カジュアル上手な鈴木保奈美さんが、注目の島に。大自然に触れて心を満たし、遠い歴史に思いを馳せる…|贅沢カジュアルで、長崎・五島列島へ
紺碧の海に浮かぶ島々が美しい五島列島を、鈴木保奈美さんが旅をしました。自然の恵みに心を満たされ、島に息づく歴史や暮らしぶりに好奇心がそそられて…。都会での着こなしとはひと味違う、解放された贅沢カジュアルが、旅先での豊かなひとときを彩ります。
五島列島――恵みの旅で出合った幸せな時間(文・鈴木保奈美)
島影から太陽が昇り、紅く染まった港から水上タクシーは出て行く。ディーゼルエンジンの音がドッドッと響いて、燃料の重い匂いがする。五島の朝が、始まる。
凪の海を船は進む。ここは日本海だろうか、東シナ海だろうか? そんな自分の疑問が、ふと、くだらなく思える。この海の上に線を引こうだなんて、まったく馬鹿げてる。海は、ただどこまでも海なのだ。
島々はにょっきりと、海面から垂直に立ち上がっていて、その黄色い岩肌には船を着けようがない。てっぺんは濃い緑に覆われていて、トロピカルな南国のようでもあり、どこかの茶室の掛け軸で見た中国の山水画の風景のようでもある。緯度と経度が織りなす不思議なバランス。わたしはいったいどこにいるのだろう?
岬をぐるりと周った後ろに小さな小さな瀬があって、岩にへばりつくように小さな小さな教会が二つある。古いほうは明治時代に禁教令が解かれた頃に建てられて、今は世界遺産になっている。新しいほうは現代の信者が通っているそうだ。
石垣の上で戯れあっていた母猫と二匹の子猫が、ふと桟橋に向かって走り出す。小さな小さな漁船が入ってきた。朝の漁に出掛けて、市場で今日の商売を済ませた漁師が戻ってきたのだ。売れ残りの雑魚が、猫たちの朝食だ。大きなボラが獲れた、と、漁師の陽に焼けた頬が綻んでいる。
彼は二つの教会の間に建つ小さな小さな家に住んでいる。 「どちらにも足を向けられないから、山に足を向けて眠るしかないのさ」とおかしそうに笑う。教会守というわけではないが、周囲の手入れをしているそうだ。毎日夜明け前に起きて、三十分お祈りをして、それから船を出す、と彼は言った。
「おいのり」という言葉が潮の香りと共にするりと出てきて、わたしの胸はちょっと、とくん、と動いた。信仰が、完全に日常の一部になっているのだな、と思った。
五島列島で出会った人々の佇まいがとても丁寧に感じられたのは、その信仰のせいだろうか、自然が濃すぎるせいだろうか。岩の隙間にそっと寄り添うような暮らし方。海と島の恵みを、ちょっとお借りします、とでもいうような。だからこの土地を旅する者も、傲慢に楽しさを追求してはいけない。欲張らずにただ感じて、受け取るだけだ。
西の海を紅く染めて、太陽は異国へ次の朝を届けに行ったようだ。振り返ると満月が輝いている。目を閉じれば、巣に帰る鳥たちの囀さえずりと、虫の声と、岩場に寄せる波の音。土と、草と、家畜の匂い。大丈夫、わたしはちゃんと感じることができている。旅の前よりも敏感に、豊かになっている。呼吸だって少し深くなった。
一時間後に皆既月食が始まる。月が完全に地球の影に入ったら、満天の星が見えるだろう。わたしはちょっぴり泣きたくなって、ありがとうございます、と小さく呟くだろう。
カジュアル上級者が選ぶ冬旅の主役は無造作に着崩すメンズアイテム
子供みたいに思いっきり駆けて…無邪気に戻れるのも旅の醍醐味!
北風を受けながら、自然を満喫するときは、英国王室御用達の称号をもつ「バブアー」のコットンコートを味方に。風雨にも負けない頑強なコートを、オレンジ×ネイビーのタートルニットでチャーミングに着崩して。
ロケをしたのは…「鬼岳」
標高315m。福江島のシンボルとして愛されている鬼岳は、野焼きを行うために、木がほとんど生えていない丸い形が特徴。空気の澄みきった頂上付近は、パノラマのように360度の景観が楽しめ、夜になると満天の星空も望める。天体観測ができる天文台もあり。
※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。
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- PHOTO :
- 浅井佳代子
- STYLIST :
- 犬走比佐乃
- HAIR MAKE :
- 福沢京子
- MODEL :
- 鈴木保奈美
- COOPERATION :
- 長崎県五島市観光協会、五島リトリート ray
- EDIT&WRITING :
- 竹市莉子(HATSU)