「舞台はしんどい。だけど、自分に向いている」俳優・中村倫也さん
「鬱屈していた20代、舞台出演が生きていく支えだった」
「鬱屈していた20代、舞台出演は僕にとって生きていく支えでした。実力不足ゆえ、ドラマの出演はわずか数シーンの連続。達成感なんて得られるはずもなく、そんなとき抜擢された舞台は、 とても“しんどい”けれど“自分に向いている”。生身でステージに立つことですべてが伝わる怖さはありつつも、会場を巻き込む面白さもあるとわかりました。そして、観終わった人の表情、拍手に込められた思いを、直に受け取ることもできる。出演を重ねるうち、ここが自分の育った場所でありホームであるような気になってくるものです」
中村さんに新天地を開いた舞台経験は、この秋、ミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』が、さらに高みへと導く。演じるのは、音楽家ベートーベン。そこには、ドラマや映画でなじみの甘い声も表情もなく、未体験の領域の歌声と葛藤の表情が披露される予定だ。
「ミュージカル出演はこれまでにもありましたが、今回は低い声から高い声まで幅が求められます。慟哭や叫びなどの場面も多く、それを一本調子にならないよう表現するには、テクニックが必要です。感情を乗せ、そして喉をつぶさないように気をつけながら。僕の声は、鼻にかかって甘ったるく、高音の響きが強いのが特徴です。正直、あまり好きではない…かな。本当はチェストボイス(胸に響くイメージの声)に憧れます。たとえば、トータス松本さん(ウルフルズ)のような」
かつて、役者よりも先に歌手を目指した時期があった。現実は、役者になってから歌うことが後からついてきた。そして今では、歌の力に魅せられている。
「声には威力と支配力、歌には楽器との一体感が求められます」
幼いころ、声で人を感動させることに憧れ、歌うことがいつしか将来の夢になっていた。
「歌は好きだけれど、得意だったわけではありません。小学生のとき、音楽の授業で歌っていたら、みんなから笑い声が起こったこともありました。苦手を克服しようと、高校生のときにボーカル教室に通ったものの、いまだに音感がないと感じることはあります。ただ、仕事として舞台に出ると、上手に気持ちよく歌うだけでは成り立ちません。今回のようなベートーベン役であれば、声にも威力や支配力が求められます。そしてミュージカルとして、音楽との一体感も不可欠。ドラムのリズムをしっかり感じて、そこにほかの楽器がどう乗っているか理解して、そのうえで歌を合わせる。そうして初めて一体感が生まれると思います」
その一体感こそが、中村さんの歌声の優しさと包容力の源泉だ。その声は、やがて聴く人を物語の世界へと引き込んでいく。
「持っている物で向き合い、人の評価は気にしない」
「でも、どう受け取るかは観る人それぞれに委ねます。いい評価もよくない評価もあって当然で、それでも言ってしまえば『僕は知ったこっちゃない』(笑)。それに、太い声に憧れても、自分の根底はそう変わるものでもありません。ないものねだりをしないで、もっているもので向き合うしかないのです」
そう決意を示しながらも「適当にね」と笑顔で付け加える。手を抜くということではない。「適当に」は調和を大事にする繊細な自分の照れ隠し。「知ったこっちゃない」と言いながら、どんな評価も受け止める覚悟はできている。そして冒頭で言った「しんどい」は限界までやる決意の表れ。静かに語る言葉の奥には、大きな矜持を潜ませている。それを揺り起こすのもまた、舞台の力だ。
Precious.jpでは、さらに本誌未公開カット&未公開インタビュー内容を使った、WEBオリジナル記事も公開(10月10日予定)! 引き続きチェックお願いします。
ミュージカル ミュージカル 『ルードヴィヒ~ Beethoven The Piano ~』
2018年末~2019年にかけて、韓国で初演されたミュージカル。世界中誰もが知る天才音楽家であり、聴力を失ってなお音楽への情熱を注ぎ込んだ悲運の人・ベートーベンの生涯を、彼を取り巻く人物たちとの会いと影、喪失そして運命を、彼が綴った音楽とオリジナル楽曲で描く。
【story】残り少ない人生を前に書かれたベートーベンの1通の手紙。
そして、その手紙が一人の女性の元へ届く。
聴力を失い絶望の中、青年ルードヴィヒが死と向き合っていたまさにその夜。
吹きすさぶ嵐の音と共に見知らぬ女性マリーが幼い少年ウォルターを連れて現れる。
マリーは全てが終わったと思っていた彼に、また別の世界の扉を開けて去っていく。
新しい世界で、新たな出会いに向き合おうとするルードヴィヒ。
しかしこの全ては、また新たな悲劇の始まりになるが・・・。
<MUSICAL『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』>
【タイトル】MUSICAL『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』
【出演】中村倫也/木下晴香/木暮真一郎/高畑遼大・大廣アンナ(Wキャスト)/福士誠治
【上演台本・演出】河原雅彦【訳詞】森雪之丞
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
- TEXT :
- Precious.jp編集部