斎藤 工さんスペシャルインタビュー「映画館は僕にとって、そして誰かにとっての大切な居場所。守り続けるために力を生かしたい」
世界の広さを知り、物語の世界に没頭した幼少期
うつむきがちにゆっくりと話すが、時折、ツッと向ける目に、深い感情を秘めている。常に何かを思索して、“ものづくり”を希求しているような人だ。俳優としてスタートしたが、監督や、移動映画館『cinéma bird』(被災地や劇場体験のできない地域等で上映するプロジェクト)の主宰、途上国の子供らに映画を届ける支援ほか、活動は多岐にわたる。
「僕自身の中にあるいろいろな“点”が、外側から見ると、線や面として見えるということなんだろうと思うんです。たとえば俳優業に限らず、これは自分を生かせるニーズだと感じることに出合った時は、迷わず手を挙げさせていただく。役割をひとつに決めるのではなく、自分の生かし方を常に考える。理想は、日本の映画産業における“パイプ”としての役目を果たしたい」と、語る思いは熱い。
「日本のエンタメは今、過渡期にあると思っています。これまでは、国内で損失が出ないことだけを考えて制作してきましたし、効率を優先するから、シネコンが台頭して町の小さな映画館が姿を消していく。これから先、どこを目指していくかがとても大切です。米・アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』は、低予算でコツコツ映画を作ってきた濱口竜介監督の心根に、映画の神様が降りたと思っている。人間の本質を描くよい作品なら、他国にも響き共感されるとわかりましたよね。快挙だったと思います」
斎藤がグローバルな視点を持つのは、小学校時代に受けた、哲学者、R・シュタイナーによる自由精神の教育も関わるようだ。
「在学中に(シュタイナー教育が盛んである)イギリスの学校に夏期留学をしたんです。英国航空機内で地図を見たら、当然イギリスが中心で、日本はファー・イースト(笑)。自分が住んでる所はここなのか、と衝撃で、強く印象に残っていますね」
居住地域にある学校ではなかったため、地元に友達はいなかった。
「テレビを置いていない家だったから、ひとりで物語を作って遊んで。それが僕の想像の起源なのかな」と言う。思春期に入ると、映画の世界にのめりこんでいった。
「映画館の暗闇に育てられました。イマジネーションの世界に、ひたすら没頭して」 高校卒業後、俳優を目指したが、なかなか認められず年月が過ぎた。
「オーディションを受け続けても、通らず、必要とされない。そのうち、自分という人間に価値が見出せなくなっていきました」
新聞配達などのアルバイトをしながら生活費を賄った。
「鳴かず飛ばずで。苦労が長かったとは思いませんが、世の中に認知されないと不幸せだという風潮が、余計に虚しかったです。この嫌な風潮は現代も蔓延していますね」
気づくと、20代も半ばを過ぎていた。
「業界の人達とのつきあいも苦手で、器用じゃないんでしょう。その場限りの、付け焼き刃的なおつきあいがどうも好きではないんです」
このまま人生の幕が下りたら何も達成できずに終わる
人にも物事にも「真剣に対峙したい」、そう思って生きてきた。低迷のこの時期、「人生の意味」を考えざるをえなかったという。
「自分の人生の終わりをすごく具体的に考えました。このまま幕が下りたなら、絶対に何かを達成した感覚にはならないだろうって。そんな頃に藤原新也さんの写真集『メメント・モリ』に出合ったんです」
インドの地をはじめ、生きとし生けるもの、森羅万象を写し切ったような作品に感銘を受けた。
「最初の『ちょっとそこのあんた、顔がないですよ』という一行にまず掴まれました。自分は自分の人生の主人公であるけれど、他人にとってはただのいち通行人にすぎないんだ、とも気づいて、楽になりました」
「写真集に感じた死生観」は、後年、監督した初の長編映画『blank13』(2018)で、ひとつの形として結実する。13年間、失跡していた放蕩な父親と家族の、苦しみと切なさが静かに織り込まれた作品は、国内外で高い評価を受け、各映画賞に輝いた。
「確証のない暗闇の道をなんとか進んできて……よかった、と思えた出来事でした」
映画館は僕にとって、そして誰かにとっての大切な居場所。守り続けるために力を生かしたい
一方で俳優としての出演作も相次ぎ、5月には映画『シン・ウルトラマン』が公開となる。1966年に登場して以来、今なお人気を誇るキャラクターの、壮大な最新映画である。ここで彼は巨大不明生物と闘う特設対策室のメンバー、神永を熱演した。
「ある意味、神話的ともいえる作品に出演が決まってとても興奮しました。でも、単にウルトラマンと巨大生物が闘う物語ではなく、現在の地球上にある原子力や核、戦争といったあらゆる問題を含んでいる。ウルトラマンが人類の正義と欲望の狭間に立って、両極面を見るとでもいいますか。娯楽作品であっても、今、公開されることが必然のように思えてくる内容です」
映画について語る時、瞳に静かな情熱が宿る男は、「1本の作品によって人生が変わることがある」と、強く信じている。
「映画館は僕の居場所だったし、誰かの居場所でもある。その大切な場を守り続けたい。これからも自分のできること、耕すべき畑を、しっかりと耕していくだけです」
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