あるがままに、「不安」と生きる

会って、食べて、笑って、語り合う。当たり前だと思っていた何気ない日常が一変。外出や接触が禁止され、得体の知れないものと闘い続けたここ数年の日々は、目に見えない「不安」を私たちの心に植え付けました。どんなに前向きに気持ちを保とうとしてもモヤモヤ、鬱々とした気持ちになってしまう…。そんな人も多いのでは?

そこで、そもそも「不安」とはなんなのか、うまく付き合うにはどうすればいいか。3人の識者の方に、「不安」と上手に生きる心構えをおうかがいしました。

 

【みなさんからの不安】人生の折り返し地点にいる今、これからが不安でしかない​…

「健康、お金、仕事、家族、日々の暮らし。人生の折り返し地点にいる今、これからが不安でしかない」(Eさん・フリーランス)

ついに両親の介護。とまどいと不安の日々…

「ついに両親の介護、という現実が目の前に。とまどいと不安の日々です」(Mさん・Webデザイナー)

◇「人権活動家の目」で答える【「不安」と上手に生きる心構え】

「“ありがとう”と、ほんの少しの“おせっかい”と。世界はもっと優しくなるはず」

サヘル・ローズさん
俳優・タレント、人権活動家
(さへるろーず)1985年生まれ。イラン出身。 幼少時代を孤児院で過ごし、8歳で養母と来日。舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、主演映画『冷たい床』ではミラノ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。また、国際人権団体NGOの「すべての子どもに家庭を」活動では親善大使に。公私にわたる福祉活動が評価され、2020年にアメリカで人権活動家賞も受賞。新著に『言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”』がある。

今日のメイク、大丈夫かな。服装はこの場の雰囲気にちゃんと合っている?あの言葉に失礼はなかっただろうか…。そんな身近なモヤモヤから、未来の仕事やお金、人生についての不安まで。私を含め、みんな日々何かしら不安を抱いています。まったく不安を感じない人っているのでしょうか。

「不安」は、悪いことではありません。むしろ、自分の中の足りないものや信じられなくなっている点をちゃんと意識し、未来に向かって何かやろうとしている証。これでいいのかと葛藤しながら、前へ進む原動力だと思っています。同時に、今生きている日々は、そんな小さな不安を意識しクリアしてできた積み重ね。そう思うと不安も日常も愛おしく思えます。

コロナ禍では特に、目に見えない不安で押しつぶされそうになった人も多かったと思います。でも、視点を変えれば、未知のウイルスとの遭遇は、みんな同じ。世界中が、ある意味で共通の不安を抱き、一緒に乗り越えようとしています。それはそれで心強いこと。また、ステイホームやリモートワークなどで生活様式が変わったことで、家族や大切な人との時間に感謝したり、今一度、自分の人生について考えるきっかけになった人もいたでしょう。

私自身、コロナ禍で俳優の仕事はほとんどストップ。不安はありましたが、時間ができたぶん、これまでやりたくてもできなかったことに挑戦しようと切り替えました。実は3年ほど前から、いつか児童養護施設の子供たちに関する映画をつくりたいと思っていました。周囲に伝えると「やろう!」と賛同してくれ、リモート会議を重ねながら、1年かけて撮影を行い、もうすぐ完成します。不安な時期だからこそ、不安をエネルギーに変えることで達成できたことです。

こう話すと「ポジティプですね、強いですね」と、言われることがあります。いやいや、私はすごく弱いし、不安だらけ。ただ“どんな自分にもOKを出す”ということは得意!不安を感じていいんだよ、孤独を感じていいんだよ。疲れている自分はちゃんとねぎらい抱きしめてあげるし、頑張っている自分には「ありがとう、お疲れ様」と声をかけ、思いっきりほめる。そうやって、自分の中の自分を育んできました。

 

私は、幼少期から7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳のときに養母と来日しました。差別やいじめに遭い、貧しくて公園で寝泊まりしていたこともあります。それでも、今こうやって生きているのは、どんなに弱音を吐いても「いてくれるだけでいい」と、すべてを受け止め守ってくれた母の存在と、「大丈夫か?」と声をかけてくれた大人たちがいたから。

公園で生活していたとき、初めて「大丈夫か?」と声をかけてくれたのは、給食のおばちゃんでした。彼女もシングルマザーで娘さんを育てていて、決して裕福ではなかったのに、ご飯から絵本、洋服などを用意してくれ、家族のように接してくれました。ほかにも校長先生やスーパーの試食コーナーの女性、みんな目の前の困っている人に手を差し伸べてくれる人たちでした。だから、今の私を形成しているのは、まぎれもなく“ありがとう”の言葉です。

今、世の中には不安が蔓延し、みんな自分を守ることで精一杯だと思います。でも、ほんの少しだけ“おせっかい”してみませんか。困っている人がいたら、声をかけるだけでもいいんです。

不安を感じる自分も、疲れている自分も、頑張っている自分も全部OK! そのうえで、ほんの少しだけ、他人を思いやる余裕をもってみてほしい。“ありがとう”と“おせっかい”は最強です。ひとりひとりがそのふたつを大切にできれば、世界はもっと優しくなる。不安の少ない世界になるはずです。


目に見えない「不安」との付き合い方、向き合い方、教えます|「不安」と生きるためのワンポイント・アドバイス ── サヘル・ローズさん

不安を受け入れ、不安と共に生きていく…とはいえ、やっぱり、不安を少しでも解消できる術があるのなら知りたいもの。ここでは、より具体的に不安と付き合う方法を教えていただきましょう。

俳優・タレント、人権活動家 サヘル・ローズさん
俳優・タレント、人権活動家 サヘル・ローズさん

Q1: 不安を感じたら、まず何をする?

A:休む

走り続けることも不安を生み出す原因のひとつ。いったん止まって深呼吸して、まずは不安を抱えている自分を「お疲れ様」とねぎらって。その後、何に対してどう不安に思っているのか、感じるままに書き出して、視覚的に確認を。前向きな気持ちになれるはず。

Q2:不安なとき、自分にかける言葉とは?

A:「OK、大丈夫」

Q3:不安な日におすすめの本や音楽、アクションは?

A:夜、「BUCK-TICK」の曲を聴く、月を見ながら公園を散歩、ブランコに乗る、土に触れる

「BUCK-TICK」の音楽は、強くて優しい。心の奥にズンと響く。つらくて孤独だった日々を救ってくれました。また、夜の散歩や月が好き。眩しすぎない優しい光にほっとします。バラを育てるなど、土に触れることも、大地を感じ、不安を和らげてくれます。

 

PHOTO :
Getty Images
EDIT :
田中美保、池永裕子(Precious)