出かける用意は、もうできている!と言わんばかりのパンデミック明けを祝う気分で満ちていた2023年春夏コレクション。 実質的な出入国禁止のあとでの2年ぶりのコレクション取材です。ワクワクしながらも、勘は取り戻せるのかなと一抹の不安も抱えつつ、まるで初めてコレクション取材に行ったときのような興奮とともに出発しました。
パンデミック明けだからこそ、生まれた発想や会場設定など、同じように見えながら、ガラリと変わったコレクション風景に驚くばかり。3回にわたって注目トレンドやブランド、トピックスなどをご紹介したいと思います。

ジバンシィのショーは、庭園が会場に。
「ジバンシィ」のショーは、美しい庭園で開催。

ミラノ、パリなど開催都市ではノーマスクが日常と分かってはいましたが、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた密な会場に足がすくみ、そっとマスクを取り出したりと、日本とヨーロッパとのコロナへの温度差に落ち着かない日々でもありました。 エリザベス女王の国葬と重なり、辞退が相次いだ異例のロンドンコレクションは別として、「Y2K」要素など祝祭ムードあふれるニューヨーク、ミラノ、パリコレクションでは、来春こそは思いきりお洒落して、知らない人とも出逢いたいというウキウキした気分で満載です。
ただ、コロナ禍への意識はあり、リアルなコレクションとはいえ、天井の高い空間で席の間隔を開けたり、地図にも載っていない郊外の引き込み線の廃屋や倉庫、はたまたオープンエアな屋外でのショーが多く、マスクなしでも安心安全?にショーを取材できる環境が整えられているなと実感。ただし、取材する側は、会場から会場への移動時間が半端なく、時間と雨(野外ですし)との戦いで、ヘトヘトに。 「ジバンシィ」のように、傘やカイロを配ってくれるブランドもあって有難い限りでした。

■「暗闇から光へ」というテーマに共感した「ドリス ヴァン ノッテン」

写真はすべてドリスヴァンノッテンより。
写真はすべてドリスヴァンノッテンより。

コレクションは、非日常から日常への移行期であり、足元は固めながら、気持ちは前向きという錯綜する時代感を映し出す内容が多く、心の底から共感。
閉塞感から解放され、希望の光が指してきた、そんな気持ちをコレクションで端的に表現したのがパリの「ドリス ヴァン ノッテン」。「暗闇から光へ」というテーマはまさに今の時代を代弁したものでした。
演出も黒のトータルルックから始まり、次第にペールで穏やかなパステルへ、そして圧巻のカラフルな花柄のレイヤードへと盛り上がる演出にもゲストも大興奮。過去20年間に作られたプリントをベースにしながら、新たなテクニックやセンスを加えたさまざまな花がまさに春爛漫に咲き誇って、新しい時代の大人の花柄の着こなしのお手本になりそう。

■TOPIC1:大人の「進化形デニム」が、熱い視線を集めて

写真/「ディーゼル」のショーは、ダイナミックな演出も大きな話題に。
写真/「ディーゼル」のショーは、ダイナミックな演出も大きな話題に。

大人のデニムとして、熱い視線を浴びているのがミラノの「ディーゼル」。
なんと5千人もの観客を入れたスタジアムで開催、ギネス記録を塗り替えた巨大なインフレータブル・スカルプチャー(風船状のオブジェ)を前に祝祭ムード満点のショーを見せてくれました。
会場に入るまでも、さまざまな年齢層のゲストのスタイリッシュな着こなしに、シャッター音が止まりません。
従来、ダメ—ジデニムなどストリート系のイメージが強いのですが、今季の「ディーゼル」は、デニムを軽やかに、エレガントに大人の雰囲気に仕上げ、モードで着やすい服に仕上げています。

写真左から/ディーゼル、ディーゼル、ミュウミュウ、MM6
左から/ディーゼル、ディーゼル、ミュウミュウ、MM6

たとえば、一見コンサバティブなスーツかと見紛うセットアップも、よく見るとスカートとお揃いのダメージをプリントしたストレッチTシャツと、梯子状に横糸を抜いたデニムのタイトスカートの組み合わせという騙し絵のような驚きの発想。デニムに繊細なシフォンのカモフラージュプリントを合わせ、所々がほつれているという、儚げなディテール使い。虫食いのようなランダムな穴あきは「MM6」でも印象的でした。
ストリートのカジュアルさ、若いエネルギーを感じさせながら、実は、清潔でクリーンな大人仕立ては、ある意味デニムのクチュール風解釈と言って良いでしょう。コートも、女らしいコートドレスにたっぷりした糸抜きのフリンジがヘムラインを縁取って揺れ、ゴージャスな大人にふさわしいデニムの世界を披露しました。ブラウンなど褪せた感じのデニムは「ミュウミュウ」でも見られました。

■TOPIC2:仕立てのいい「テーラードジャケット」は着こなしで刷新

写真左から/アルチュザラ、ステラ マッカートニー、アミ パリス
写真左から/アルチュザラ、ステラ マッカートニー、アミ パリス

メンズライクなテーラードジャケットは根強い人気ですが、着こなしが以前と全く異なるのがポイント。「Y2K」要素に満ちた、キラキラ輝くビスチエや、シアーでヌーディなブラトップなど遊びの多いインナーに、クラシックなジャケットだからこそ羽織るだけでできちんと感を表現できる。今こそ1着は欲しいアイテムになっています。

■TOPIC3:新顔「シアーアウター」は春らしさNo.1

写真左から/プラダ、ディースクエアード、ランバン
写真左から/プラダ、ディースクエアード、ランバン

また新たなトップスとして、透ける素材のジャケットやアウターが登場。こちらも無地から柄物まで豊富なラインナップ。しかも、一枚スタイリングの上に羽織るだけで、この春のモード感は、急上昇します。トレンド感と新鮮さ、そして何より春らしいカラフル感に溢れているところが魅力。
重ね着だけど軽快でエアリー。コーディネートの上に重ねると、春霞のようにふんわりとした優しさが漂うこの春夏に大活躍しそうな「シアーアウター」は注目アイテムです。

「藤岡篤子の2023年トレンド予測」第2回では、注目のトレンドカラーについて解説します。お楽しみに!

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
WRITING :
藤岡篤子