レザー製品には枕詞のように「一生モノ」という宣伝文句がついてまわるが、齢よわい40を迎えようとする私には、少々疑わしく思えてしまう。今までの経験則でいえば、どんなに大枚をはたいて買ったブーツやレザージャケットだって、トレンドが過ぎ去ってしまえば、ただのタンスの肥やしだ。だからこそ、人生の先達にして偉大なる伊達男たちに聞いてみたい。あなたたちは本当の「一生モノ」を持っていますか? と。

時代を超えて輝きを放つ真の「一生モノ」を探して

 この特集を担当するにあたって、私が真っ先に向かったのは横浜。伝説の編集者、そして着道楽として世界中を旅してまわった松山猛さんのもとである。彼がイタリアへの取材旅行の途中で手に入れ、著書『てすうと』(1994年発行/風塵社)に記していた、「アルファンゴ」という工房製の一枚革のハンティングブーツを一目見てみたかったのだ。松山さんが快くお貸ししてくれたそのブーツは、布袋から出した瞬間、スパイシーな香りをほのかに漂わせた。これは海藻やオークの樹皮、ミモザの花などを使って牛革をなめした、トスカーナ産のレザー「バケッタ」特有のもの。20年以上にわたってはき続けることで完成した豊かなブラウンの濃淡とあいまって、その靴は私にフィレンツェの街並や、トスカーナの丘陵地帯を彷彿させるのだった。松山さんはこの靴と一緒に、その思いを綴った、ロンドンの靴店「ロバート・ロウリー」の短靴も持ってきてくれた。

「ロバート・ロウリー」と「アルファンゴ」の靴

右は冒険家エドモンド・ヒラリー卿を顧客に抱えていた、ロンドンの登山靴店「ロバート・ロウリー」が、1970年代につくった靴。木釘で底づけされたビブラムソールが迫力満点! 左は20世紀初頭に設立され、フィレンツェの上流階級に愛された工房「アルファンゴ」の靴。バケッタレザーを使いアッパーを継ぎ目のない一枚革で仕立てた、無骨にして優雅なハンティングブーツだ。

 コバに松まつ脂やにを塗り込んだその頑丈そうなプレーントウは、人懐こいフィレンツェの靴とはまた違った、頑固な表情が印象的。ちなみに「ロバート・ロウリー」はすでに店をたたみ、「アルファンゴ」はファンドによる買収を経て、現存するものの往時の面影はない。しかしつくり手がいなくなろうとも、生み出された製品は生き続けるのだ。

 横浜といえばもうひとり、欠かせない紳士がいる。慶応2年に創業した、日本を代表する洋品店「信濃屋」の顧問、白井俊夫さんだ。60年近くにわたって世界中のいいモノを日本に紹介し続けてきた白井さんは、現代では手に入らないような貴重なレザー製品をたくさん所有し、そして現役で愛用し続けている。そんな彼の膨大なアーカイブのなかで、思わず目に留まったのがグッチのボストンバッグだ。

グッチのバッグと「ティンカーティ」のブルゾンとディンゴレザーの手袋

まだフィレンツェの野趣を残していた時代のグッチのボストンバッグは、レザーの上質さが際立っている。ミラノの名洋品店「ティンカーティ」のスエードブルゾンは、超極薄なのにリバーシブル仕様という、素晴しい革と技術が堪能できる品。鹿革よりずっと丈夫なディンゴという野生動物の革を使った手袋は、数寄者垂涎の品。

 買い物天国と言われた20数年前のフィレンツェで、たった6万円程度の価格で手に入れたというそのバッグは、少々重いが驚くほどやわらかなレザーを使っており、白井さんのピッティ・ウオモ出張を長年支えてくれた思い出の品である。驚かされたのは、それだけではない。イタリア紳士がよく着ているデザインのスエードブルゾンは、ミラノの名店「ティンカーティ」の30年モノ。そして今や幻と言われる「ディンゴ(オーストラリアの山犬)」レザーを使った手袋は、なんと45年モノ! しかもどれも状態は抜群だ。よほどまめなケアを心がけているのかと思いきや、白井さんはそれを否定する。「靴だけは磨きますが、ほかはまったく何もせず、乱暴に使っていますよ。この使い方に耐えられるレザーのほうが、大したものなんです。私が選ぶ革製品は経年変化によってどんどん味が出る、ブラウンカラーがほとんどですしね」

 レザー製品を「一生モノ」とするには、よいモノを選ぶことは大前提だが、どんなに乱暴でも使ってあげることが大切なのかもしれない。白井さんのレザーとのつきあい方を見て、そう感じた。

 私がいつか手に入れたいと思っているバッグのひとつに、クロコダイルのポートフォリオがある。今まで様々なメゾンブランドでチェックしてきたのだが、これを超えるモノにはついぞお目にかかったことはない。

 「ユナイテッドアローズ」のクリエイティブディレクターを務める鴨志田康人さんが所有するそれは、とに斑の大きさ、そして美しさがずば抜けているのだ。しかも鴨志田さんがすごいのは、そんな最高級品であってももったいぶらず、カジュアルな着こなしに合わせてしまっているところ。もともとはスポーティな意味合いの素材だったという、クロコダイル革の本質を知っているがゆえの洒脱なつきあい方といえる。

カルロス ファルチのクロコダイルクラッチ

1980年代にN.Y.で一世を風靡したブラジル人デザイナー、カルロス・ファルチ氏(故人)のブランド。華やかなデザインのウィメンズバッグが有名なだけに、こんなシンプルで格好いいメンズバッグがあるとは意外。横幅40cmを超えるサイズ感といい、現代のクロコダイル革ではなかなか見られない巨大な斑ふといい、実に貴重な品である。

 しかしそれにしても、この凄まじいバッグは一体どんなモノなのだろう?

