世界最高峰のバレエ・ダンサーのひとりと謳われるボリショイ・バレエのプリンシパル、スヴェトラーナ・ザハーロワさん。昨年9月に行われた「トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017」では、夫でヴァイオリニストのワディム・レーピンさんと息の合った共演を見せ、日本の観客を大いに沸かせました。そんな、妻であり、そして母でもある彼女にお話をうかがいました。

世界中のファンを虜にする、美人バレエ・ダンサーに聞きました

スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等
スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等

Q.2017年9月の「トランス=シベリア芸術祭 in Japan 2017」では、夫のワディム・レーピンさんと共演の『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』と、日本初演となる3部作『アモーレ』で、観客を沸かせていましたね。

「トランス=シベリア芸術祭」はこれが2度目の開催でしたが、第1回目に上演した『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』が日本の観客の皆さんにも非常に好評だったので、今回は少し内容を変え、さらにブラッシュアップした「バージョン2」としてお届けしました。皆さんの反応が非常によかったことを、本当にうれしく思っています。また、『アモーレ』では、日本のバレエ・ファンからの支持も高いデニス・ロヂキンさん(ボリショイ・バレエ プリンシパル)と一緒に踊る姿をお見せすることもできました。

バレエ・ダンサーとヴァイオリニストが同じ舞台に立ち、ダンスと演奏とで共演するという『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』は、世界でも稀な演目だと思います。夫婦間の愛情ももちろんあり、また、共演するパートナーとしてお互いに敬意も抱いて一緒に舞台に立っています。私自身、踊っていて、他の演目とは比べようのない気持ちになりますね。そして、夫と共演しているというよりは、素晴らしい音楽家の演奏とともに踊っているという感覚があるのです。普段ですと、舞台袖に入って衣装を変えたりしているときはほっと一息ついたりしているのですが、この演目の場合は、袖に入ってもドキドキしながら演奏と聴衆の反応に耳を傾けています。その一方で、舞台上では、言葉や五感を超えた、どこか違う次元で、言葉によらないエネルギーのインフォメーションの交換…そんなやりとりを夫と行なっているような感覚がありますね。

2018年の「トランス=シベリア芸術祭」には残念ながら私は出演しませんが、今、『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』の第3弾を構想しています。この演目は現在、さまざまな楽曲を組み合わせたガラのような構成になっているのですが、次回はひとつの物語仕立ての作品になるかもしれません。時間をかけて創り上げ、日本の皆さんへお見せしたいと思っています。

自身の舞台だけではなく、慈善イベントにも大いに力を入れています 

左から/夫のワディム・レーピンさん、スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等
左から/夫のワディム・レーピンさん、スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等

Q.残念ながら2018年の来日予定はないとのことですが、今年のご予定をお聞かせいただけますか?

ボリショイ・バレエとミラノ・スカラ座での公演が予定されているのと、夏に、スペインとイタリアで『アモーレ』及び『パ・ド・ドゥ for Toes and Fingers』を上演します。また、日本のお隣、韓国でも出演予定があります。『アモーレ』は私がメインになって進めたプロジェクトですが、この第2弾も企画中で、今、世界中の振付家に声をかけ、創作を進めていこうとしているところです。古典作品から現代の振付家のものまで、さまざまな作品を踊っていますが、今はそれが楽しくてしかたがないという感じですね。

3月にはモスクワで、第4回目となる「『スヴェトラーナ』ダンス・フェスティバル」が開催されます。これは私が芸術監督を務めている慈善イベントで、ロシア各地からオーディションによって選ばれた600人ほどの子供たちが、バレエや民族舞踊、現代舞踊などを踊るもの。交通費や滞在費をすべてフェスティバル当局で負担し、チケット代もすべて無料としています。私が踊りで参加することもあり、これもまた、ダンサーとして力を入れていきたいプロジェクトです。

Q.ザハーロワさんにはお子さんがいらっしゃいますが、ダンサーと母親業の両立についてはいかがですか?

「大変ですか?」と聞かれることもありますが、むしろその逆で、とても楽しいです! 家にいると、仕事モードからは完璧に切り替わっていて、娘からもよいエネルギーをたくさんもらえていますね。

スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等
スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等

Q.世界各地を公演で回るお仕事の中で、美や健康をキープする秘訣は?

ダンサーの仕事をしていること自体が体力維持、ダイエットにつながっています。バレエでは感情もすべて出し切りますし、非常に体力を使うので、カロリーに換算したら1回の舞台でどれくらい消費しているのかがわからないくらい。これは、スポーツ選手と同じような感覚だと思います。もちろん、ダンサーといっても生身の人間。コンディションはその日によって異なるので、身体が毎日私の思いどおりに動いてくれるとは限りません。そして、パートナーと踊るときは、相手のそんな変化をも微妙に感じ取って動かなくてはならないのです。手の動きが違うなとか、気持ちの持って行き方が違うなとか、それもまた日々違ってくるので、すべてが計算通りに行くわけではないんですよね。たまに本番と本番の間が空いてしまうことがあり、その間ずっとリハーサルをしていても、やはり本番の感覚が少し失われてしまうので、そのときはドキドキします。ずっと本番が続いていると、非常に気持ちがのった状態で、また次の舞台にも臨むことができていますね。

Q.最後に、日本の観客へのメッセージをお願いします。

ファンの皆さんの前で踊ること、そして、皆さんの幸せそうな顔を見ることがいつも本当に心地よいです。公演後にサインを待っていてくださる方の姿も非常にうれしく、皆さんに愛と敬意を抱いています。大好きな日本で何度も踊っていますから、この国はもはや第2の故郷のような感覚。私たちだけではなく、世界中から日本にやって来て公演を行なうバレエ団の舞台を通じて、皆さんがバレエという芸術への愛をさらに深めてくださったらうれしいです。

スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等
スヴェトラーナ・ザハーロワさん©岩切 等
スヴェトラーナ・ザハーロワさん
ボリショイ・バレエ プリンシパル、ミラノ・スカラ座バレエ エトワール
ウクライナ共和国出身。17歳でマリインスキー・バレエに入団、翌シーズンにはプリンシパルに昇格。2003~04年シーズンにボリショイ・バレエにプリンシパルとして移籍し、2008年からはミラノ・スカラ座バレエでエトワールも務める。ロシアが誇る、世界最高峰のバレエ・ダンサーのひとり。
この記事の執筆者
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WRITING(インタビュー本文) :
藤本真由(舞台評論家)
EDIT: :
難波寛彦