映画、ドラマ、CMと作品ごとに豊かな表情を見せ、今最も目が離せない女優のひとり、長澤まさみさん。その素顔はあくまで自然体。インタビューのはじまりは、取材場所の窓からお気に入りのお店を見つけてふわっと笑顔に。穏やかな空気の中、自らの心の内側をじっと観察するように語ってくれました。
高橋一生さんは人として大きい。相手に飛び込んでいくお芝居に驚き
キャリアがあってプライドがある。みんなが羨むような立場でパートナーもいる。そういう女性が自分の目指すものに突き進んでいく姿は、傍から見れば鼻につくかもしれないけれど、同時にいろいろなものと闘っているという側面もありますよね。頑張っている女性は、どうしても強く見える。でもそれって当たり前で、どれだけ物事に打ち込んで時間をかけられるかが、自分のキャリアや評価、仕事の出来に関わってくるということ。すごく一生懸命であることと、イヤな人に見えるくらい傲慢になるというのは、ときとして紙一重だと思うので、監督はそこを表現したかったのかなと。
自分が10代のころから共演してきた先輩ですから、今回のような大人の恋愛観を演じるのは気恥ずかしくて。ただ、高橋さんは、恥ずかしがっていてもそれをからかうような人ではないので、お互いの距離感や呼吸をはかりながら、空気感が生まれていった気がしますね。形から段取りを考えていくというより、「どうしてふたりはお互いを好きになったんだろうね」なんて他愛もない会話をしながら距離をつめていったというか。
あのシーンは、高橋さんならでは。人間のきれいじゃない部分さえも愛する博愛主義なところがあって、大きい人だから。私自身は臆病なので遠慮してしまってできないし、飛び込んでいける人ってすごいなと思います。あらためて尊敬しましたね。
なるべく過去は思い出さないようにしてるんです(笑)。大人になったねとか、あのころはこうだったねとか言われるのが苦手で、役としての顏で接しているから自分そのものについて語られることがすごく恥ずかしくて。お芝居の仕事をする上では、監督や共演する俳優さんのことを知らないほうがいいくらい。考え込んでいたり、集中していたり、恥ずかしいような姿もいっぱい見られていますから。
パートナーには常に平等を求めるより、ゆだねることも必要
結婚という大きな出来事を経験していないからか、まだないのかな。付き合うという恋愛関係の中では、お互いが迷惑をかけ合ってもむしろ自然だと思っています。自分にとってパートナーシップの理想は、お互いを尊重し合えること。相手が他に優先することがある状況だったら、しょうがないなと。私自身が頑張りすぎて疲れてしまうことはあっても、人に求めたり、執着したりしたことはほとんどなくて。だから素っ気なく見えて、相手に寂しい思いをさせてしまうことはあるかもしれませんね。
信じるか、疑うか。もし私だったら、両方。未熟なので、自分の感情に右往左往しちゃうと思います。でも、相手を思っての嘘なら受け入れられる。関係性ができていて生活がちゃんと成り立っていたら、過去はあまり気にしないで向き合えるんじゃないかなと。ひとりの人を永遠に愛し続けるって、そうあれたらいいなと思うけれど、家族じゃないとなかなかできないこと。まだ私はそういう人と出会っていないから未知の領域だし、いつか出会えるといいですね。
今の世の中では、キャリアや人間としての尊厳の部分で、男女が平等であることを求められますよね。でもやっぱり、パートナーシップでは「常に平等」というのは難しいんじゃないかなと。どちらかが支えて、どちらかが頼るというのをその場その場で柔軟に変えていくことが、本当に平等ということなんじゃないかなと思いました。
私は、男性を引っ張れるタイプではないのですが、ひとりで頑張ってしまうところはあるので、母には「いつも強くいる必要はないんだよ」と言われていて。人生の先輩としてのアドバイスに、確かにそうだなと。関係性の中では相手に合わせたり寄り添って、自分をゆだねるということもときには必要。映画をご覧になった女性には、強がらなくてもいいんだと感じていただけるんじゃないかなと思います。
自分のためだけには頑張れない。だから、枷をかける。
自分自身が賞をいただけるほどのことができていたのか…という問いは尽きなくありますが、よかったと言っていただけることに、素直に喜ぶ心を持っていたいなと。ただ、わりと頑固なので、人から評価していただいても自分の理想に近づいていない場合は、「そうじゃないんだよな」と自分を見つめる時間のほうが長いですね。喜んでいる自分とそうじゃない自分、いつも半分半分の感情の真ん中にいる感覚です。
客観的に見られる自分でいたいなと思っています。自分が見えなくなるくらい夢中になることへの憧れはありますが、役者というのは不思議な仕事。没頭していなくてはいけない反面、常に冷静でないといけない。そのバランスをとれるように努力していますね。頑固なわりに気が弱いところがあるので、そんな自分を回避するために。
若いころは目の前のことを必死にこなしていく…という感じだったんですが、今は自分のためだけには頑張れなくて、何かモチベーションが必要。だから、作品に入るときは、あえて自分に枷をかけるようにしています。最近は、難易度の高い現場を乗り越えるために「観る人に楽しんでもらうためにやってるんだ!」「スタッフさんは早く帰って寝たいんだ!」とか、いい意味で人のせいにする…というのを心がけています。
思うだけじゃなくて、「あー、早く帰りたいよな」と言ってるスタッフさんがいるという設定を頭の中で想像して、頑張んなきゃ!ってプレッシャーをかけるんです。実際は誰にも頼まれていないし、気づかれてもいないんですが、「やってやったぜ!」という達成感も味わえるんですよ(笑)。普段は黙々と家のことをするのが好きだったりして、ひとりだとボーッとのんびりしてしまうので、メリハリが出ていいですね。
おいしいものを食べる(笑)! 好きな友達に会って、一緒に飲んでもらったり、ごはんを食べてもらったり。そういう普通のことが自分を取り戻せます。
そうですね。中学の友達とは今でも仲がいいですし、実は最近、年下の友達も増えてきまして。一般の方だったり、旅先の外国で出会った人だったり、自分の友達同士をつなげていくのも好きですね。大切にしたいと思える出会いが広がってきたように思います。
ユーモアのある嘘ですね。「飛行機は、靴脱いで入るらしいよ」とか、好きなんです(笑)。サービス精神というか、周りの人とその場を楽しむための嘘は、大事にしていきたいと思います。
映画『嘘を愛する女』大ヒット公開中!
実在する新聞記事から着想を得たラブ・ミステリー。キャリアウーマンの由加利(長澤まさみ)は、研究医で面倒見のいい恋人・桔平(高橋一生)と同棲して5年。結婚を考え始めた矢先、桔平が倒れたことで、職業も名前もすべて嘘だったことを知らされる。彼が何者なのかを突き止めるため、私立探偵と共に彼の過去を追っていく由加利。はたして、桔平の正体とは。そして、嘘の理由とは――。
監督:中江和仁 出演:長澤まさみ、高橋一生、DAIGO、川栄李奈、黒木 瞳、吉田鋼太郎 配給:東宝 全国公開中 公式ホームページ
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 石田祥平
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- 上杉美雪(3rd)
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- EDIT&WRITING :
- 佐藤久美子