「これはカルロス ファルチというN・Y・で活躍したデザイナーブランドのモノで、10年ほど前にヴィンテージとして手に入れました。レザー製品の魅力は、使い込むほどに美しく劣化していく、皮革そのものにあります。だから私は、新品よりも使い込まれたモノに惹かれるのです」

 今やここまでのクロコダイルとはそうそう出合えないだろうし、誰かが愛情を持って使い込んだレザーアイテムには、えも言われぬ魅力がある。どうやら「一生モノ」を探すにあたっては、ヴィンテージという選択肢も外せないようだ。

 本誌にも多数寄稿してくださっている服飾評論家の林信朗さんは、英国紳士の風格と東京の粋を併せ持つ、希有な存在だ。そんな彼にとっておきのレザー製品を聞いてみたところ、驚いたことにまるで敷物のように大きくて分厚い、ウィメンズのムートンコートを担いできてくれた。

ムートンコート

林さんがアメリカ留学中の1975年に、カウボーイの街として知られていたオレゴン州ペンドルトンのショップで購入したという、ウィメンズのムートンコート。超肉厚のレザーや、すねまでしっかり覆うロング丈がいかにも’70年代らしい。購入から40年がたってもほとんど劣化が見られないことが、ムートンという素材の類まれな丈夫さを物語っている。

 これは林さんが1975年に、オレゴン州にあったカウボーイのお店で手に入れたもの。当時人気だったアメリカのTVドラマシリーズ『警部マクロード』で、主演のデニス・ウィーバーがまさにこういったコートを着ていたのだという。

「今でも年に1回くらいそでを通すけれど、とんでもなく重い。やっぱり本物のカウボーイは鍛え方が違うね(笑)」

 林さんはそういって笑うが、たとえ着なくなったとしてもこのムートンは、いつだって若かりし時代の思い出をよみがえらせてくれる、かけがえのない存在なのだ。

 あなたはクロコダイルのブルゾンを実際に着ている人を見たことがあるだろうか? もちろん私は知っている。世界の人気靴ブランドを手がける輸入商社「GMT」の代表、横瀬秀明さんだ。

セラファンのクロコダイルブルゾン

以前エルメスのクロコライダースをデニムと合わせて、ミラノの目抜き通りを悠然と闊歩するミュージシャン・スティングの姿を目撃した横瀬さん。2007年頃にパリの毛皮店でこのブルゾンを発見したときは、そのときの情景が頭によぎったという。いかにラグジュアリーなレザーといえど、躊躇せずに古いバイクに乗ってしまうのが彼の流儀。

 クロコのブルゾンというとモノ自体も、そしてそれを着ている人自体もゴージャスな雰囲気をイメージするだろうが、横瀬さんが着ているセラファンのライダースジャケットは、実にシンプルなデザインで、色あせたオリーブカラーがシック。

 その着こなし自体も力が抜けていて、Tシャツや、ときにはバミューダパンツに合わせることもある。そう、まるでGジャン感覚なのだ。

 しかしクロコダイルが持つ強烈な主張を手なずけるには、ある種の覚悟が必要だとも彼はいう。

「ファッションで人間性を表現する上で、レザーという素材は布ふ帛はくよりも強い存在感を持っています。だから自分と不釣り合いなモノは絶対に着こなせません。私はこのジャケットにそでを通すときはいつも、その存在感にふさわしい人間になりたい、と気を引き締めているんですよ」

 クラシコイタリアの第一人者として知られる、服飾評論家の池田哲也さん。彼が紹介してくれたのは、1990年代にナポリでビスポークした、スエードコートである。かつてナポリには、このようにレザーウエアを誂えてくれる工房がいくつもあったのだとか。池田さんの体型そのままに少しいかり肩ぎみのコートは、なんと仕立ても総手縫い! ナポリの伝説の手仕事は、レザーウエアにも息づいていた。

ナポリでビスポークしたスエードコート

服飾評論家にして、日本を代表する本格ピッツェリア、「ベッラ・ナポリ」のオーナーでもある池田哲也さん。彼が2000年代前半にナポリで仕立てたコートは、カラチェニなどの高級ブランドのレザーウエアを一手に請けるファクトリー謹製。当時現地ではかなりの格安でビスポークができたという。スーツ同様の総手縫いで仕立てられたそのコートは、イタリアの仕立て文化の奥深さを教えてくれる。

 そんな池田さんは、レザー製品の行く末に強い危機感を抱いている。「レザーとは基本的に食肉の副産物なのですが、近年は世界中で肉食の需要が高まりすぎて、無理矢理発育させられた品質の悪い牛の革が多く流通しています。また、ヨーロッパでは老舗のタンナー(なめし工場)が続々と倒産しています。昔ながらの上質なレザー製品を手に入れるのは、これから困難になってくるでしょうね」

ここでは紳士たちの愛用品を通して、レザーにおける「一生モノ」は確かに存在すること。そして「一生モノ」と過ごす生活はとても豊かであることを思い知らされた。しかし池田さんが言ったように、彼らが所有するような名品が、いつまでもつくられ続ける保証はどこにもない。そう、探すなら今のうちなのだ。

※ここで紹介した商品はすべて私物です。

この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2015年冬号圧倒的な存在感に酔いしれる「一生モノ」レザー拝見!より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/小池紀行(パイルドライバー)