペディキュアは欠かさない。(文・鈴木保奈美)

鈴木保奈美さんの愛用品のマニッシュ靴
写真は、すべて鈴木保奈美さんの愛用品です。

右上から/「チャーチ」のダブルモンクは、3年前にプライベートで訪れたロンドンにて。伊達男の聖地、ニューボンドストリートのショップで素敵な英国紳士から購入。「ドクターマーチン」のビット付きローファーは、昨年娘とショッピングに出掛けたときにひと目惚れをして…。革が柔らかくて履き心地抜群の「アーツ&サイエンス」のチャッカブーツは、エイジング加工による表情がお気に入り。「ジェイエムウエストン」を代表する『ゴルフ』とエナメルの『シグニチャーローファー』(写真上)は、表参道店で。遊び心たっぷりのレースアップは、「トム ブラウン」。友人からN.Y.のお土産でいただいたもの。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

PHOTO :
浅井佳代子(ロケ)、池田 敦(パイルドライバー/静物)
STYLIST :
犬走比佐乃
HAIR MAKE :
福沢京子
MODEL :
鈴木保奈美、アズナヴール(犬)
WRITING :
鈴木保奈美
EDIT&WRITING :
兼信実加子、喜多容子(Precious)